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NETFLIXがジブリ21作品を世界約190カ国で配信 ただし日本・アメリカ・カナダを除いて

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

□米動画配信大手ネットフリックスが(2020年1月)21日発表した2019年10~12月期決算は、売上高が前年同期比31%増の54億6743万ドル(約6千億円)、純利益が4.4倍の5億8697万ドルと増収増益だった。北米以外の地域中心に加入者が増え、収益が拡大した。

□世界の有料加入者数は昨年12月末時点で1億6709万人。9月末から876万人増え、市場予想を上回った。ドラマ「ザ・クラウン」の新作などが人気だった。

出典:ネットフリックス増収増益 動画配信、加入者1億6千万人超

□米ネットフリックスは(2020年)2月から4月にかけて順次、「となりのトトロ」などスタジオジブリ(東京都小金井市)の21作品を日本と米国、カナダを除く世界約190カ国で配信する。

□フランスの配給会社、ワイルドバンチ・インターナショナルからジブリ作品の日本と米国、カナダを除く世界での配信権を獲得した。2月1日には「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」など7作品、3月1日には「もののけ姫」など7作品、4月1日には「ハウルの動く城」など7作品を配信する。

□ジブリ作品を巡っては米国ではAT&T傘下のワーナーメディアが5月に始める動画配信サービスの目玉の一つとして「千と千尋の神隠し」など21作品を配信するが、日本では現在、動画配信はしていない。

出典:Netflix、2月からジブリ作品を世界配信 日本・北米除く

NETFLIXにとっては強力なアニメコンテンツの世界市場向けの配信ラインナップとなった。気になるジブリへの契約代金などは公表されていないが、相当な金額での配信料金を支払ったと想像することができよう。何よりも、ジブリ作品が日本以外の全世界へ向けてサブスクで流通されることには大きな意味があるだろう。日本のアニメ全体のイメージ向上につながることは確実だろう。しかも定額サブスクでジブリ作品を見て育つ子供たちが世界中に誕生するのだ。

ジブリ作品がライナップされているHBO Max 出典:HBO Max
ジブリ作品がライナップされているHBO Max 出典:HBO Max

NETFLIXでは提供されない米国では、ジブリの21作品を『ワーナーメディア』の『HBO Max』でも2020年5月より配信予定である。一番気になるのは、日本では『DVD』等の購入か、レンタルビデオ店舗、『金曜ロードショー(日テレ系)』くらいでしかジブリ作品を視聴できないことだ。それだけDVD他の市場が大きいからこそ、日本ではNETFLIXでは配信されないのだろう。しかし、海外のNETFLIXで、ジブリの作品が21本も視聴できるのに、ジブリの母国の日本では、視聴できないというのは、なんとも辛いところだ。ジブリ作品に多く参画する日テレの出資する『Hulu』でもジブリ作品は視聴できない。

■2020年NETFLIXの制作費は173億ドル(約1兆7,300億円)に!

2019年のNETFLIXのコンテンツ投資はハリウッドにひけをとらない 出典:Variety
2019年のNETFLIXのコンテンツ投資はハリウッドにひけをとらない 出典:Variety

米Valaety誌(2020年1月16日)発表によると、NETFLIXは、昨年(2019年)の153億ドル(約1兆5,300億円)から増やし、2020年には173億ドル(約1兆7,300億円)を新しいコンテンツに費やす予定だという。

NETFLIXの売上構成比 出典:KNN
NETFLIXの売上構成比 出典:KNN

2018年のNETFLIXの売上投資比率を見ても明確なのだが、2018年 NETFLIXの売上は157億ドル(1.57兆円)でコンテンツのコストには99億ドル(9,900億円)をかけた。売上の63%をコンテンツへ再投資しているのだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kandatoshiaki/20190614-00130108/

マーケティングコスト等を加えると130億ドル(1.3兆円)、82%の対売上投資率となる。それが、2019年、2020年と売上に応じて制作コストへと反映させている。赤字にはしないが、利益のほとんどを再投資という米amazonモデルを踏襲しているのだ。

■潤沢なコンテンツ調達費用による世界戦略

米国以外のストリーミング売上が53%と半数を超えている 出典:NETFLIX
米国以外のストリーミング売上が53%と半数を超えている 出典:NETFLIX

https://s22.q4cdn.com/959853165/files/doc_financials/quarterly_reports/2019/q3/FINAL-Q3-19-Shareholder-Letter.pdf

