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久保建英を超えた(?)三笘薫に、即刻Jリーグ卒業証書を渡したい

杉山茂樹スポーツライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 東京五輪を目指すチーム(日本U-24)が、今月26日と29日にアルゼンチンを招いて親善試合を行う。欧州組(久保建英、中山雄太、堂安律、三好康児、板倉滉など)を招集することは難しそうなので、国内組にとってはまたとないアピールの場となる。

 Jリーグで活躍している選手がその中核を成すのは当然ながら、五輪を目指すチームの活動は1年2ヶ月ぶりで、その間、森保監督をはじめとするチーム首脳陣の評価も、少なからず変化しているはずだ。評価を上げた選手もいれば、下げた選手もいる。

 評価を上げた選手の筆頭は三笘薫で間違いないだろう。五輪チームとして最後の活動となった2020年1月のU-23アジア選手権では招集外。23人のメンバーに三笘の名前はなかった。そのメンバー選考を兼ねたジャマイカ戦(2019年12月)でも、出場したのは後半の途中からで、さらに、その1ヶ月前に行われたコロンビア戦は招集外だった。同年6月に行われたトゥーロン国際(フランス)でも5試合中、先発を飾ったのは、わずか1試合に止まっている。昨年の夏、予定通りに東京五輪が行われていれば、三笘は五輪代表チームから外れていた可能性が高い。

 一方、昨年7月に再開されたJリーグで、三笘は大活躍。ベスト11に選ばれた。皮肉な結果とはこのことだ。もし、三笘のいない日本五輪チームが、五輪を戦っていたら、なぜ彼を選ばなかったのかと、大きな問題になっていただろう。三笘の腕が突如、上がったのか。森保監督に見る目がなかったのか。答えは分かりやすい。

 三笘と森保監督の関係を語る上で、布陣及びポジションも見逃せない点になる。川崎フロンターレでは4-3-3の左ウイングでプレーする三笘だが、森保監督の五輪チームは3-4-2-1だ。左ウイングが存在しない布陣である。三笘はそこで2シャドーの一角としてプレーしていた。サイドか真ん中かと言えば、真ん中で、だ。ドリブラーには不向きなポジションである。森保監督の下で三笘が輝けなかった大きな理由だ。川崎の監督が森保氏だったら、三笘はここまでブレイクしていないだろう。五輪チームでの使われ方を見れば、これまた答えは分かりやすい話になる。

 自分自身が関与していない場所で一躍、ブレイクした三笘を、森保監督はこれからどう使おうとしているのか。布陣は従来通り3-4-2-1の2シャドーなのか。4-3-3や4-2-3-1に変更し、左ウイングとして起用するのか。森保監督と三笘の関係は見物だ。

 東京五輪が予定通り開催されるなら、サッカー競技の決勝は8月7日だ。その直後には欧州の新シーズン(2021-22)が控えている。欧州組の本音はどうなのだろうか。東京五輪が開催され、日本チームが目標に掲げる金メダル獲得を目指せば、欧州組の所属クラブへの合流は遅れる。ポジション争いに支障をきたす可能性が高い。彼らは、五輪出場に高いリスクを抱えて臨むことになる。

 だが、五輪のサッカー競技は、基本的にはアンダーカテゴリーの大会だ。それに、オーバーエイジ枠なる客寄せパンダ的な特例が設けられているため、コンセプトが分かりにくい、真のチャンピオンシップにはほど遠いイベントと化している。自国開催の五輪で金メダルに輝いても、他国から特段、羨ましがられることはない。

 久保を日本の宝だとするなら、様々なリスクを冒してまで招集する必要はあるのか——とは、この欄でかねがね述べてきたことだ。代役はいまをときめく三笘で十分。ついそう言いたくなるが、冷静に考えれば、三笘も五輪の舞台に立たせることが、もったいなく感じられる。

 その実力を持ってすれば、欧州で十分通用する。1日も早く本場の可能な限りよいクラブへ移籍するべし。8月に始まる欧州の新シーズンを現地で迎えよ、と言いたくなる。

 あえて言うならば久保以上。日本ナンバーワン選手。Jリーグ開幕1戦目(横浜Fマリノス戦)、2戦目(セレッソ大阪戦)のプレーを見て、そう確信した。C大阪戦の決勝ゴール(3点目)はその象徴で、あそこまでドリブル&フェイントが切れる選手は、欧州を見渡してもそういない。

 横浜FM戦では、カウンターから右サイドにボールを運び、右ウイング的な抜き方も披露している。右利きのドリブラーは、右サイドでのプレーを苦手にする傾向がある。左サイドを定位置にする三笘もその1人かと思われた。それが、右でもプレーできるとなると市場価値は大きく上がる。

 久保との比較で言えば、縦への推進力が違う。プレーの逞しさ、得点への期待感も、その分だけ上回る。173の久保を三笘が身長で5上回ることも理由の1つだろうが、プレーのスケールが大きく感じられるのだ。

 一方で三笘は、久保より4歳年上だ。大卒プレーヤーという“ハンディ”を抱えていることを忘れてはならない。時間的に余裕がないのだ。のんびりしていると欧州的な市場価値は下がる。Jリーグで2、3年活躍してから欧州へ、では遅いのだ。それでは、チャンピオンズリーグで決勝トーナメントを戦うようなチームに移籍することは難しくなる。2018-19シーズンにスパーズの一員としてCL決勝の舞台を踏んだソン・フンミン、2008-09シーズンにマンチェスター・ユナイテッドの一員としてCL決勝の舞台を踏んだパク・チソンの域には届かなくなる。実力的に足りていたとしても、だ。

 三笘に2年目のジンクスは皆無。開幕して2試合を消化した段階に過ぎないが、すでにJリーグの卒業証書を手渡したい気分でいっぱいだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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