負の質量を持つ物体の生成に成功!?その奇妙な性質とは
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「負の質量を持つ物体の生成に成功!?」というテーマで動画をお送りしていきます。
2017年4月、ワシントン州立大学の物理学者は、負の有効質量を持つ流体を作成したことを発表しました。
その物質は、力を加えた方向とは逆方向に加速するという非常に奇妙な性質を持っています。
●負の質量とは
それでは、負の質量とはどのようなものなのでしょうか?
質量がマイナスの物体が存在するとどうなるか見ていきましょう。
まず、地球上に負の質量を持つ物体が現れた場合について考えます。
正の質量を持つ通常の物質は、地球の中心へ向かう重力を受け、手を離すと下向きに落ちていきます。
これが負の質量だと、地球から受ける重力は「上向き」、つまり地球の中心から離れる方向になります。
静電気の場合、正の電荷同士、負の電荷同士では反発し合い、正の電荷と負の電荷だと引き合います。
重力では、正の質量同士、負の質量同士では引力になりますが、正の質量と負の質量だと反発し合うのです。
しかし、負の質量の物体も通常の物質と同じように下向きに落下します。なぜでしょうか?
ニュートンの第二法則によると力は質量と加速度の積(F=ma)で表されます。
したがって質量がマイナスの場合、加速度は力の方向とは逆向きになるのです。
奇妙なことに負の質量の物体は押された力と反対の方向に加速します。
これは「重い物体も軽い物体も同じ加速度で落ちる」というガリレオの落体の法則でも説明できます。
質量を限りなく小さくしていってゼロにしてもこの法則は成り立ちます。
さらに質量がマイナスになっても依然として成り立つのです。
それでは、仮に負の質量の惑星があったとすると、その惑星上での物体の動きはどうなるでしょうか?
正の質量の物体は惑星から離れる方向に力を受け、実際に惑星から離れていきます。
負の質量の物体は惑星の中心方向に引っ張られますが、質量がマイナスのため反対方向に加速します。
したがって、負の質量の惑星の重力は反重力的な斥力として働きます。
ここまで、ニュートン力学をもとにして負の質量の性質を紹介しました。
一方で、一般相対性理論に基づく宇宙論でも負の質量が重要な役割を果たしています。
その一つは、時空の抜け穴「ワームホール」に関するものです。
ワームホールとは2つの離れた場所を直結するトンネルのような時空構造のことです。
しかし、ワームホールの時空構造は不安定なため、すぐに潰れてしまいます。
そのため、ワームホールは現実には「通過不可能」だと考えられてきました。
ところが、1987年には「通過可能なワームホール」が存在可能であることが理論的に示されました。
研究者が考えたのはワームホールに負の質量をもつ「エキゾチック物質」を注入するという方法でした。
エキゾチック物質の反重力的な力はワームホールを押し広げ、その崩壊を防ぐ効果があります。
負の質量はワームホールの補強材になるのです。
エキゾチック物質は、あくまでワームホールを通過可能にするために導入された理論上の仮定に過ぎません。
しかし、天体観測によって宇宙には通常の重力とは逆のはたらきをする未知のエネルギーがあることが分かってきています。
この未知のエネルギーは「ダークエネルギー」と呼ばれていて、宇宙のエネルギーの約70%を占めているとされています。
1929年にハッブルによって宇宙が膨張していることが発見されました。
その後、1998年には現在の宇宙が加速的な膨張をしていることが明らかになりました。
この加速的な膨張の原因は、反重力的な作用をもつダークエネルギーが宇宙に満ちているからだと考えられています。
●負の有効質量を持つ流体の生成に成功
それでは今回の本題に入っていきます。
研究チームは、ルビジウム原子を絶対零度ぎりぎりまで冷却し、レーザーを照射することで、原子のスピンの向きを変えました。
その結果「負の有効質量」を持つ流体の生成に成功したといいます。
「スピン」とは粒子の固有の特性で、自転の大きさと向きというイメージです。
ここで、質量は物体の「加速されにくさ」と定義されます。
同じ大きさの力を加えた場合、質量の小さい物体は大きく加速され、質量の大きい物体の加速は小さくなります。
では質量に対し、有効質量とはいったい何なのでしょうか。
例えば、結晶中の電子は原子からの力を受けますが、真空中の自由な電子と似た動きをします。
ただし、電場や磁場などの外部からの力を受けると自由な電子と異なる質量をもつように振る舞います。
この見た目の質量が、有効質量です。
つまり有効質量とは粒子そのものの質量というよりも、システムの中で力がはたらいたときの粒子の特性を表しています。
今回の実験に使ったルビジウム原子には元々反発し合うという性質があります。
そのため、ルビジウムの流体は外側に向かって拡散します。
原子同士の反発力は中心から外側に行くにつれて強くなるので、外側の原子の方が速く運動します。
しかし非常に低温でボース・アインシュタイン凝縮という状態になると、流体の速度は均一になっていきます。
すると、その過程で外側の原子については内向きに加速、つまり減速することになります。
原子の反発による外向きの力が働いているにも拘らず、流体は内向きに加速します。
そしてこちらが実際に論文に掲載されていた画像ですが、確かに右側だけ拡散が遅れているように見受けられます。
この領域の有効質量が負になっているということです。
押された方向とは逆方向に加速するなんて、日常では目にすることのない奇妙な現象ですが、極めて低温な世界では、このようなことも起こり得るというわけですね。
今回は負の有効質量の話でしたが、理論物理学者は負の質量が実際に存在するかどうかに大きな関心をもっています。
それは、ワームホールやダークエネルギーといった宇宙論の研究にも役立てられるかもしれないからです。
実験室で宇宙の謎を解く。そんな研究がもっと進むと面白いですね。
今回登場したボースアインシュタイン凝縮は、絶対零度付近にまで温度を下げたときだけ現れる「物質第五の状態」と呼ばれています。
少々複雑なので、これが本題ではない今回の動画では詳細を端折りましたが、以下の動画で詳しく解説しているので、ぜひ併せてご覧下さい。