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日本の漁網技術が、メジャーリーグのファンを守る。

谷口輝世子スポーツライター
パドレスのペトコパーク 撮影谷口輝世子

 メジャーリーグでは全30球団が、今季開幕までに防球ネットを拡大すると発表した。

 メジャーリーグ球場では、これまではバックネット部分のみネットが張られていた。しかし、ここ数年、客席に飛び込んだファウルボールで観客がケガをする事故がクローズアップされ、メジャーリーグ機構や観客の安全に対する意識が大きく変化していた。

 防球ネットが拡張されることで、ファウルボールや折れたバットが観客に当たることは減る。一方で、ネットがあると、試合が見にくくなるのでは、という懸念の声もあった。

 そのような懸念に応えているのが日本の漁網製作会社だ。漁網の開発などをしているニチモウ社の技術が防球ネットに活用され、メジャーリーグ30球場のうち、20球場で使われている。この防球ネットは見やすさを維持するため、結び目がないのが特徴で、そこに、漁網製作の技術が使われている。

 

結び目がなく、細いネット 撮影 谷口輝世子
結び目がなく、細いネット 撮影 谷口輝世子

 かつての漁網は、網の結び目(結節)があることによっていくつかの問題を抱えていた。繊維の強度が弱まること、潮流の抵抗を受けやすいこと、網の重量が重くなること、網目の大きさが変わりやすくなること、魚が傷つきやすくなること。これらを解消するために結び目のないネットが開発されたという。

 この結び目のない漁網の技術を、米国のスポーツ設備の会社が「見やすい防球ネットになるのでは」と注目し、メジャーリーグの防球ネットとして使われるようになった。

 ネットそのものは約1.2ミリメートルと細く、色はグレーと緑が混じったよう。色などはニチモウ社の子会社であるNET Systemsが独自に開発したものだ。

 今季から牧田投手が加入したサンディエゴパドレスの本拠地、ペトコパークでは、一、三塁側とも大幅にネットが拡張された。これまではダグアウト付近までだったものが、内野手と外野手の守備位置の中間あたりまで伸びた。高さは7.3メートルほどで、右翼、左翼のポールに近づくにつれてネットを低くしている。

 開門すると、ファンたちはネットが途切れている外野のフェンス際に集まり、練習を終えてベンチに引き上げる選手に声をかけ、サインをもらおうとしていた。ポール際まで完全に覆っていないので、選手と触れ合えるスペースも残っている。

 試合が始まると、大きな弧を描いたファウルボールは、防球ネットを飛び越えて観客席に入り、角度の鋭いものは、防球ネットに当たっていた。

 ペトコパークを訪れていたデイブさんは「防球ネットは観戦の妨げにはならない。ふだん、リトルリーグの球場でネット越しに野球を見ているし、この球場のネットのほうがリトルリーグよりずいぶんと見やすいよ」と話す。

 スコットさんは「ネットを拡張するというのは理解できる。でも、私は古いタイプのファン。スマートフォンや電話なんかを見ていないで、試合をちゃんと見ていれば、と思うよ」という意見だった。

 観客席には賛否両論あるようだった。ただ、ペトコパークのネットを見る限りでは、観客の安全、これまでのように選手と触れ合えるスペース、見やすさの3つの要素を並立させようという努力があったことがうかがえた。

  

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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