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住む家を失くしパパ活で凌ぐ主人公の新人女優。濡れ場は「日常のひとつでゆらぎを描くシーンになりました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『つゆのあとさき』に主演した高橋ユキノ (C)2024BBB

コロナ禍の渋谷で、困窮した生活をパパ活で切り抜ける女性たちを描く映画『つゆのあとさき』が公開された。永井荷風による昭和初期の銀座のカフェーを舞台にした小説が原案。マジックミラー越しに男性が女性を物色する、現代の出会い喫茶に置き換えている。主人公を演じたのは新人の高橋ユキノ。濡れ場にも挑みながら、理不尽に抗って日々を生き続ける姿をリアルに体現した。インタビュー後編では撮影の裏話から、今後の人生の展望まで語ってくれた。

インタビュー前編はこちら

ロリポップは母乳を吸っている感覚で

永井荷風が 1931 年に発表して、「昭和初期の銀座の風俗史」と称された小説が原案の『つゆのあとさき』。映画ではコロナ禍の渋谷が舞台に。キャバクラで働いていた琴音(高橋ユキノ)は、店が休業して同居していた男に家財を持ち逃げされ、家賃を払えず行き場を失う。知り合った楓(吉田伶香)の紹介で出会い喫茶に出入りして、パパ活で日々を切り抜けていた。同じ店で出会った大学生のさくら(西野凪沙)と友情を深めながら、軽薄な男たちを相手にしていく。

――琴音はヘッドホンをして、ロリポップを舐めて街を歩いています。何かを象徴しているものでしょうか?

高橋 ヘッドホンは自分と他者を分断するものとして、使っている人は多いと思います。ロリポップは、撮影中に監督がおっしゃっていたのが、赤ちゃんがお母さんの母乳を吸っている感覚に近いと。

――琴音はタバコも吸って、風呂でビールを飲んだりもしていました。

高橋 私はお酒は飲めないんです。もちろん撮影ではノンアルコールでしたけど、缶ビールを飲む仕草はちょっと練習しました。

(C)2024BBB
(C)2024BBB

当事者がどんな子なのかを大切にしたくて

――パパ活や出会い喫茶について調べたりもしたんですか?

高橋 調べました。当事者の女の子と会える機会があって。

――実際にパパ活をしている人と?

高橋 そうです。だけど、その子から何かを聞き出そうとするわけでなく、ただ一緒に遊びました。パパ活の取材としてカフェで会ったりしたら、視野を狭めてしまう。パパ活を生業としている彼女自身がどんな子なのかを、大切にしたくて。

――表面的なところを取り入れるのではなくて。

高橋 彼女を試写に招待させてもらったら、「キラキラのパパ活みたいに描かれていなくて嬉しかった」と伝えてくれました。観た人がパパ活女子をアイコンとして憧れるような映画でなくて良かった、ということでした。

――パパ活の当事者がそう思ったんですね。

高橋 パパ活って言葉のキャッチーさもあるのか、コンテンツとして消費されやすい気がします。今回の『つゆのあとさき』は、そういう作品にはなっていないと思います。

普通の人たちが一生懸命になっていました

――結果的に演技に役立つこともありました?

高橋 そうですね。パパ活あっせん所のような出会いカフェも訪れたんですけど、その子と同じ印象を受けました。マジックミラーの向こうに入ったら、そこにいたのは、みんなが想像するような歌舞伎町で遊んでいる子でも、渋谷のキラキラした子でもなくて。本当に普通の女子大生みたいな人たちばかりだったんです。

――「今日すれ違った人の中に、彼女たちがいたかもしれません」とコメントもされていました。

高橋 パパ活をしている人と接する機会は少ないし、枠組みや言葉の強さで「こういう感じ」と見られてしまいがちですけど、実際に会って話すと、本当に一生懸命な人たちなんです。だから、琴音はパパ活を生業としている役でも、そこに引っ張られるのでなく、人を演じる。琴音がどんな人間なのか、というところに集中しようと思いました。

イヤという気持ちは全然湧きませんでした

――濡れ場やヌードもあることは、オーディションのときから知っていたんですよね?

高橋 オーディション前に脚本を読ませてもらって、琴音という人間が生きている中での、ひとつひとつのシーンでした。そこだけいきなりバンと描かれているわけではなくて、パパ活をしながらの日常。私としても必要だと思ったので、こういう場面があるからイヤというような気持ちは全然湧きませんでした。完成して試写で観ても、ちゃんと人物のゆらぎを描くシーンになっていると感じました。

――確かに、濡れ場でも絡む相手と状況によって、琴音がまるで違う顔を見せていたのは、他のシーンと同じでした。

高橋 そうですね。どんな顔をしようかと、考えていたわけでもないですけど。

――そういうシーンは初めてではあったんですよね?

高橋 初めてです。『遠吠え』では義理の父親に性的虐待を受ける役でしたけど、キャミソールを付けていたので。

見え方を理解しながら動くのは難しくて

――撮影での緊張感はありました?

高橋 もちろんありましたけど、インティマシーコーディネーターの西山ももこさんに入っていただいて、常に一緒にいて繊細に気をつかってくださって。私は基本的にモニターチェックをしないので、西山さんが見て「この体勢なら、こうしたほうが見え方がきれいだよ」とかアドバイスをもらっていました。アクションみたいなものなので、どう見えているか理解しながら動くのは、初めてで難しくて。自分が見えない部分に助言をいただいたおかげで、お芝居に集中できて助かりました。

――モニターチェックをしないのは、何か理由が?

