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【派遣法】公明党議員も派遣労働の固定化を防ぎたいと思っているようだ(公明新聞より)

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
国会議事堂(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

公明新聞にこんな記事が載っていました。

非正規の育休取得促せ

8月11日に行われた参議院厚生労働委員会での派遣法案の審議で、公明党の長沢広明議員がした質問を報じたものです。

派遣労働者の育休取得についての質問

まず、

長沢氏は、派遣労働を含む非正規労働の女性が育児休業を利用して就業を継続している割合が正社員の10分の1以下と低い現状であることを指摘。「女性が安心して働ける環境を整備すべきだ」と主張し、派遣労働者の育休取得の促進を訴えた。

出典:非正規の育休取得促せ | ニュース | 公明党

とあります。

質問(というか、主張)の内容自体は賛同できます。

しかし、派遣労働者の育休取得が難しい根本的な理由は派遣労働者の地位が不安定であるため、権利を主張したり、行使したりしにくいことに元凶があります。

となれば、本来、派遣労働者が権利を行使しやすい方向で改正を促すのがこの質問(主張)の筋に沿ったものとなるはずですが、今回の改正法案にはそんな内容はありません。

厚労省側の回答も「非正規雇用でも育休を使えることを周知徹底し、育休取得の促進に向け、育児・介護休業法改正の議論を加速化させていく」というもので、特に法制度を変更する気がないことを示しています。

本来なら、この点をさらに突っ込んでほしいところでしたが、このやり取りに関して記事の記載はここで終わっているので、長沢議員はこの説明に納得されたのでしょう。

なお、派遣法案と女性労働者の関係については2度目の派遣法案が出された際に投稿した下記記事に少し書いたのでご覧ください。

ハケンとマタハラ、混ぜるともっとキケン!~派遣法改正案は女性労働者の敵

不本意に派遣労働を選択している若者についての質問

次に、

また長沢氏は、不本意な形で派遣労働を選択している若者について「正社員化を希望し、努力しているならば政府としてその道筋を示すべきだ」と訴えた。

出典:同前

とあります。

これまた質問(というか、主張)の内容自体には賛同できます。

ところが、これに対する山本香苗厚労副大臣(公明党)の答弁は

派遣法改正案では派遣元(派遣会社)に派遣先への直接雇用依頼を義務付けていることに触れ、「派遣先での直接雇用の実績が派遣会社を選ぶ判断基準の一つになる」と述べ、派遣元にも正社員化のメリットがあることを強調。その上で、派遣労働者の正社員化を促すキャリアアップ助成金の拡充などで派遣元、派遣先の双方が取り組みを強めていくように後押しすると述べた。

出典:同前

というにとどまっています。

まず、この派遣元への「義務付け」が実効性がないことは既に多方面から指摘されているところです。

つまり、派遣元に直接雇用「依頼」を義務づけても、派遣先が直接雇用を断る自由は何一つ制限されていませんので、意味がありません。

要するに、

派遣元「うちの派遣社員を直接雇用して下さい! <m(__)m>」

派遣先「無理です。 (-_-;)」

派遣元「そですか。残念です! (>_<)

(とはいえ、これで義務は果たしたわけだからな。(-。-)y-゜゜゜)」

↑こういうことです。

また、「派遣先での直接雇用の実績が派遣会社を選ぶ判断基準の一つになる」とも述べていますが、派遣先の一存で左右される直接雇用の実績なので、この直接雇用の実績を掲げて派遣社員を集めるのは、むしろ不確定な見通しを掲げて人集めをしているわけで、問題があると思うのですが、副大臣はあまりそういう発想がないのが、逆に怖い答弁です。

キャリアアップ助成金の拡充は、これは既にある助成金の話をしているので、今回の法案とは直接関係ない話です(言ってみれば、これの拡充によって直接雇用化が進むのなら現行法でもできるでしょ、という話です)。

長沢氏は労働問題に対処するために「派遣労働者への労働関係法令などの教育が重要だ」と訴えた。

出典:同前

これも、その通りの質問(主張)で、賛同できますが、その答えが、「派遣元責任者向けの講習を充実」なので、それほど今までのやり方と変わらないという回答になっています。

長沢議員最後の念押し質問と塩崎大臣答弁の空虚さ

最後に長沢議員は、

派遣労働の固定化を防ぎ、正社員化への道を開くなど派遣労働改善に向けた認識をただした

出典:同前

とあります。

これも大変重要な指摘で、与党である公明党所属の長沢議員も、派遣労働の固定化を防ぎたいとの認識を持っており、「正社員化への道を開く」ことが派遣労働の「改善」であると考えていることが分かります。

ところが、これに対し、塩崎大臣は、

希望や夢を達成するための多様な働き方が必要との認識を示した上で、「不本意な非正規雇用は避けなければならない。可能性を開くため、育児休業の利用改善など条件整備を行い、派遣労働者の保護を図りたい」と述べ、同法改正の必要性を強調した

出典:同前

とあるのですが、長沢議員もずっこけてしまったのではないかと心配したくなるくらい中身のない答弁です。

そもそも、今回の派遣法案は労働者が選択権を持つ「多様な働き方」には寄与しません。

むしろ、派遣社員の席が増加し、正社員の席が減るという意味では、多様性はマイナスになります。

他方、使用者側が選択権を持つ「多様な働かせ方」においては大きく寄与するでしょう。

正社員じゃなくて派遣社員を使いたいな、と思えば、ほぼ制限なく派遣社員を使い続けられる制度が今回の派遣法案なので。

その意味では、塩崎大臣の「希望や夢を達成するための多様な働き方が必要」という点でもマイナスの法案ということになります。

最後の「不本意な非正規雇用は避けなければならない。可能性を開くため、育児休業の利用改善など条件整備を行い、派遣労働者の保護を図りたい」という塩崎大臣の言葉も、中身は何も伴っていません。

こうした認識を披露させても意味はないのですが、記事はここで終わります。

派遣の固定化を防ぎたいのなら廃案が一番

長沢議員のように、派遣の固定化を防ぎたいと考えているのであれば、今回の派遣法案は現行制度よりも派遣の固定化を促す法案となっていますので、廃案するほかありません。

派遣法案の審議はまだ続きそうで、今月中の成立はなさそうな情勢となっています。

是非、今後も注目していただきたいと思います。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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