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おかしな文科相発言、カネはださないけれども余計な口はだす

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 埼玉県戸田市の市立笹目東小学校を視察した永岡桂子文科相は、その翌日の7月4日の記者会見で、視察について語っている。その内容が、おかしい。

|校内サポートルームなら簡単につくれる?

 永岡文科相が視察したのは、不登校対策の先進事例とされる笹目東小の校内サポートルーム「ぱれっとルーム」だった。学校生活に不安や困難を感じている子どもたちの「居場所」として設けられている部屋である。

 そのぱれっとルームについて永岡文科相は、「子どもたちに気配り目配りのできる指導員をおいていて、しっかり対応していた」と高く評価していた。視察に行った意味があったのだろうとおもえる。しかし、そのあとの発言には首を傾げるしかない。

 永岡文科相は、「全国で各県に1校つくるという話も申し上げておりますけど、相当おカネもかかりますし、人材も必要になります」と述べた。「各県1校」とは、今年3月に文科省が不登校対策として発表した「COCOLOプラン」で、現在21校しかない不登校特例校を、すべての都道府県・政令指定都市に設置するという案を指している。それにはおカネも人材も必要だから「難しい」と、永岡文相はいっているにすぎない。

「それを思いますと」と、永岡文科相は続ける。「(各校に)空いている教室があるとおもいますので、そういうところで校内サポートルームというものをたちあげていただきまして、教室にいられなくなったお子さまを引き取っていただいて、少し休憩の時間、子どもたちが納得してクラスに帰れるようなサポートをしていただければ、非常に大きな効果があるとおもいます」

 各県1校の不登校特例校の設置はカネと人材の問題で難しいが、校内サポートルームなら各学校で簡単につくれるのではないか、といっているように聞こえる。ちなみに「COCOLOプラン」でも、校内サポートルームと同様の「校内教育支援センター」の設置案を示している。

 しかし、校内サポートルームにも指導員という人材が必要である。その指導員がいるからこそ対応できていると、永岡文科相も自分で語っている。にもかかわらず、簡単に校内サポートルームが設置できるような発言になっているのは、なぜなのだろう。校内サポートルームの指導員は、簡単に、しかも安価に集められると考えているのだろうか。

|大事なのは予算なのだが・・・

 校内教育支援センターについては、以前から横浜市が中学校で取り組んでいる。常駐の指導員を置いて、不登校や不登校ぎみの子たちの居場所を校内に設けている。その評価は高く、設置要望は多くの横浜市内の中学校から教育委員会に寄せられている。

 ただし実際には、約150校ある中学校のうち、20校ほどに設置されているにすぎない。理由を教育委員会の担当者に訊いたことがあるが、「予算が足りない」ということだった。人を雇って配置するだけの予算を確保できないために、要望に応えられないのが現状なのだ。

 校内教育支援センターを各校につくろうとすれば、同じ問題に必ずぶつかるはずだ。「文科省が予算については責任をもつ」と一言も口にせず、ただ設置を促すだけで、できるわけがない。永岡文科相が考えているほど簡単ではないのだ。

 さらに永岡文科相は、「子どもたちが納得してクラスに帰れるようなサポート」といっている。不登校の子をクラスに戻すための施設、という認識である。不登校の子たちをクラスに無理やり戻すのではなく、そういう子たちの居場所を確保するという考えが強まってきている。そうした流れも、永岡文科相は理解していないことになる。

|余計な口出しでしかない

 そして笹目東小で、NPO法人と提携してのオンライン教育支援センターも視察している。これも高く評価して全国での実施を促したうえで、「どういうNPO法人と連携すればいいのか、自治体にとっても見極めが難しい。文科省が信用できるNPO法人を認定することも検討したい」と述べている。

 これについて『教育新聞』(7月5日付Web版)は文科省初等中等教育局児童生徒課に取材し、「教育関連の外部団体といっても、非常に数が多く、さまざまな団体がある。現状では、その実態の把握もできていない。このため、いまできることとしては、各自治体の学校設置者が外部団体と何らかの契約をするときに、相手先の力量や実績、組織運営の実態などをきちんと確認してもらう、ということになる」というコメントを得ている。

 つまり、永岡文科相がいうような「文科省が認定する」ことなど無理だ、といっているにすぎない。文科省も困惑するようなことを、永岡文科相は記者会見の場で述べたことになる。

 だいいち、文科省が認定したNPO法人でなければ契約できないようなシステムを、自治体も学校も喜ぶだろうか。必要があれば、自治体も学校も自分たちの力でNPO法人を選び、契約するだろう。それだけの力はある。「文科相が選びましょう」という永岡文科相の発言は、「余計な口出し」にしかならない。

 校内教育支援センターでもNPO法人との契約も、予算さえあれば多くの学校が積極的に取り組むにちがいない。予算がないからこそ、やりたくてもやれないのだ。その予算については知らぬ顔でいながら余計な口出しはしようとする永岡文科相の姿勢を、学校関係者は渋い顔をして見ているにちがいない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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