高橋 目の前にモニターを持ってきてもらったら、普通に観ますけど、監督が観ているので。「こう映っているから、こう動いて」みたいな必要性がなければ、自分からのぞきに行くことはないですね。

初日にラストシーンを撮ったんです

――この映画の撮影全体を通じて、悩んだことはありました?

高橋 初日にラストシーンを撮ったんです。私は映画に参加した経験が豊富でないので、こういうこともあるのかと。

――それまでの物語の末に涙をするシーンで、何も演じてないうちに撮るのは感情の込め方が難しそうですね。

高橋 流れを本当に理解して臨まなければいけない。琴音が抱えているものを全部持っていって、初日に出さなければいけない。自分の中で覚悟が必要でした。監督も緊張感がすごく高まっていましたね。

――結果、映画の最後に胸が震えるシーンになりました。

高橋 確か2テイクくらいしか撮りませんでした。そこで最後を撮ったからといって、それ以前のシーンをただ筋道を辿るように逆算で演じてしまうと、すごくつまらなくなってしまうと思って。初日を終えたあとは考えすぎず、自由に演じられるように個人的な闘いがありました。

炎天下の長回しを10回くらいやり直しました

――パトロンだった男に「うるせえよ! 金しかねえヤツが偉そうに言うな!」とキレるところも、感情を高めて臨んだんですか?

高橋 あのシーンは爆発したというより、そんなつもりはなかったのに漏れ出てしまった感じに捉えていました。少し油断していたところで、引き出されてしまったというか。1テイク目はもう少しひょうひょうとしゃべっていて、2テイク目でちょっと荒げてみて……というような演出が入りました。

――さくらと渋谷の街をタピオカを飲んで話しながら歩くシーンは、だいぶ長回しだったようですね。

高橋 そう言えば、あのシーンは大変でした。カメラと私とさくらの距離が結構あったので、人が横切ったり入ってきちゃったりは、当たり前にあるので。炎天下で、あの長回しを10回くらい撮り直したんです。そのたびにタピオカを補充して。渋谷で撮影する大変さを実感しました。

撮影中に酔っぱらった人に絡まれたり

――あと、最初の住むところがなくなって、キャリーバッグを引きずって歩き回るところは、やつれ切った顔になっていました。

高橋 あれは朝方に撮影して、メイクでやつれた顔になっていますけど、実際にやつれていたかもしれません(笑)。新宿であの姿で歌舞伎町の近くを歩いていたら、カメラがちょっと離れていたから、撮影だと気づかれなかったんですよね。酔っぱらった朝帰りのサラリーマンの人に、絡まれたりもしました。

――それだけリアルに演じられていたんですね。

高橋 あそこまでやつれた状態が、リアルな光景として信じられてしまう街ということですね。

やるせなさは消えなくても出会いに感動が

――琴音がラストシーンのあと、どうなったのかわかりませんが、高橋さんはくさくさした10代から役者になってコロナ禍も経て、今はいい感じの人生ですか?

高橋 今も何だかやるせない気持ちになることはあります。ゆらぎが消えはしないので。

――さくらから「生涯のうちに一度でも面白いことがあれば、生まれた甲斐がある」というメールが来るシーンもありました。そういうことには巡り合いました?

高橋 それはやっぱり人との出会いだと私は思います。くさくさして街を蹴っ飛ばしたい気持ちで歩いていた時期は、自分のことで精いっぱいすぎて、人に何も関心を示してなかったんですけど、今は本当に人が大好き。人と出会うことでこんな気持ちになるんだと、自分1人では生まれない瞬間があったり、相手のほうがそういう気持ちになったと伝えてくれたり。そんなときに、生きている甲斐があるなと思います。他者と共にあることで、人生に感動を生むと思っていて。それだけで生きていけます。

他者と共にある自分で生きていきたい

――これからの人生で成し遂げたいこともありますか?

高橋 今お話ししたことと一緒で、これからも他者と共にある自分でいたい、というのがあります。他の人たちと一緒に作品を作って、顔も知らない人たちに届けていく俳優の生業も含まれていますし、日々誰かと出会って生きていくという、ふたつの意味合いがあります。そんな自分でいたい人生です。

――『つゆのあとさき』の公開前には、上映されるユーロスペースで自らチラシ配りをしていたそうですが、「もっと売れたい」みたいなことは思いませんか?

高橋 これからもっともっと芝居を鍛錬して、面白い景色を見ていけたら、ワクワクするなと思っています。

チーズfilm提供
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Profile

高橋ユキノ(たかはし・ゆきの)

1998年1月16日生まれ、千葉県出身。2018年に劇団橙『妥協点P』のヒロインで女優活動を始める。主な出演作は映画『遠吠え』、『私の愛を疑うな』、ドラマ『虎に翼』など。映画『つゆのあとさき』が公開中。

『つゆのあとさき』

原案/永井荷風 監督/山嵜晋平 脚本/中野太、鈴木理恵、山嵜晋平

出演/高橋ユキノ、西野凪沙、吉田伶香、渋江譲二、守屋文雄、松㟢翔平ほか

ユーロスペースで公開中

公式HP

(C)2024BBB
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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