「部活動強制加入は不適当」「退部が高校入試で不利にならないように」スポーツ庁有識者会議提言案
2022年4月26日、スポーツ庁の運動部活動の地域移行に関する検討会議で、提言案が発表された。有識者会議では今後さらに提言案の細部を詰め、5月に取りまとめる予定となっている。
運動部活動の地域移行に関する検討会議(第6回)配付資料(スポーツ庁)
主題としては、部活動の地域移行のため、他の報道では、もちろんそれを主に扱っている。
ただ、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、「部活動強制加入」撤廃について、スポーツ庁への提言手交やアンケート調査を実施してきたため、「部活動強制加入」に関する書きぶりについて確認したい。
部活動強制加入の撤廃に96%が賛成、学生は「部活動強制加入」をどう思っているのか?(室橋祐貴)
結論的には、日本若者協議会が要望していた内容は、提言案の中に含まれており、高く評価できる内容となっている。
まず有識者会議提言案を確認する前に、日本若者協議会が要望していた内容を確認したい。
要望部分を抜粋すると、要点としては、以下4点に集約される。
⑴部活動の現状の再調査(特に生徒に対し)
⑵任意加入の周知徹底
⑶入試において部活に入っていないことが不利にならないように調査書等の見直し
⑷部活動時間の縮小(他の活動にも時間を割けるように)
一般社団法人 日本若者協議会 教育政策委員会
「部活動強制加入」撤廃や部活の在り方に関する要望書
1. 部活動の現状の再調査と任意加入の徹底
クラブ活動が必修でなくなってから約20年、前述のガイドラインの発出から3年が経過しているにも関わらず、なおも「自主的、自発的な参加」という文言を蔑ろにし、部活動への参加を希望しない多くの生徒の権利を侵害している現状は早急かつ完全に解消されなければならない。従って、まず部活動強制加入の実態を、学校長や教員、教育委員会への聞き取りのみではなく、一部のコースのみ強制されているケースや入部が「暗黙のルール」とされているケースを踏まえ、生徒や卒業生の聞き取りも含めて改めて行って実態を調査した上で、部活動を強制していることが明らかになった場合には然るべき措置を行い、生徒の自由を妥当に認める教育環境を速やかに構築すべきである。
2. 教育課程における部活動の位置づけの周知徹底
部活動が教育課程外であると正しく認識できている現役教員は56%程度しかいないという調査結果(内田良『部活動の社会学』岩波書店、2021)もあることから、改めて部活動が教育課程外であり強制してはならないことを教育委員会や学校に通知するとともに、本件を悪しき前例として教職課程において子どもの権利ならびに子どもが主体的に判断し行動できる教育環境の重要性について教えられるべきである。また「OBOGや保護者からの圧力で部活動を縮小できない」とする意見もあることから、部活動が「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」活動であることを改めて社会に広く周知すべきである。
3. 部活動の縮小による真に主体的な学びの時間としての教科外活動の拡充
「学校で放課後や休日に生徒が1年中活動する」現行の部活動は国際的にも異質な存在である。かつては日本企業も従順さや協調性を求め、部活動に熱心な学生が求められる傾向があったが、現代ではトップ企業を中心に変わっている。例えばGoogleやAmazonが、厳しい部活で培った従順さを評価するとはとても思えない。このような、社会のニーズともマッチしなくなっている部活動は縮小し、より社会のニーズにマッチした我が国の未来を担う人材育成に向けて教員だけでなく、生徒も真に主体的な学びの時間としての教科外活動に、時間と労力を割ける教育環境を構築できるように働きかけていくべきである。例えば、生徒の評価を記載する内申書において部活動に関連した記述はよほど顕著な実績がある場合に留めること、また部活動に所属していないことが受験において不利にならないことを生徒ならびに保護者に周知することで、部活動に加入しないという選択肢を安心して取ることができる環境を構築すべきである。
スポーツ庁有識者会議提言案
では、具体的に有識者会議の提言案では、どのように書かれているのか。
「部活動強制加入」に関する部分を抜粋する。(文中太字は筆者)
(1)現行の中学校学習指導要領の総則に基づく適切な運動部活動の運営
①現状と課題
〇 上述の通り、平成元年の改訂において正規の教育課程の特別活動の一つである「クラブ活動」の代替とすることができると規定されていたことも影響して、「クラブ活動」が廃止されたにもかかわらず、一部の学校においては、部活動に生徒全員を強制加入させるような、部活動の本来の趣旨とは異なる運用が行われている14。
