50代になって初めて挑戦した夏の思い出 山小屋の温泉も楽しめた一泊二日の歩く旅
8月終わりの猛暑、テント泊装備一式を詰め込んだ重いザックを背負い、ようやくテント場についた。山小屋で受付をして、ザックからテントを取り出し何とか頑張ってテントを張る。最近のテントは簡単に設置できるように工夫されているので頼もしい限りだ。
ようやくテントを張り終えようとしていた途端、突然激しい雷雨がやってきた。真新しいテントの中に滑り込む。「ぎりぎりセーフ」心の中で呟いた。
山歩きで初めてテント泊登山をした。そして、人生で初めてテントを張った。
私は、子育てを卒業する頃より歩く旅を始めて楽しんでいる。街道歩きや街歩きも楽しいけれど、同時に登山も楽しんでいる。いずれもおばさんの年齢になってから始めた楽しみであり、この歳になってようやく自分の為に使えるようになった時間は、自分が楽しいと思うように使いたいと思っている。
今回挑戦しているのは「雲取山」
東京都最高峰であり、日本百名山にも選定されている山でもある。しかし、都内にある山にも関わらず、登山口から山頂までの距離が長くて日帰りでは難しいとされている、近くて遠い山。
テント泊装備で山に行く
真新しいテントとシェラフ(寝袋)、マット、大型のザックに持っていく荷物を詰める。パッキングという言葉には程遠い詰め方だ。ザックが大きくて助かる。水分、食料、ライトや充電器も忘れてはいけない。ついでに、普段はあまり食べない小袋のお菓子も2個入れる。
8月の終わりの暑さ厳しい中、テント泊装備が詰まったザックを背負い、約10kmの距離を歩くのは体力的には結構きつい。しかし、険しい道のりではない。重いザックを背負っていても安心して歩ける。登山口から林道を歩き、林道が行き止まりになった先から登山道を歩くコースは、1日目の歩く距離は10km以上になる。結構長く、体力勝負。
登山道は整備されており、歩くには歩きやすい。さらに山奥に進んだその先、深い谷の沢沿いに「三条の湯」はあった。沢の涼しさにホッとした。
暑かった為か、ザックが重かった為か、今までの山歩きで一番大変だったと思った。
明日は、三条の湯から雲取山に登る。雲取山まではさらに標高差1000mを登らなくてはならない。大丈夫か「私」。少し不安になる。
初めてのテント設営と雷雨
受付を済まし、テント場に降りる。ビールでもと、飲みたい気分を我慢して、先にテントを張る。
テントを買った時に店員さんに教えてもらったことが次々に頭から出てくる。店員さんに感謝。同時に空は暗くなり雷の音がし始めた。テントを張れたのが先か、雷雨が先か、という絶妙のタイミングでだった。
テントの中に滑り込む。ぎりぎりセーフ。初めてのテントで雷雨とは「何だかなぁ」と思うが、テントは私が思うよりとてもしっかりしており、雷雨でもそんなに不安感はない。マットを敷いて横になった。どれくらいの時間だったであろうか。次第に雷鳴は遠ざかり、雨脚は弱まった。恐るおそるテントより顔を出す。暗くなっていた空は明かるさを取り戻し、青空が覗いていた。
テントより出て、自分のテントを眺めてみる。
なかなか良い。あの雷雨にも物怖じなどせず余裕で耐えた貫禄を、誇らしげに私に伝えているようだ。今後も私と一緒に山に行ってくれる強い味方になってくれるに違いない。テントと私の間に信頼関係が生まれている。大切にしたいと思う。
沢をぼんやり見る。勢いよく水が流れる様子をみて気付く。ここは標高1000mの場所だった。
雷雨中、半ば強制的に休憩時間となった為か、私の足も、疲れてしまった心も軽くなっていた。テント場より山小屋までは急な登り坂であるが、足取りかるく登れるようになっていた。
三条の湯
三条の湯はその名の通り温泉が有名である。時刻は16時。夕飯前に温泉に入ろう。少しウキウキしながらお風呂に向かう。温泉は、源泉100%のかけ流しpH 10.3の高アルカリ性の「単純硫黄冷鉱泉」、薪で沸かされている。
