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31年目の8月12日夕方・・・

碓井広義メディア文化評論家

31年前の今日、1985年8月12日、18時56分に起きた日航機墜落事故。

現場である御巣鷹山が群馬県だったことから、地元の新聞は、中央紙に負けじと独自取材でがんばった。まさに、その地元紙(上毛新聞)の記者として事故の取材に当たっていたのが、作家の横山秀夫さんだ。

小説『クライマーズ・ハイ』が世に出たのは2003年であり、事故から18年を経ていた。横山さんがこの作品を書くまでに、それだけの時間を必要としたということだ。確かに重い題材だったと思う。

原田眞人監督による同名映画の公開は2008年。原田監督といえば『金融腐蝕列島〔呪縛〕』を思い出す。「組織と個人の葛藤」というテーマは、映画『クライマーズ・ハイ』でも生きている。いや、一層ダイナミックに描き出される。原作よりも、新聞社内部の”熱気と混沌”に、より軸足を置いているからだ。

堤真一(好演)が演じる取材責任者や、実際に御巣鷹山に登り、自分の目で現場を見てきた記者・堺雅人(熱演)はもちろん、山崎努のワンマン社長、また編集や販売のトップたちも、みんな、なにやら「ヤクザの出入り」(東映作品だし)のような雰囲気とテンションでうごめいていた。

小説でも、映画でも、新聞社の中にまだパソコンがなく、原稿用紙に手で書きなぐっている場面に、あらためて驚く。そういえばケータイもまだない。記者が現場から送稿するのに公衆電話を使っているのだ。アナログ時代と言わば言え。人間が取材し、人間が記事を書く。つまり、人間が新聞を作っていることが強く伝わってくる。

それにしても、映画で再現されたこの航空機事故の修羅場には、思わず息をのんだ。また、それを伝えようとしたジャーナリストたち、いや古い言葉でいえばブンヤさんたちのエネルギーにも圧倒された。

今夜、あらためて、小説『クライマーズ・ハイ』を読み返してみたい。

合掌。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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