〇 現行の中学校学習指導要領に部活動が「学校教育の一環」として位置づけられていることから、部活動は必ず学校において設置・運営しなければならず、また教師が指導しなければならないなどの誤解が生じているとの指摘もある。
③ 求められる対応
〇 今後、中学校等において運動部活動が設置・運営される場合には、現行の中学校学習指導要領の趣旨を十分に踏まえた活動が、どの中学校等においても実施される必要がある。そのため、以下のような課題や留意事項について、国から通知を発出するとともに、必要に応じて学習指導要領総則解説編に明記し、学校の教職員や生徒、保護者等の理解を促進していく必要がある。
・ 部活動は生徒の自主的・自発的な参加により行われるものであり、生徒の意思に反して強制的に加入させることは部活動の趣旨に合致せず不適当であること
・ 部活動は教育課程外の活動であり、その設置・運営は法令上の義務ではなく、学校の判断により実施しない場合もあり得ること
2.高校入試について
(1)一般入試
①現状と課題
〇 従来、入試においては、学力検査や各教科の成績のみならず、学校部活動を含めた学校内外の諸活動を評価の対象とすることを可能とし、生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所を積極的に評価し、これを活用していくことが求められてきた。
一方で、学校部活動や地域のスポーツ活動等(以下「学校部活動等」という。)における活動歴や大会成績は、学習成績と異なり、各都道府県の入学者選抜実施要領等において評価基準や配点等が決められておらず各高等学校の裁量に委ねられている事例が多い。また、各高等学校において評価する場合であっても、その配点等について公表されている場合もあれば、公表されていない場合もある。そのため、一般入試において、実際に評価の対象となっているのか、評価の対象となっている場合にはどのように評価されているのかなどについては、中学校等や生徒、保護者にとって、必ずしも明確にはなっていない状況がある。
〇 また、中学校等において作成される調査書についても、学校部活動等の活動歴や大会成績等の簡略な記述であることが多く、調査書の記載のみでは、生徒の多様な個性や能力・適性を多面的に評価することは困難である。
〇 学校部活動等の活動歴や大会成績が、入試における合否判定の資料の一つである調査書に記載されることや面接等においてアピールできる材料となることなどから、生徒や保護者が高校入試の際に有利になることを過度に期待して、大会で良い成績を出すことを求め、学校部活動の過熱化や長時間化を招いている一因となっているとの指摘もある。
また、生徒や保護者が高校入試の際に不利になることを危惧して、実際には学校部活動への加入を希望していないにもかかわらず、形式的に加入することや、途中で退部や他の部に移りたいと思っていても、3年間同じ活動を継続する事例があるとの指摘がある。
④ 求められる対応
〇 高校入試において、各高等学校の定める入学者の受入れに関する方針(アドミッション・ポリシー)を踏まえて、生徒の多様な個性や能力・適性を多面的に評価することは重要である。このため、学校行事や生徒会活動等の特別活動や学校部活動、地域でのスポーツ活動等の学校内外での活動を通じて主体的に学んだことやそこから見えてくる生徒の長所、個性や意欲、能力を、進学動機や進学後に学びたいこと、将来の進路希望などとの関連も含めて、多面的に加点方式で評価していくことは有意義である。
〇 しかし、調査書に記載される簡略な学校部活動等の活動歴や大会成績のみの記述では、多面的な評価を実施するには不十分であると考えられる。学校内外の活動については、調査書における記述のみならず、生徒による自己評価資料(例えば、進学動機や進学後に学びたいこと、これまで主体的に取り組んだことなどを記述した資料)や、面接や小論文など入試全体を通じて、生徒の個性や意欲、能力を多面的に評価していくことが望ましい。
〇 このため、調査書に学校部活動等について記載する際には、単に活動歴や大会成績だけではなく、活動からうかがうことのできる生徒の長所、個性や意欲、能力(例えば、自ら取り組もうとする意欲や態度、責任感、協調性など)に言及するなど、記載を工夫する必要がある。
ただし、前述の通り、調査書の作成には教師の負担も伴うこと、今後は学校部活動から地域のスポーツ活動に移行することも踏まえ、あくまでも調査書だけではなく、入試全体を通じて評価することを前提として、必要以上に調査書の記載量を増やさないよう留意することも必要である。
〇 また、生徒や保護者が、学校部活動等における活動歴や大会成績が高校入試で評価されると認識していることによって、自主的・自発的な活動である学校部活動等の本来の趣旨を損なうような状況になってしまうことは改めなければならない。
