Yahoo!ニュース

脚本家・倉本聰が取り組んでいる新作ドラマ『やすらぎの刻(とき)~道』とは!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

脚本家・倉本聰さんが現在、『やすらぎの郷』(17年、テレビ朝日系)の続編となる『やすらぎの刻(とき)~道』(19年4月から1年間の放送、同)の執筆に取り組んでいます。しかも、この新作で描かれるのは、老人ホーム「やすらぎの郷」の“その後”の物語だけではありません。

筆を折っていた主人公、脚本家の菊村栄(石坂浩二)が発表のあてもないまま、“新作ドラマ”を書き始めます。菊村の頭の中だけで作られていく物語であり、倉本さんはこれを「脳内ドラマ」と呼んでいます。『やすらぎの刻~道』では、やすらぎの郷の現在だけでなく、この脳内ドラマも映像化されていくのです。

物語は昭和11年から始まります。主人公は山梨の山村で生まれ育った少年。昭和10年生まれの倉本さん本人より、ちょっと年上ですね。この設定について倉本さんに問うと、「元々20歳だった徴兵年齢がどんどん下がり、最後は17歳までいった。終戦の時、僕は11歳で召集の恐怖はなかったけれど、2、3歳上の人たちにはあったはず。その一番怖いところに差しかかる年代を題材にしたかった」。

また脳内ドラマには、物語上の重要な場所として満州が出てきます。

「満州では開拓民が集団自決したり、ソ連兵にひどい目に遭わされたりしました。その末裔が日本に逃げてきて山奥の村でひっそり暮らしている。そういう女性を、たとえばマヤ(加賀まりこ)にやらせてみたい」と倉本さんは言います。

前作の『やすらぎの郷』では、姫こと九条摂子(八千草薫)が亡くなり、及川しのぶ(有馬稲子)は認知症となって去り、三井路子(五月みどり)もスタッフと結婚していなくなってしまった。さらに井深涼子役の野際陽子さんも逝去しました。

しかし、脳内ドラマにはこうしたメンバーもキャスティングされていきます。なにしろ脚本を書いているのは菊村なので、配役のイメージも自由自在なのです。視聴者は、親しんできた懐かしい人たちと、前作とは違った形で再会できるかもしれません。

倉本さんによれば、『やすらぎの刻~道』のキーワードは、「原風景」です。「子供の頃に遊んで帰った、田舎のどろんこの一本道がある。やがて舗装されると人々が町へと出ていく。故郷は過疎になり、道にはペンペン草が生えてくる。それが登場人物たちの原風景。いつかそこに帰っていきたいという老夫婦を書きたい」そうです。

場所も時代も違う2つの物語が同時進行して、しかもそれが入れ子細工になっていく。通常のドラマとは大きく異なっており、いわば新たなドラマの形の提示だとさえ言えるでしょう。

1年間、毎日放送される帯ドラマですから、全体で約250本。83歳の現役作家による、文字通り命がけの挑戦です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事