センバツ選考ガイドライン公表 本当にこれで十分? 一方で大きな前進も!
今春センバツでは、東海大会準優勝の聖隷クリストファー(静岡)が、同4強の大垣日大(岐阜)に逆転され、補欠に回った。その曖昧な選考理由や説明不足から、大きな社会問題にまで発展したのは周知のとおりである。危機感を持った主催の日本高野連と毎日新聞社は、「センバツ改革検討委員会」を立ち上げ、議論を重ねてきた。その結果を文書化したものが、今回、公表された「選抜高校野球大会選考ガイドライン」である。
センバツ出場校は主催者が招待する
具体的内容に踏み込む前に、今回の一件について、筆者の考えをまとめてみたい。結論から述べると「今回の波乱選考には驚かされたが、ない話ではない」というのが、率直な感想である。センバツは招待大会であり、出場校は選考委員会による話し合いで決定される。極論すれば、出場校は主催者の裁量に任されているのだ。前年秋の地区大会の試合結果が大きな拠りどころで、地区の枠数からおおよその見当はつく。直前に予想記事が出るのは、過去の例に当てはめて客観的に推測できるからで、事前に知る限り、聖隷の落選予想は目にしていない。
一貫性がなかった選考基準
しかし、これまでも選考には一貫性がなかった。よく言われる「地域性」が重視されることもあったし、その対極となる「戦力」のみの評価で優劣を決定したこともあった。選考会は地区別に小委員会があって、同じ大会にもかかわらず、地区によって基準が異なり、それが選出結果につながる。当然、当事者やファンは納得できない。今回は、これまでに積もり積もったものが、一気に噴出したと解釈している。ちなみに今春も、件の東海と、近畿では大きく異なった基準で選出がなされている。
明文化してまずは一歩前進
「ガイドライン」については、13日付毎日新聞に全文が掲載されていて、明文化されたことは一歩前進と考えたい。ただし基準と言っても、皆が期待していたような「2枠の地区は優勝校と準優勝校を選ぶ」というような、明確な文言は一切ない。選考結果を「追及」された時のための「逃げ道」も多く存在する。特に「基本原則」はセンバツに詳しい読者なら、「言われなくてもわかっている」という程度の内容で、これで十分とはとても言えないが、「評価のポイント」を明確にしたことは評価したい。
具体化された「評価のポイント」とは?
具体的に要点を挙げると、
1、秋季大会の試合結果と試合内容を、同程度の割合で総合的に評価する。
2、試合内容については、技術面だけでなく、野球に取り組む姿勢なども評価対象とする。
3、複数の学校の評価が並んだ場合、できるだけ多くの地域から出場できるよう考慮する。
4、府県大会の結果は参考にするが、選考委員が視察する地区大会の内容を優先する。
選考委員に委ねざるを得ない部分
俯瞰すると、今回の騒動をかなり念頭に置いていることがよくわかる。まず「1」は非常にわかりにくい。「結果が全てではない」ということで、早期敗退校の救済につながる可能性を残したものかと思われ、今回、大垣日大を上回らせた一因ともとれる。「2」は、試合を最前線で見ていないとわからないので、インターバル間の動きやベンチの様子を、選考委員がどう評価するか。これはもう、受け入れるしか仕方ないし、選考委員の存在意義を示したものとも言える。
「地域性」と「地区大会優先」を明言
「3」の「地域性」は、今回の静岡2校独占を崩した最大の理由に該当する。ただしこれを納得させるためには、評価が同等という前提を明確に説明しなければならない。今回は先に「地域性」を否定したため、それができなかった。「4」は、今回の近畿の選考で「府県1位校優先」と明言したし、特に近畿でその傾向が強まっていたことに釘を刺した。かつて、何度か「地区大会は県大会を上回る」と明言していた事実も存在する。「3」と「4」は、これまでも語られてきたが曖昧になっていた部分で、今後、選考会全体に一貫性を持たせるとともに、例外をつくって欲しくない。
選考会で抱いた違和感とは
長くセンバツ選考会を取材して、いつも抱いていた違和感がある。それは上記のように小委員会によって基準が違うことを全委員が受け入れてきたことである。選考会の最後に全委員が拍手して「全会一致で承認」となるのが習わしで、「本当に全員が納得しているのだろうか」という疑問はずっとあったし、この2年の「リモート会議」で全会一致?とも思っていた。委員はそれぞれ受け持ちの地区についての議論はするが、他地区については、結果だけを受け入れるしかない状態に置かれていたと察する。その方向性が今後、大きく変わる可能性が出てきた。
全委員が統一文書で意見表明
今回の改革案で、「秋季大会後、全選考委員が統一した文書により意見を表明し、地区別小委員会内で共有する」という方向性が示された。方法論などの詳細は不明だが、全ての委員(今春は57人)が、実際に見ていない地区の情勢まで、客観的に意見表明できるとも考えられるし、少なくとも他地区の動向は把握できる。委員はそれぞれが、他地区の選考に疑問があれば、はっきり意見を述べるべきだし、小委員会と異なる意見については説明責任が発生する。それが本来の選考会の形ではないだろうか。
選考委員の責任は増す
これまで小委員会ごとに決めていたものが、最大限の人数での議論に発展することになれば、今回のような騒動は回避できそうな気がするし、少なくとも「揉めることになりますよ」と具申する委員が出てくるだろう。今回の基準明文化を受けて、より明確で丁寧な説明ができる下地にはなりそうだ。全委員の意見表明と委員会での共有は、最も大きな前進と考える。同時に、委員一人一人の責任も増すことをつけ加えておきたい。