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仙台で女子中学生が刃物で切りつけられる 「自爆テロ型犯罪」の原因と対策を考える

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
写真はイメージ(写真:アフロ)

7月の悲劇

7日の朝、仙台市の路上で、登校中の女子中学生2人が男に刃物で刺され、男は殺人未遂の疑いで逮捕された。またしても「自爆テロ型犯罪」が起きてしまったようだ。

自爆テロ型犯罪とは、逮捕されてもいいと思って始めた犯罪や、死刑になりたくて実行される犯罪だ。

つい先月にも、川越市のインターネットカフェで、男がアルバイトの女性を人質にとって個室に立てこもった。容疑者は逮捕後、「死刑になりたかった」と話している。

7月と言えば、相模原市の障害者施設で元職員が入所者19人を殺害した事件や、京都市の京都アニメーションのスタジオが放火され社員36人が死亡した事件が、悲しい記憶としてよみがえってくる。

原因解明は可能か

なぜ、自爆テロ型犯罪が起きるのか。

原因の解明が望まれるが、それはそう簡単なことではない。

例えば、犯行の原因として「格差社会」を指摘する論調が目立つが、原因追究はそれだけで完結はしない。なぜなら、格差社会の背景には貧困があるし、貧困の原因を探せば、産業構造の転換が遅れていることにたどり着くからだ。

さらに、産業構造が転換できないのは、IT革命やデジタル・トランスフォーメーションに乗り遅れているからで、ITスキルやITリテラシーが向上しない一因は、デジタル教育やオンライン授業が低迷しているからである。

さらに、IT教育が進まない背景には、既得権益を守る保守的なマインドがあり、その背景には、同調圧力で異論を封殺する風土がある。

この「みんな一緒に」の意識は、聖徳太子の17条憲法の「以和為貴」から、日本企業のQCサークル活動まで、日本人の底に脈々と流れている。

明治維新後、さらには第2次世界大戦後、西洋的「個人/社会」の二分法に基づく「権利と義務」(ドライなヨコ型ルール)の導入が試みられたが、日本的土壌は変わらなかった。今でも日本では、「うち/よそ」の二分法に基づく「甘えと義理」(ウェットなタテ型ルール)が健在なのである。

では、「みんな一緒に」の意識はなぜ生まれたのか。

4万年前、サルから進化したヒトの中で、争うことが嫌いな人々がアフリカから逃げて極東に来たのが日本人なのかもしれない。そんな日本人の生き残る道は、弱い者同士が肩を寄せ合い、助け合うしかなかった。とすれば、これが同調圧力の起源ということになる。

このように、原因追究は果てしなく続き、収拾がつかなくなる。結局、犯人の異常な人格や劣悪な境遇に犯罪の原因があるとしても、それを特定することは困難であり、仮に特定できたとしても、その原因を取り除くことは一層困難なのである。

そこで海外では、社会のエネルギーを終わりのない原因論議ではなく、政策的にすぐにでも実装可能なものに投入しようという方向に舵を切った。「犯罪原因論」から「犯罪機会論」へのパラダイム・シフト(発想の転換)である。

犯罪機会論には、個人に頼るマンツーマン・ディフェンスと、場所で守るゾーン・ディフェンスの二つのアプローチがある。

このうち、ゾーン・ディフェンスは、ゾーニング、つまりスペースによる「すみ分け」ができる場所では防犯効果が高いものの、仙台の無差別殺人未遂事件のようなケースでは応用が難しい。

しかし、学校、高齢者施設、障害者施設、病院、公園、娯楽施設などであれば、ゾーニングに基づく「多層防御」を取り入れて、場所の安全性を高めることができる。

もっとも、多層防御は、設計段階で組み込む必要があり、建設後の改修では、物理的にも予算的にも難しい。

しかし、建設後でも、「ディフェンダーX」という先端テクノロジーの助けを借りれば、多層防御を実現できる。

ディフェンダーXは、ポリグラフ(俗称「うそ発見器」)や、離れていても心拍と呼吸を感知できるドップラーセンサー(電波センサー)のような生理学的視点から、精神的ストレスに起因する表情筋の微振動を解析するソフトウェアである。

リスク・マネジメントは早期警戒で

一方、マンツーマン・ディフェンスについて犯罪機会論が強調するのは、「犯人と対決すること」ではなく、「早期警戒」である。

南アフリカのリスク・マネジメント専門家ガート・クレイワーゲンは、その著書『ジャングルのリスク・マネジメント:アフリカの草原から学ぶ教訓』の中で、すべての草食動物のサバイバル術に共通する要素として「早期警戒」を挙げている。早期警戒が、近づいてくる肉食動物の早期発見につながるからだ。

早期警戒する動物として最も有名なのはミーアキャットだ。

その天敵は、ワシ、ヘビ、ジャッカルであるため、上空からの襲撃と地上での攻撃の双方を警戒しなければならない。そこで、ミーアキャットは、四足歩行でせわしく動き回りながらもしきりに止まり、後ろ足だけで立ち、背伸びして周りを見渡す。

警戒を怠らないミーアキャット(筆者撮影)
警戒を怠らないミーアキャット(筆者撮影)

早期警戒に適した特徴を備えているのがキリンだ。

キリンの目は顔の側面についているので、広い範囲を見ることができる。休息するときは、それぞれのキリンが異なる方向を向くようにしている。

警戒を怠らないキリン(筆者撮影)
警戒を怠らないキリン(筆者撮影)

リスク・マネジメントの基本は「最悪に備えよ」である。その意味でも、「早期警戒」は重要だ。

しかし、信じたい情報ばかり探してしまう「確証バイアス」や、「たいしたことはない」と思い込む「正常性バイアス」が作用するのが普通なので、よほど気をつけないと、「悲観的に準備する」のではなく、「楽観的に準備する」ことになってしまう。

「注意モード」をオンにする

人は絶えず注意することはできない。

人はロボットと異なり、「注意モード」と「不注意モード」を行ったり来たりしている。「注意モード」をオンにする確実な方法は、キュー(開始の合図)を出すことだ。

仙台の無差別殺人未遂事件では、事件が起こる前に「刃物のような物を持った男がいる」という通報が警察に相次いで寄せられていたという。こうしたケースでは、警戒を促すキューを出すことができる。

まず警察で、通報による情報やSNS上の情報を総合的に分析して、緊急性や重大性のレベルを評価する。それに基づき、次のチャネルで警戒を促すキューを出す(情報を提供する)。

・自治体の防災無線、青パト、町内会連絡網などを利用した注意喚起

例えば、2015年に熊谷市の民家3軒で6人が殺害された事件では、防災無線が活用されなかったとして埼玉県警が批判された。そのため、警察は、自治体や自治会と協定を結び情報を積極的に発信することにした。その結果、発信数は増加したという。

・学校での集団登下校、親の迎えの要請、「ウオーキング・バス」の導入、オンライン授業への切り替え

苫小牧市立拓勇小学校では、住民が「運転手」と「車掌」の役になり「バスごっこ」をしながら児童の集団登下校を行う「ウオーキング・バス」を2008年から運行し、北海道の「北のまちづくり賞」を受賞している。

イギリスでは、登下校時、ウオーキング・バス(歩くバス)が走っている(筆者撮影)
イギリスでは、登下校時、ウオーキング・バス(歩くバス)が走っている(筆者撮影)

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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