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北陸の独立リーグ、再出発:独立リーグ再編のうねりの中、新生・日本海リーグ開幕戦を迎える

阿佐智ベースボールジャーナリスト
2球団での再出発した「日本海リーグ」の開幕セレモニーの様子(黒部・宮野球場)

 昨日29日、富山県黒部市の宮野球場で独立リーグ、「日本海リーグ」の開幕戦が行われた。このリーグは、現在最も規模の大きいルートインBCリーグ創設時の「オリジナル4」の2球団、富山GRNサンダーバーズと石川ミリオンスターズが立ち上げた新リーグである。両球団は、一昨年シーズン後、同リーグのオセアン滋賀ブラックスとともに「日本海オセアンリーグ」を立ち上げたのだが、リーグ当局が関東地方に軸足を移すべく、既存の滋賀、福井の両球団に代えて千葉、神奈川を拠点とする新球団の加盟を発表したことから、2球団による新リーグでの再出発を選んだ。

 奇しくも、17年前の4月29日はこの年発足したBCリーグ(当時の名称は北信越ベースボールチャレンジリーグ)の加盟球団として両球団が記念すべき地元開幕戦を行った「記念日」。独立リーグ再編の波が押し寄せる中、2球団による「ミニマムリーグ」の挑戦が始まった。

全日本プロレスの安齊勇馬選手による始球式で日本海リーグはスタートを切った
全日本プロレスの安齊勇馬選手による始球式で日本海リーグはスタートを切った

 雨予報が嘘のような晴天は、「再出発」の門出だったのだろうか。富山対石川の開幕ゲームには、522人のファンが球場に足を運んだ。17年前のBCリーグの船出には富山(アルペンスタジアム)、石川(県営野球場)に各々5000人を超えるファンが押しかけたことを思えば、少なく映るが、今や乱立と言ってくらいリーグ数、球団数が増え、動員数が右肩下がりである独立リーグの現状を考えると、この数字は悪いものではない。「新リーグ」の発足に際し、セレモニーには新田富山県知事、武隈黒部市長も顔を見せ、場内は華やいだ雰囲気に包まれた。

 ホームチームの富山サンダーバーズを率いる吉岡雄二監督は、リーグの再編に当たっても、「我々がすべきことは一緒」と毎度の開幕戦と同じ姿勢であることを強調した。選手たちも、目標である優勝、そして新リーグが日本独立リーグ野球機構(IPBL)に加盟したことによって出場可能となった独立リーグチャンピオンシップを制しての「日本一」、そしてなによりも究極の目標であるNPB入りをかけたシーズンのスタートを勝手飾ろうと元気いっぱいでフィールドに散らばっていった。

スタジアムDJに促され、フィールドへ向かう選手たち
スタジアムDJに促され、フィールドへ向かう選手たち

 富山・瀧川優祐(至学館大)、石川・村上史晃(桐蔭横浜大)の先発で始まった試合は2回に早速動いた。瀧川が石川打線を6者凡退に抑え迎えたこの回裏の攻撃で、富山は8番の大上真人(神戸学院大)、9番佐藤圭太(横浜商科大)の連続タイムリーで2点を先制した。試合後、吉岡監督も「下位が打てば打線はつながる」とこの攻撃を評価していた。

昨年プロ志望届を出しながらもNPB入りは叶わなかった瀧川は見事開幕投手の重責を果たした。
昨年プロ志望届を出しながらもNPB入りは叶わなかった瀧川は見事開幕投手の重責を果たした。

 一方の石川も4回には上位打線が火を吹き、1アウトからのツーベースの後、3番吉田龍生がセンター前に弾き返すが、センターからの好返球に阻まれてランナーが本塁憤死。逆にその裏の攻撃で富山は、4番墳下大輔(朝日大)のツーベースからの安打でランナーが本塁に突っ込むも、こちらはセーフとなり、クロスプレーの明暗が分かれるかたちとなった。

 瀧川は、6回まで石川打線を2安打無失点と申し分ないピッチングを見せていたが、7回に疲れが出たのか、上位打線に3連続四球を与えてしまう。

 ノーアウト満塁のピンチに富山ベンチはあわててリリーフを送ったが、ここでマウンドに送られた日渡柊太(中部大)が、小気味いいピッチングで後続を3者三振に打ち取る。ブルペンキャッチャーも「ブルペンで唸っていた」というストレートを投げ込む強気のピッチングで見事な火消しを演じた日渡の後、富山は1イニングごとにリリーフを送り、地元で行われた記念すべきリーグ開幕戦に7対2で勝利した。

7回ノーアウト満塁のピンチを3者三振に打ち取り雄叫びをあげる日渡
7回ノーアウト満塁のピンチを3者三振に打ち取り雄叫びをあげる日渡

 試合後のヒーローインタビューには、好リリーフの日渡と先制のタイムリーを放ち投手陣をリードした大上が登場した。

 大上は、高校、大学とレギュラーを張れず、それでもプレー継続の道を探って独立リーグに進んだ苦労人だ。この春のWBCの世界一メンバー入りした湯浅京己(阪神)らをNPBに送り出すなど育成力に定評のある吉岡監督に惚れ込んで、富山入り。最初に監督から言われた「試合に出る出ないとかじゃなく、自分をどう高めるのか」とテーマを胸にルーキーイヤーの昨シーズンを送った。

 2年目を迎えた今シーズン、ついに開幕スタメンを勝ち取り、殊勲打。吉岡監督も試合後、「昨年は2、3番手だったが、今年は1番手」と正捕手として認めた。自身は、「まだレギュラーというわけではない」と気を引き締めるが、アマチュア時代を含め、長年ベンチで貯めていた鬱憤を今シーズンは存分に晴らすチャンスを掴んだ。チームの浮沈を左右するポジションを初めて任されることになるが、「シーズン全体とか考えると雑になるように思うので、とにかく目の前にある試合に全力で取り組んでいきます」と正捕手として初めて臨むシーズンに目を輝かせていた。

大上真人捕手
大上真人捕手

 日本海リーグは、9月までの週末に富山対石川の40試合の対戦を3タームに分け、2タームを制したチームを年度優勝とするフォーマットで初めてのシーズンを送る。両チームによる公式戦の他、NPBファームや地元アマチュアチームとの交流戦も行って行く予定で、独立リーグの新たなかたちを探る。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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