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オートバイのあれこれ『アメリカ市場への切り込み隊長。』

Rotti.モトエンスー(moto enthusiast)

全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。

今日は『アメリカ市場への切り込み隊長。』をテーマにお話ししようと思います。

「ダブワン」。

このワードを聞いたことがありますか。

「ダブワン」とは、カワサキが1966年(昭和41年)にリリースした『W1』というオートバイのことです。

▲W1〈1966/画像引用元:川崎重工〉
▲W1〈1966/画像引用元:川崎重工〉

かの有名な『CB750FOUR』や『500SSマッハⅢ』よりも前に登場した古いモデルになります。

W1は、カワサキがアメリカ市場へ進出するための切り込み隊長的存在として開発されました。

前年(65年)に作り上げた『メグロK2』をベースに、エンジンの排気量を496ccから624ccまで拡大。

▲メグロK2〈1965/画像引用元:川崎重工〉
▲メグロK2〈1965/画像引用元:川崎重工〉

この624ccはとくに狙ったものではなく、メグロK2のエンジンを極限までボアアップした結果でした。

624ccとなった4ストロークのバーチカルツイン(並列2気筒)エンジンは、最高出力47ps・最大トルク5.4kg-m・トップスピード180km/hというスペックを獲得します。

▲イギリス車にも見劣りしないスペックを手に入れた2気筒エンジン
▲イギリス車にも見劣りしないスペックを手に入れた2気筒エンジン

メグロK2では同36ps・4.2kg-m・165km/hでしたから、カワサキはわずか1年で大幅にエンジンスペックを強化させることに成功したといえるでしょう。

そして、当時世界のトップにいた英国車にも劣らないパフォーマンスをW1で実現したカワサキは、アメリカ市場へ本格的に参入することを決意。

アメリカで戦うことを決めた後、車体色にはキャンディカラーを採用し、ハンドルもグリップ位置の高いプルバックタイプをチョイスするなど、W1にはアメリカ人好みのディテールが織り込まれていきました。

▲アメリカのトレンドに合わせた仕様だった〈画像引用元:川崎重工〉
▲アメリカのトレンドに合わせた仕様だった〈画像引用元:川崎重工〉

しかしながら、W1はアメリカで思ったほどの好評は得られませんでした。

理由は、エンジンの振動。

直線の多い土地をゆったり長時間クルージングすることの多いアメリカ人ライダーは、オートバイにはまず快適性を求めます。

にもかかわらず、W1はエンジンの振動の大きさが原因で、お世辞にも「快適に乗れるバイク」ではなかったのです。

その振動の大きさは、走行中にウインカーなどのパーツが外れてしまうほど。

センタースタンドを立てた状態でエンジンをかけると、振動によりスタンドが細かく跳ねて、少しずつバイクが移動してしまうともいわれていました。

W1は工業製品としては高性能だったものの、商品としての完成度はイマイチだったのです。

この後W1はW2SSへと進化しますが、やはりW2SSもなかなか良い評価を得られず、結局Wはアメリカから撤退することになってしまいました。

▲1970年に登場した進化版のW1SA〈1970/画像引用元:川崎重工〉
▲1970年に登場した進化版のW1SA〈1970/画像引用元:川崎重工〉

とはいえ日本では人気を博し、W1S、W1SA、そしてW3というふうに約10年にわたって生産が続けられます。

Zやマッハ等に比べるとややマイナーな感があるWですが、現在も一部の絶版車ファンからは根強い支持を集めており、プレミア車として扱われています。

モトエンスー(moto enthusiast)

バイクを楽しむライター。バイク歴15年で乗り継いだ愛車は10台以上。ツーリング/モータースポーツ、オンロード/オフロード、最新バイク/絶版バイク問わず、バイクにまつわることは全部好き。

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