初めてのテント泊を「三条の湯」にしたのは、温泉に入れることだった。ここは、とても評判の良い温泉である。やはり、初めてすることは、何かしら楽しみがあるほうが良い。
山小屋泊の人を含めて、女性宿泊者が少なかったこの日のお風呂は、貸し切り状態で入浴出来た。石鹸やシャンプーは沢の水を汚してしまう為使えない。かけ湯をして汗を流し、湯船に入る。気持ちいい。少しぬるぬるして、硫黄の匂いがするとても良いお湯。お風呂場の窓からは空と山が見える。まるで露天風呂気分だ。
湯船で肩まで浸かって一息つく。とても良く温まるので、腰湯や足湯等を繰り返して温泉を楽しむ。浴槽には湯の花が浮かんでいる。窓から「空」と「山」を眺めていると、ここまでの山歩きの疲れ含め、日常の疲れまでが癒されるような気がした。
山ご飯とビール
ゆっくり温泉を楽しんだ後、山小屋で缶ビールを買った。こんな山奥で、冷えた缶ビールを買える事にすごいと思う。
キンキンに冷えたビールを手にして、テント場に戻る。相棒のテントが待ってくれている。
早速、ビールを一口。キンキンに冷えたビールの味は最高の言葉しかない。
先ほどの雷雨後、辺りはかなり涼しくなっていたので、ビールをテントの前室におき、テントの中に入る。温泉でほかほかに温まったので、テントは通気を良くして虫が入らないよう網のみ閉める。ザックの荷物を片づけて、再度少し横になった。
スマフォで時間を確認すると17時。そういえば、ここは携帯の電波は入らない事を思い出す。バッテリー節約のために「機内モード」に設定する。予備のバッテリーは持参しているので、寝る前に充電すれば良いか。圏外だし。
夕飯はご飯を炊くと決めていた。温泉に入る前に、持参した無洗米はコッヘルで浸水している。炊く時間と蒸らす時間を考えると、そろそろ炊いたほうが良さそうだ。辺りが暗くなる前には食べ終わりたい。17時30分頃、山ご飯開始。
まずご飯を炊く。先程から飲み始めているビールを片手に、火加減を観ながら炊飯する。匂いも大事。ほどなくご飯の良い匂いがしてきた。付きっきりの炊飯であるが、失敗するより手をかけた方が良い。火からおろした後、タオルで包み蒸らす。約15分間蒸らして蓋を開けた。米粒につやがあり美味しそうに炊けている。結構嬉しい。私だってやれば出来るじゃないかと、自分を褒めた。
夕飯を食べて、なんとなく片づけをしても18時過ぎで、通常では寝るには早すぎる時間。こういう時便利なのがネットであるが、この辺りは圏外。
どうしようかなぁと、テントの中でゴロゴロした。
もう一度温泉に入ろうと、テントを開ける。すっかり日も落ちて外は暗くなってきており、帰りには真っ暗になリそうだ。気温はさらに涼しくなっており、Tシャツ一枚では寒いので上に一枚着てから、ヘッドライトを持参して再度温泉に向かった。お風呂の窓から、夜が更けようとしている山を観る。辺り一面が暗くなっていたが、意外にも空は明るいと感じた。
消灯時間前の山荘の食堂では、ギターを弾いて楽しんでおり、そのギターの音色がとても心地よい。空を見上げると、日もとっくに落ちているのに明るく感じるその空で、星が輝いていた。
テントに戻り、シェラフを出して中に入ろうとしたが、温泉に入った後で体が温まり、シェラフどころでなくテントの中まで熱い。網戸にしてゴロゴロした。少しうとうと、目が覚めて、またうとうと、少し涼しくなり、テントを閉めたり、シェラフを出したり、うとうとしたりを繰り返した。
始めてテントの中で過ごした時間は、空が、辺りが、明るくなった事で終わりになった。周辺では、テントをたたみ、出発する人もちらほらおり、山頂で日の出が観られそうな空が広がっている。
テントから出て、お湯を沸かしてスープを飲んだ。ホッとする。濡れたタオルで顔を拭き、卵を焼いて、朝ごはんを食べた。
さぁ、私も出発の準備始めないと。テントを片付け、荷物をザックに詰め込んで出発した。