隔離場所は「高級カジノホテル」――マカオ的新型コロナ対処法
カジノのメッカ、マカオ(中国特別行政区)で、新型コロナウイルス感染防止のための隔離施設に高級カジノホテルが提供されている。世界各地からマカオに戻る居住者が増える一方で検査のための隔離施設の確保が難航、マカオ政府トップの賀一誠行政長官がカジノ業者に「社会的責任を果たせ」と説き伏せて実現した。
◇15日間のカジノ停止
マカオ当局は1月22日、新型コロナウイルスの感染防止策として、中国からの到着便すべてで乗客に検温と健康診断書の提出を求めた。この日、武漢から来た女性が発症してマカオ初の感染例となった。
その後、当局は2月5~19日の15日間、統合型リゾート(IR)を含むすべてのカジノ(全41カ所)の営業中止を決定。併設ホテルなど関連施設のほか、映画館、インターネットカフェ、ナイトクラブ、美容院といった人が集まる場所も使用禁止とした。防止策は奏功し、しばらくは新たな感染者が確認されず、治療を受けていた感染者10人も3月6日に全員退院した。
決められた15日間が過ぎて、カジノ41カ所のうち29カ所が営業を再開。ただ検温などの感染対策は継続するとともに、入場者の数を制限したり、客同士の距離を保つためスロットマシンを2台置きに稼働させたりした。
ところが、3月16日になって新たに1人の感染者が確認された。当局は同24日、規制を強化し、中国本土や香港、台湾の住民のうち、過去14日間に海外渡航歴のある人の入境を禁止。帰還したマカオ居住者にはホテルでの14日間の隔離・医学的観察を受けるよう義務付けた。
◇行政長官「がっかり」
しかし、その隔離場所の確保が難航した。当局はカジノ事業者に施設提供を呼び掛けたが、応じる者はなかったという。
このため賀長官が3月24日、カジノ事業者の消極姿勢に「がっかりした」と表明。「カジノ事業者は、真の意味で企業の社会的責任とは何かを再考すべきだ。社会全体が課題に直面したとき、一丸となって大きな責任を担い、協力しなければならない」と指摘したうえで「社会貢献活動が次の(マカオでの)営業許可獲得のための試金石になり得る」と述べ、客室提供がカジノ営業許可更新へのプラス材料になる点をちらつかせた。
マカオでの営業許可はカジノ運営大手、SJMホールディングスやギャラクシー・エンターテインメントなど6社に限られている。今の営業許可は22年6月26日に満期を迎え、以降の営業許可は更新ではなく再入札で決まるという。
この結果、SJMが「すぐにホテルを利用できるようにしたい」との声明を発表、各業者でも同調の動きが相次いだ。
隔離の指定ホテルはピーク時には12カ所、計4500室となった。米ラスベガス・サンズ社の子会社サンズ・チャイナ運営の人気IR施設「サンズ・コタイ・セントラル」の豪華ホテル「シェラトングランド・マカオ」は、4001室のうち2000室を「隔離エリア」として提供した。
◇カジノ収入8割減
4月7日の発表によると、隔離された人は累計3893人。同日現在、隔離されている1324人のうち1318人が指定されたホテルに滞在している。マカオ当局は民間ホテル使用のため総額5000万パタカ(6億8000万円)を拠出した。8日午前、新たに1人感染者が確認され、累計で45人。重症化や死亡の例はない。
マカオは香港と同じく「1国2制度」に基づく高度な自治が保障されている。昨年12月20日にポルトガルからの返還20周年を迎えた。面積28平方キロ(東京都世田谷区の半分程度)に約60万人が住み、その4分の3ほどが直・間接的にカジノ業界に関連した仕事に従事している。2019年の売上は2925億パタカ(約4兆円)。マカオ政府の歳入の80%はカジノからの税収だ。
だが、そのカジノ収入も新型コロナウイルスの感染拡大の打撃を受け、今年2月には前年同月比88%減、3月に80%減と大幅なマイナスを記録。4月はさらに深刻な数値を示すと予想される。