「テレビがなくなる」日に、さらに高まる大谷翔平の価値。スポーツ中継のDTC(直接配信)化で
米国のメジャーリーグ中継は、昨年から、大きく変わりつつある。
最初の大きな動きは、約20年前の2002年8月に、メジャーリーグ機構が、MLB.TVを立ち上げたことだ。今では、リーグ直営のプラットフォームにお金を払えば、インターネットを通じて、ほぼ全ての試合を視聴できるようになった。
先に述べたように、MLB.TVではほぼ全ての試合を視聴することができるが、全試合は視聴できない。MLB.TVがブラックアウトする試合があるからだ。ローカル放送局による試合中継が視聴可能なエリアに住んでいる視聴者は、この試合をMLB.TVで見ることはできない。つまり、住んでいる地元チームの試合は、MLB.TVでは見ることができず、そのチームの放送権を持つローカルテレビ局でしか見ることができない。そして、そのローカル放送局による試合中継は、ケーブルテレビの加入者でないと見られないことがほとんどである。
しかし、2010年代から、アメリカではケーブルテレビの加入者が減少している。インターネットを通じた配信に切り替える人が多くなったことが主な理由だ。地元のプロスポーツチームを応援したいが、ケーブルテレビの契約を解除したい人たちは、ジレンマに陥った。
MLB.TVでは、自分の住んでいる地域のひいきのチームの試合を見ることができない。だからといって、ニュース、映画、エンタメなどの多くのチャンネルがパッケージ売りされているケーブルテレビにお金を支払い続けるつもりはないし、そもそも興味のないチャンネルがほとんどだから、多チャンネルは必要ないと考える人がいる。
こういった人たちに向けて、放送権を持つ局が、地元チームの試合中継だけを直接、視聴者に有料配信するようになった。ボストンにあるNESN局は2022年6月から、放送権を持つレッドソックスとNHLのブルーインズのライブ中継とオンデマンド放送を、直接、視聴者に販売している。月額で29.99ドル(約3800円)、年間支払いは329.99ドル(約4万3700円)と決して安くはない。ただ、商品をアピールするターゲットが明確なこともあり、2022年はレッドソックスのチケット8枚、バッティング練習も配信するなどの独自のインセンティブをつけているのが特徴だ。
今年は、ヤンキースの試合中継をするYESネットワークでも、直接、視聴者に中継を配信するDTC(Direct-to-Consumer:直接配信)化に踏み切りそうだと、ニューヨークポスト紙が伝えている。ケーブルテレビの衰退、インターネットを通じた配信の増加に伴い、今後は他球団の試合中継でも、直接販売、直接配信が増えるのではないかと予想されている。
地元の試合中継だけを直接、視聴者に販売するには、その試合を、どうしても見逃したくない人々がどのくらいいるかがポイントだ。試合中継のDTC化は、エンゼルスの大谷翔平のようなスーパースターの存在が、球団やリーグ、配信会社にとっても、より重要になる。
2022年3月2日から10月7日までに集計したデータによると、大谷翔平は、メジャーリーガー最多の17社の企業とスポンサー契約を結んでいた。パフォーマンスはもちろん、マーケティング力においてもメジャーリーガーのトップだった。新しい試合中継モデルの観点からも、2023年オフにフリーエージェントとなる大谷争奪戦は熱くなりそうだ。