ノート(69) 最悪だった総連事件の捜査態勢とその主任
~達観編(19)
勾留23日目(続)
常套手段
総連事件に対する捜査応援に入った時には、既に「検察ストーリー」の大幅な書き換えが行われた後だった。朝鮮総連側の資産隠しに伴う強制執行妨害事件ではなく、元検事長らが総連側をだました詐欺事件と構成し直すというものだ。
被疑者として、元検事長、元不動産会社社長のほか、取引のスキームを考案した元銀行員が挙げられた。このうち、元検事長は検察による独自捜査のノウハウなどを知り尽くしていたし、元不動産会社社長も過去に自らの強制執行妨害事件で逮捕・有罪となった経緯があり、取調べを受けることに慣れていた。
また、彼らは、長年にわたって様々な不動産取引などに共に関与しており、蜜月の関係となっていた。その一つが、不動産業界でも特に有名な、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)していた「六本木TSKビル」の地上げ話だった。
そこで、内偵段階では、元検事長らと人間関係が希薄で、捜査当局の取調べを受けるのも初めてで、最も耐性が弱かった元銀行員に捜査の力点が置かれた。
すなわち、その頭をなでつつ、検察の意に沿った供述を引き出し、これを証拠物や周辺関係者の供述で固めるといったやり方で、元検事長らの逮捕に向けた「検察ストーリー」の肉付けが進められたわけだ。共犯事件に対する特捜部の捜査では、一種の常套手段とも言える。
響き渡る怒声
ただ、必ずしもそうした内偵捜査が順調に進んでいたわけではなかった。連日夜、その日の捜査を終えると、2班担当の副部長、キャップ、10数名の捜査メンバー全員が特捜部のフロアにある「窓なし部屋」、すなわち建物内側に設置された窓のない部屋に集まり、会議テーブルを囲んで「ミーティング」と呼ばれる捜査会議を行っていた。
本来、会議は、参加者がプラス・マイナスを問わず情報を出し尽くし、年次に関わりなく忌憚のない意見を交わし、叡智を集めて問題点を検討し、時には大胆な軌道修正や勇気ある撤退も視野に入れて行われるべきものだ。しかし、総連事件の場合、常に重苦しい空気が室内を支配していた。
この記事は有料です。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバーをお申し込みください。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバー 2017年11月
税込1,100円(記事3本)
2017年11月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。