NETFLIXの最大の特徴は、世界をマーケットとしながら、各国のローカルコンテンツを取り上げているいるところだ。日本でも独自に、80年代の日本のAV界を描いた『全裸監督』から、国民的アイドルグループ『嵐』のドキュメンタリーシリーズを配信する。ハリウッド映画が、全世界共通の統一の価値観で巨大な市場を狙い、映画興行とDVDそしてストリーミングでの時間差をビジネスにするところへ、NETFLIXでは、最初から全世界へ最初からストリーミングで展開する。しかも40分〜60分で10回のシーズン化でトライする。しかも、いろんな国からのコンテンツを世界に向けて多カ国語やサブタイトルで提供する。さらに、18歳禁止のレイティングや、ドラッグや暴力などのタブーの領域も、DisneyやAppleが決して手を出さない分野を果敢に攻める。『Apple+』や『Disney+』が参入したが、NETFLIXを解約する動きは見えにくい…。特に、『Apple+』の場合は、Apple製品を購入すると1年間のサブスクリプションというおまけ要素があるので『Amazon Prime』同様にNETFLIXのライバルとは想定しづらくなっている。

リュミエール兄弟が、1895年に映画興行を行ってから基本的な映画の興行スタイルは125年間、何も変化していないが、NETFLIXは、全世界での有料定額サブスクリプションで、映画館のスクリーン以外で視聴されているという意味では『映画』とはまったく別物の映像コンテンツとして考える必要があるだろう。

広告も入らない(ブランド提携ははじまったが…)、視聴経験に応じてレコメンドできる仕組みも持っている。どんな作品がどの国でどの年代、どの性別に受けるのかの情報もすべて保持できているのが強みだ。

BurgerKingのStranger Thingsのプロモーション

■NETFLIXがジブリ作品を海外で配信する理由

□Netflixによれば、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域の有料会員数は、2019年9月末の時点で4740万人となっている。UCAN地域(アメリカ、カナダの北米)の6,710万人より少ないが、前年同期比で見ると、EMEA地域が40%増という大きな伸びを示した。UCAN地域は6.5%増にとどまっている。

□南米(LATAM)地域は第3位の市場で、会員数は前年同期比で22%増加し、2940万人となった。アジア太平洋(APAC)地域は会員数が1450万人と最も規模が小さいが、53%という高い伸び率を記録している。

□UCAN地域は会員1人あたりの売り上げが最も高い地域でもあり、有料会員1人につき毎月平均13.08ドル(約1400円)を稼ぎ出している。EMEA地域は10.40ドル(約1100円)、LATAM地域は8.63ドル(約950円)、APAC地域は9.29ドル(約1020円)だった。

出典:Netflix、地域ごとの会員数などのデータを明らかに

NETFLIXにとって、今や最大の課題は、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域や南米(LATAM)地域の有料会員に見たことのない良質な作品を届けることだ。その中で日本のジブリ作品というサブタイトルや吹き替えで対応できるコンテンツは、最大の効果を得ることができるだろう。ジブリ側にとっても、過去のコンテンツをマーケティングコストをかけてまで進出するよりはストリーミングのガリバーと組んだ方がメリットがある。しかも、日本、アメリカ、カナダの金のなる市場は侵食されない。

NETFLIX側がオリジナル作品を製作するだけでなく、ジブリの映画興行という中での機会損失であった市場に対して効率的な配信を提供でき、配信のライセンス契約だけでなく、視聴回数に応じた契約もおそらく交わされているからこそ、ジブリにとってもNETFLIXにとっても、良い機会となりえるだろう。

中国ではNETFLIXのサービスが提供されていない…にもかかわらず… 出典:NETFLIX
中国ではNETFLIXのサービスが提供されていない…にもかかわらず… 出典:NETFLIX

□ストリーミング視聴のみのプランをご利用のメンバーの方は、190以上の国々ですぐに映画やドラマを視聴することができます。ストリーミング視聴が可能なコンテンツは、場所によって異なることがあり、また随時変更されます。

□Netflixはまだ中国ではご利用いただけませんが、Netflixのサービスを提供できるよう、今後も引き続き尽力いたします。また、米国政府によって米国企業の活動が制限されているため、クリミア、北朝鮮、シリアでもご利用いただけません。

出典:Netflixはどこで視聴できますか?

コンテンツ市場においての最大の悩みは、中国市場だろう。世界ナンバーワンの人口を誇りながらも、米国企業が参入できない問題。それと同時に違法コピーコンテンツがストリーミングで自由に視聴できてしまっている現状だろう。Android TV端末などでは、違法ながら『美国(アメリカ)』チャンネルが無料で、しかも中国語のキャプションつきで自由に視聴できる状況に現在でもある。NETFLIXのオリジナルも存分に視聴できてしまっている。中国で大量に消費されながらも売上が発生しない状況は世界のコンテンツクリエイションの問題である。

しかし、世界ナンバー2の人口のインドにおいては月額312円からの低価格のプランから『ボリウッド』というカテゴリーで明確にラインナップを増やしている。ある意味、世界のいろんなコンテンツを視聴できるというのがNETFLIXの最大の特徴なのかもしれない。

日本でも視聴できるボリウッドコンテンツ 出典:NETFLIX
日本でも視聴できるボリウッドコンテンツ 出典:NETFLIX
ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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