2019年夏『ネットフリックス』売上157億ドルが1379億ドルの世界ゲーム市場へ参入するメリット
KNNポール神田です。
■NETFLIXを取り囲む市場環境
メディア業界にとって、2019年は存続をかけた新たな歴史のはじまる年となりそうだ。まずは、NETFLIXが一人勝ちのストリーミング映像市場に、DisneyとAppleが参入してくるからだ。Disneyは21世紀FOXを2019年3月20日に713億ドル(7.1兆円)で買収を完了した。
Disneyにはテレビに強いHulu(Disney70%所有)やMLBのストリーミングBAMtechやESPN+などがあり、2019年秋、11月にストリーミング事業の『Disney+』を仕掛けてくる。Appleは『Apple+』でトライする(予算規模は10億ドル)。
2018年のNETFLIXの売上は157億ドル(1.57兆円)でコンテンツのコストには99億ドル(9900億円)をかけている。マーケティングコスト等を加えると130億ドル(1.3兆円)となる。当然、有利子負債も100億ドルと累積してはいるが、安定したサブスクリプション収入を再投資に循環させている。2019年、有料ユーザーは世界で1.5億人、10ドル(1,000円)の月額とすると、月額15億ドル(1500億円)年間180億ドル(1.8兆円)となる。
■NETFLIXビジネスモデルの変革
NETFLIXのビジネスモデルのスタートは、1997年、郵送によるレンタルDVDであった。2004年よりストリーミングを構想し、2007年より郵送ではなく、ストリーミングによるビジネスモデルを開始する。
物理的なレンタルDVDは必ず仕入れが発生し、誰かが借りている間には、他者には貸せない機会損失が発生する。そして、人気タイトルは重複して仕入れておき、人気下落と同時にタイトルを手放すという商品サイクルを歩むが、ストリーミングモデルはまったく変わる。サーバー料金やテクノロジーコストは膨大だが、DVDを重複して仕入れるということはなくなり、品切れで、貸せないという機会損失がゼロとなる。人気タイトルであっても、ネットの帯域さえ確保できれば無限に貸出することができる。そして一番の変化が、コンテンツは、デジタル版がたったひとつあればよいことだ。DVDのタイトルはたとえ包括契約といえども、一枚あたりいくらで仕入れることとなるが、ストリーミングは一枚あたりではなく、一再生あたりいくらという契約となった。さらに、定額サブスクリプションで見放題とかなるといくら…。半分以下で視聴を辞めた場合はいくら…という多彩な契約内容となる。
同時に映画コンテンツの権利者側ですらわからなかった映画視聴脱落率というデータをNETFLIXは取れることとなる。
また、映画を仕入れる立場であったNETFLIXが、すべて自社で製作できれば、ライセンスフィーがかからなくなることを意識しはじめる。2013年には『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を製作し、ストリーミングコンテンツによるビジネスモデルを実施する。2015年にはストリーミング収入率が60%を超えると、映画を仕入れるコストよりも、自主製作するコストにかけた方が安く大量に製作でき、映画会社の作品のようなプロデューサーの意見集約型ではなく、視聴履歴にもとづいたデータ集約型の作品製作が可能となる。また、映画よりも時間は短いが12〜13シークエンスで1エピソードを形成するテレビドラマシリーズの『エピソード』ごとに公開する手法でNETFLIX オリジナルの人気を博する。2017年にはアメコミの『ミラーワールド』を買収し、2018年にはアカデミー賞受賞作品が登場し、2019年には、日本のアニメ製作会社とも作品ごとの契約ではなく、『包括的業務提携』で数年にわたりNETFLIXのために製作することが決定している。
つまり、プラットフォーマーだけではなく、映画会社として、さらに原作を持っている強みのあるコンテンツ会社へと変化している。
■ゲーム市場は、ネットフリックスの『原作』の世界観を拡張させてくれるメディア
2018年世界のゲーム市場は1379億ドル(13兆円)で22億人ユーザー。 51%はモバイルゲーム。アジアのみで714億ドル(7兆円) 2021年には1801億ドル(18兆円)へと拡大する(newzoo調べ)。
また、今後10年でユーザーは40億人(2028年)になると予測される。現在のゲーム市場の1379億ドルは、映画&DVD市場968億ドルの1.5倍、音楽市場191億ドルの7倍に成長している。
NETFLIXの売上は157億ドル、8.7倍の大きさのゲーム市場は、本編の原作の楽しみ方を見つける新たなスピンアウトとしてのインタラクティブな『シーズン』となる。NETFLIXにとっては、今回は製作ではなくキャラクターのライセンスにとどまるという。
NETFLIXのゲーム参入は、ゲーム課金というよりも、ネットフリックス発生のコンテンツの『原作』を拡大させるメディアになることだろう。NETFLIXは、2019年7月4日から始まる『Stranger thigs』のエピソード3に合わせてスマートフォンゲームを配信する。映画をイッキ見するだけでなく、映画の世界をスマートフォンでも自分が主体となってトレースする体験ができることによって、NETFLIXの世界の中で回遊するきっかけとなるだろう。人気のゲームフォーマットの法則性を発明できればすぐにいろんな作品で対応させることも可能だ。テレビ映画というフォーマットになったオリジナルな『原作』が自由に使えるという意味では、ポジションは、きわめてDisneyに近い…。
一方、Disneyは、スクエニHDと2017年に傘下のマーベルとゲーム開発で提携しており、「アベンジャーズ」でゲーム参入する。ゲームはスクエニHD傘下のクリスタル・ダイナミックスが開発し、11月から始まる米Googleのクラウドゲームサービス「Stadia」にも対応する。Chromeのブラウザがあればいろんなデバイスで楽しむことができる価格は未定だ。強力な映画キャラクターをゲームに使えるだけでもかなりのアドバンテージがあることだろう。
GAFAの世界に、サブスクリプションモデルが実装され、ストリーミング映像の競合と同時に、ゲーム市場の競合も登場する。巨大なメディアのビジネスモデルの変遷が2019年、新たな火蓋を切る…。5G時代を迎え、スマートフォンでの大変遷も同時にはじまる。