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『名探偵コナン』が祝100巻!「見た目は小学生、頭脳は大人」の真実を推理してみた。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

祝!『名探偵コナン』コミックス100巻発売!

週刊少年サンデーでの連載開始は1994年というから、実に27年間も続いているすごいマンガだが、オモシロイのは「高校2年生が小学1年生の体になってしまった」という設定だ。

高2から小1になったということは、10歳若返ったわけで、それから27年経ったらコナンくんは34歳……ではなくて、作中の彼はいまも小1のまま活躍中! コミックス100冊に収録されているお話は、1年間のできごとなのだ。いろいろな意味で、すごいマンガです、これ。

物語は、高校2年生の工藤新一が、悪の組織に「アポトキシン4869」という薬を飲まされるところから始まる。

それにより、小学1年生の体になった新一は、その事実を隠し、江戸川コナンとして生きようと決意する。自分が生きていることが悪の組織に知られれば、毛利蘭ちゃんをはじめ、周りの人たちに危害が及ぶかもしれないからだ。

コナンくんの推理は冴えに冴え、彼の周囲にはさまざまなキャラも集まってきて、魅惑の『コナン』世界が描かれ続けているが、ここでは根本的な問題を考えてみたい。10歳も若返る、なんてことが起こり得るのだろうか?

◆若返りは実現できるか?

生物の成長は「不可逆現象」である。時間の経過とともに子どもは大人になる、という流れを逆転させることはできない。

――と思ったのだが、調べてみると、医学では「リンパ球幼若化検査」という検査が行われているという。リンパ球も古くなると、この免疫機能を失うが、ある薬品を投与すると免疫機能を取り戻すというのだ。体の一部の細胞とはいえ、これは明らかな若返りといえる。

このような事例を考えると、新一 ⇒ コナンのような若返りの可能性もゼロとはいえないかもしれない。

「アポトキシン4869」という薬品は、『名探偵コナン大事典』(小学館)において、こう説明されている。

「細胞の自己破壊プログラムの偶発的な作用により、神経組織を除いた骨格、筋肉、内臓、体毛のすべての細胞を、幼児期のころにまで後退化させる」。

細胞の自己破壊プログラムは現実でも確認されている現象で、その名も「アポトーシス」と呼ばれる。

生物の細胞は、一定の時間がくると急に縮んで、細胞の核がバラバラになって死んでいく。これは悲しむべき現象ではなく、生物の成長に不可欠のものだ。

たとえば、オタマジャクシがカエルになると、シッポがなくなる。人間も胎内の赤ちゃんは、初めはシッポがあり、手のひらに水かきがついているが、生まれるまでに消失する。これらは、アポトーシスのおかげだ。

ここから考えると、アポトキシン4869は、おそらく次のような二つの働きをする薬なのだろう。

①体を作る細胞の一部をアポトーシスで消失させる(それによって、体が小さくなる)。

②リンパ球幼若化検査で使われる薬のように、残りの細胞を若返らせる(それにより、高2の新一が小1に若返る)。

高2男子の平均体重は62.6kg、小1男子が21.6kgだ。新一の体重が平均と同じだったとすると、彼の体を作る細胞のうち、41kgがアポトーシスを起こし、残りの21.6kgが若返った……のだと思われる。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆小1ライフを満喫しよう!

小さくなった新一は、江戸川コナンと名乗って、帝丹小学校1年B組の生徒になった。本当は高校2年生なのに、小学1年生として生きる――。それはどういう日常だろうか。

たとえば、小学1年生の国語のテストでは、こんな問題が出る。

つぎの ことばを カタカナで かきなさい。

とんねる(       )

楽勝だあ! などと喜んでいる場合ではない。テストがこれなら、授業もこのレベルということだ。一日中、知っている話のオンパレード。

だからといって、どんなに退屈でも居眠りはできない。授業中に寝ているのにテストがいつも100点だったら「あの小学校には天才がいる」などと噂になり、それをキッカケに正体がバレて、蘭ちゃんの身に危険が迫る恐れがあるからだ。

新一はとても退屈な授業を、純真な瞳を輝かせて聞く、という難しい演技に徹さなければならない。モノスゴク気の毒である。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆時間が経つとどうなる?

新一も、こんな状況は1日も早く脱却して、元の姿に戻りたいに違いない。だが、元に戻りさえすれば幸せになれるとは限らないのが悩ましいところだ。

元の姿に戻るには、アポトキシン4869の秘密を解き明かさなければならないが、問題はその日がいつ訪れるか……。

たとえば、5年後だとしよう。

そのときコナンくんは12歳、蘭ちゃんは22歳になっている。もし、高校2年生に戻るのなら、新一は蘭ちゃんの5歳年下となって人生を再スタートさせることになる。

かといって蘭ちゃんと同い年の22歳になるのだとしたら、新一の人生には17歳から22歳という青春真っ盛りの5年間がスッポリと抜け落ちてしまう。高校卒業や、成人式や、その他ムニャムニャの甘酸っぱい経験が一切なし。これはこれで気の毒だ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

若返りはこういう悲劇を呼ぶ。よってコナンくんには早く元の姿に戻ってほしいのだが、それはたぶん『名探偵コナン』の連載が終わってしまうことにも直結してしまう……。ヒジョ~に悩ましい。

ファンとしては、作品内の時間経過問題は1日も早く解決し、現実の時間としては1日でも長く続いてほしいと願う。コナンくん、この難問をなんとか解決してくれ!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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