〇 高校入試の実施者である都道府県教育委員会等に対しては、これらのことを踏まえ、学校部活動等の学校内外における活動の高校入試における評価の在り方について、こうした課題も踏まえて検討するよう、国から指導助言する必要がある。
あわせて、高校入試において学校部活動等の諸活動をどのように評価するのか、評価の観点や配点等について入学者選抜実施要領や各高等学校のホームページ等において明示し、生徒や保護者の正しい理解を促進することを指導助言する必要がある。なお、その際には、調査書における学校部活動等の活動歴や大会成績を機械的に点数化することはなく、また、学校部活動等に参加していないことや、途中で退部や他の活動に移ったことをもって高校入試の評価において不利に取り扱うことのないことも併せて周知すべきである。
2.複数の活動を経験できる活動日数や時間
①現状と課題
〇 学校の部活動は、学習指導要領に定める通り、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意されなければならず、運動部活動は、特に教科の保健体育との関連が図られる必要がある。
現行の中学校学習指導要領の保健体育科の規定においては、既述のとおり、第1学年及び第2学年で、「体つくり運動」、「器械運動」、「陸上競技」、「水泳」、「球技」、「武道」、「ダンス」及び知識に関する領域をすべて履修させ、第3学年では「体つくり運動」及び知識に関する領域を履修させるとともに、それ以外の領域を対象に選択して履修させることとされている。
〇 一方で、運動部活動の実態としては、学校を入学して間もなく特定の運動種目の部に入ると、3年間同じ運動種目の部で活動し続けることがほとんどである。これは、中学校等の生徒の発達の段階を踏まえて学習指導要領に定められている保健体育科の教育課程編成の考え方とは必ずしも一致していない。
〇 多くの運動部活動は、活動日数が多く、1日の活動時間も長いため、運動部に所属する生徒は、たとえ他のスポーツや文化、科学分野の部活動や地域での活動などにも興味関心を有し、参加したいと考えても、他の活動には参加することが難しい状況にある。
②求められる対応
○ 教育委員会や学校においては、学校の運動部活動について、保健体育科の教育課程の考えに則り、例えばシーズン制の導入など、運動部活動でも複数のスポーツ等を幅広く経験できるようにする必要がある。
○ 運動部の活動日数や活動時間を見直し、生徒が希望すれば、特定の運動種目だけでなく、文化や科学分野の部活動や地域での活動も含めて様々な活動を同時に経験できるようにする必要がある。
部活に入っていない生徒への部活動関連費の返金についても言及
また、スポーツ庁への要望書手交や記者会見に同席頂いた、賛同人の西村祐二(公立高校教諭)が特に指摘していた、部活動関連費の徴収についても言及された。
2.運動部活動に要する費用の徴収方法等
① 現状と課題
〇 学校によっては「部費」を集めずに、代わりに PTA 会費の中に部活動支援等の項目を設けて、保護者から集めた資金の一部を、各部の大会参加費や備品・用具の購入代金、中体連や競技団体等の登録料等に充てている場合がある。この場合、直接部費を払っていないため、「部活動は無料である」という誤解を保護者や生徒に生じさせているのではないかとの指摘がある。
また、PTA 会費からの充当は、部活動に入っていない生徒の保護者も部活動に要する費用を負担していることになるため、事前の理解や了解を得ていない場合には、公平性の観点から課題ではないかとの指摘がある。
② 求められる対応
〇 運動部活動に係る費用の徴収方法については、保護者の理解が得られるよう適切なものとしていく必要がある。このため、特に PTA 会費から充当する方法とした場合には、保護者に対する事前の説明と理解を得るとともに、運動部活動に参加していない生徒の保護者には返金するなどの対応を行う必要がある。
各教育委員会で具体的な取り組みを
もちろん提言が出て終わりではなく、重要なのは現場がどう変わるかだ。
実際、平成30年3月にスポーツ庁、12月に文化庁がそれぞれ策定した、運動部・文化部の「活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、部活動への参加を強制しないよう、留意しなければならないことが明記されている。
それでもいまだに部活動強制が続いていることを考えると、教育委員会による定期的な実態調査や、高校入試における調査書での部活動の取り扱い方を変更するなど、仕組みを変えていく必要がある。
そのため、同時並行的に、日本若者協議会では、調査書に記載のある部活動の実績を特に加点していると文科省平成29年度調査で指摘されていた、埼玉県(教育委員会)に対して、生徒への実態調査の実施や部活動任意加入の徹底を求めて、様々意見交換しており、現在前向きに検討してもらっている。
今後他の教育委員会でも、部活動任意加入の徹底や高校入試での部活動の取り扱いの見直しを進めてもらいたい。