NETFLIXがジブリ21作品を世界約190カ国で配信 ただし日本・アメリカ・カナダを除いて
KNNポール神田です。
NETFLIXにとっては強力なアニメコンテンツの世界市場向けの配信ラインナップとなった。気になるジブリへの契約代金などは公表されていないが、相当な金額での配信料金を支払ったと想像することができよう。何よりも、ジブリ作品が日本以外の全世界へ向けてサブスクで流通されることには大きな意味があるだろう。日本のアニメ全体のイメージ向上につながることは確実だろう。しかも定額サブスクでジブリ作品を見て育つ子供たちが世界中に誕生するのだ。
NETFLIXでは提供されない米国では、ジブリの21作品を『ワーナーメディア』の『HBO Max』でも2020年5月より配信予定である。一番気になるのは、日本では『DVD』等の購入か、レンタルビデオ店舗、『金曜ロードショー(日テレ系)』くらいでしかジブリ作品を視聴できないことだ。それだけDVD他の市場が大きいからこそ、日本ではNETFLIXでは配信されないのだろう。しかし、海外のNETFLIXで、ジブリの作品が21本も視聴できるのに、ジブリの母国の日本では、視聴できないというのは、なんとも辛いところだ。ジブリ作品に多く参画する日テレの出資する『Hulu』でもジブリ作品は視聴できない。
■2020年NETFLIXの制作費は173億ドル(約1兆7,300億円)に!
米Valaety誌(2020年1月16日)発表によると、NETFLIXは、昨年(2019年)の153億ドル(約1兆5,300億円)から増やし、2020年には173億ドル(約1兆7,300億円)を新しいコンテンツに費やす予定だという。
2018年のNETFLIXの売上投資比率を見ても明確なのだが、2018年 NETFLIXの売上は157億ドル(1.57兆円)でコンテンツのコストには99億ドル(9,900億円)をかけた。売上の63%をコンテンツへ再投資しているのだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kandatoshiaki/20190614-00130108/
マーケティングコスト等を加えると130億ドル(1.3兆円)、82%の対売上投資率となる。それが、2019年、2020年と売上に応じて制作コストへと反映させている。赤字にはしないが、利益のほとんどを再投資という米amazonモデルを踏襲しているのだ。
■潤沢なコンテンツ調達費用による世界戦略
NETFLIXの最大の特徴は、世界をマーケットとしながら、各国のローカルコンテンツを取り上げているいるところだ。日本でも独自に、80年代の日本のAV界を描いた『全裸監督』から、国民的アイドルグループ『嵐』のドキュメンタリーシリーズを配信する。ハリウッド映画が、全世界共通の統一の価値観で巨大な市場を狙い、映画興行とDVDそしてストリーミングでの時間差をビジネスにするところへ、NETFLIXでは、最初から全世界へ最初からストリーミングで展開する。しかも40分〜60分で10回のシーズン化でトライする。しかも、いろんな国からのコンテンツを世界に向けて多カ国語やサブタイトルで提供する。さらに、18歳禁止のレイティングや、ドラッグや暴力などのタブーの領域も、DisneyやAppleが決して手を出さない分野を果敢に攻める。『Apple+』や『Disney+』が参入したが、NETFLIXを解約する動きは見えにくい…。特に、『Apple+』の場合は、Apple製品を購入すると1年間のサブスクリプションというおまけ要素があるので『Amazon Prime』同様にNETFLIXのライバルとは想定しづらくなっている。
仏リュミエール兄弟が、1895年に映画興行を行ってから基本的な映画の興行スタイルは125年間、何も変化していないが、NETFLIXは、全世界での有料定額サブスクリプションで、映画館のスクリーン以外で視聴されているという意味では『映画』とはまったく別物の映像コンテンツとして考える必要があるだろう。
広告も入らない(ブランド提携ははじまったが…)、視聴経験に応じてレコメンドできる仕組みも持っている。どんな作品がどの国でどの年代、どの性別に受けるのかの情報もすべて保持できているのが強みだ。
BurgerKingのStranger Thingsのプロモーション
■NETFLIXがジブリ作品を海外で配信する理由
NETFLIXにとって、今や最大の課題は、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域や南米(LATAM)地域の有料会員に見たことのない良質な作品を届けることだ。その中で日本のジブリ作品というサブタイトルや吹き替えで対応できるコンテンツは、最大の効果を得ることができるだろう。ジブリ側にとっても、過去のコンテンツをマーケティングコストをかけてまで進出するよりはストリーミングのガリバーと組んだ方がメリットがある。しかも、日本、アメリカ、カナダの金のなる市場は侵食されない。
NETFLIX側がオリジナル作品を製作するだけでなく、ジブリの映画興行という中での機会損失であった市場に対して効率的な配信を提供でき、配信のライセンス契約だけでなく、視聴回数に応じた契約もおそらく交わされているからこそ、ジブリにとってもNETFLIXにとっても、良い機会となりえるだろう。
コンテンツ市場においての最大の悩みは、中国市場だろう。世界ナンバーワンの人口を誇りながらも、米国企業が参入できない問題。それと同時に違法コピーコンテンツがストリーミングで自由に視聴できてしまっている現状だろう。Android TV端末などでは、違法ながら『美国(アメリカ)』チャンネルが無料で、しかも中国語のキャプションつきで自由に視聴できる状況に現在でもある。NETFLIXのオリジナルも存分に視聴できてしまっている。中国で大量に消費されながらも売上が発生しない状況は世界のコンテンツクリエイションの問題である。
しかし、世界ナンバー2の人口のインドにおいては月額312円からの低価格のプランから『ボリウッド』というカテゴリーで明確にラインナップを増やしている。ある意味、世界のいろんなコンテンツを視聴できるというのがNETFLIXの最大の特徴なのかもしれない。