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簡易宿泊所の利用者は約9割が生活保護受給者!?川崎火災から考える(前半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
明智カイト×油井和徳(NPO法人「山友会」前にて撮影)

2015年5月17日午前2時頃、川崎市川崎区日進町の簡易宿泊所「吉田屋」(木造3階建て)の玄関付近から出火したと思われる火災が発生し、隣接する「よしの」と合わせて2軒が全焼しました。この火災によって10名が死亡しています。

今回の火災をきっかけにして簡易宿泊所や、そこに暮らしている生活保護受給者の実態と課題について検証します。

簡易宿泊所の利用者の約9割は生活保護受給者

川崎市川崎区の簡易宿泊所が立ち並ぶ一角で木造2棟が全焼した火災は、全国に点在する同様の「簡宿エリア」にも、古い建物が密集した地域での防火対策という課題を突きつけています。

宿泊者の多くは、かつて大半を占めた労働者から、生活保護などを受給する高齢者に変わりつつあります。「日雇い労働者の街」として知られる東京の「山谷地域」でも対策は急務ですが、安価な宿泊費を売りにする簡易宿泊所の経営者からは「スプリンクラーの設置は費用的に無理」との声も上がっています。

山谷地域は戦後に戦災者や復員者などを受け入れ、日雇い労働者が利用する簡易宿泊所が数多く誕生しました。1964年の東京オリンピックでの建設ラッシュを背景に、1万数千人近い日雇い労働者が集まったとされます。現在、山谷地域では約150軒の簡宿に3000人近くが暮らしています。宿泊代金は3畳一間で平均1泊2000円ほど。約9割が生活保護受給者だといいます。

高齢化も進んでいます。東京都の調査では1999年に59.7歳だった宿泊者の平均年齢は、2012年には64.7歳でした。5年以上簡易宿泊所に宿泊している人は5割を超えています。

※山谷地域簡易宿所宿泊者生活実態調査(H24年10月実施 東京都福祉保健局生活福祉部)より

簡易宿泊所がかつて路上生活を送っていた人たちの受け皿に

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こうした状況に、東京の山谷地域で生活困窮者へ支援を行うNPO法人「山友会」の油井和徳理事(31)に今後の課題と対策についてお伺いしました。

明智 簡易宿泊所を利用している人はどんな人たちが多いですか?

油井 もともとは、主に地方から職を求めて上京してきた日雇い労働者の人たちが簡易宿泊所を利用していました。高度経済成長期を終え、産業構造も変化したことにより、それまで土木・建築業を中心に日雇い労働を行っていた人々の多くは失業し、路上生活を余儀なくされるようになります。

さらに、高齢になったり、病気になってしまうことで、働くことも出来なくなったことで、その中で生活保護を受給するようになる人々も増えてきました。1990年後半には都市部を中心に全国で急激に路上生活者数が増加しましたが、生活保護を受給するようになった路上生活者の住まいや公的な施設が絶対的に不足していました。そのため、生活保護を受給するようになった路上生活者を受け入れるために、例外的な措置として簡易宿泊所は一時的な住まいとして活用されてきました。

山谷地域では、こうした歴史的な背景もありますが、主にかつて路上生活を送っていた人などの生活保護を受給した人が簡易宿泊所にたどり着き、そこでの暮らしが長期化してしまう要因は複雑で多様です。

まず、身寄りのない低所得者の入居可能な物件が少ないことが挙げられます。アパートなどの賃貸物件は保証人や緊急連絡先が必要なため、入居のハードルが高くなります。さらに高齢であったり、病気を抱えていれば、大家側は孤独死という不安材料が増えることになります。そうした方も入居しやすいのが、公営住宅なのでしょうが、こちらも数が不足しているのが現状です。

明智 行政からの支援はどうなっていますか?

油井 そうですね、生活保護を実施する福祉事務所サイドも、一人暮らしを行う前に生活指導が必要という考えがあるようです。それは、アパートなどでの一人暮らしをしていると家賃滞納やトラブルなどがあったときに対応しなければならないということや、退去を迫られた後どうするかという不安も影響しているように思います。こうした不安が、簡易宿泊所や施設から一般住宅に移るという判断を躊躇させているのかもしれません。

ほかにも、今まで関わった方の中では、日雇い労働をしながら簡易宿泊所や建築現場の寮で生活することが長かったため、アパートなどほぼ完全に一人になる環境での生活がイメージしづらいという方もいましたし、仲のよい人がいることから暮らし慣れたところを今さら離れたくないという方もいました。

こうした様々な要因が複雑に絡み合っているように思えます。

このように、低所得であったり、身寄りがなかったり、高齢であったり、病気や障害を抱えていたり、こうした事情を抱えた方々が地域の中で暮らしていく選択肢が限られているだけでなく、ようやくたどり着いた先で火災により命を落とすという悲劇が起きてしまっているのが現状です。

明智 ありがとうございます。後半では今後の課題や対策についてお伺いしていきます。引き続きよろしくお願いします。

(つづく)

・前回の記事はこちら。

とても他人事とは思えない「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」プロジェクト

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山友会

東京都の台東区・荒川区をまたぐエリアにある通称「山谷地域」で、1984年から無料診療、生活相談、炊き出し・路上訪問、宿泊支援などのホームレス支援活動を行っている団体。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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