『マイダイアリー』のやさしさが思い出させてくれたもの。続編を観たいというより、5人とまた会いたい
大学卒業からの葛藤も描かれて
大学生5人の群像劇『マイダイアリー』が最終回を迎えた。やさしく思い合う仲間たちの小さな物語が愛おしいドラマと、以前も書かせてもらった。
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卒業がクライマックスになるのかと思っていたら、そこは7話で「子どもでいられる最後の日」として描かれたあと、2話にわたって社会に出て1年目の物語も紡がれた。
毎話の冒頭で、恩村優希(清原果耶)が「私はふと人生の日記を読み返したくなった」と回想を始めて物語に入っていたが、その現在地に追い付いた形だ。
高校教師になった優希は「私たちが会うには、もう口実が必要なんだ」と心の声を発していた。大人になっていく中での葛藤まで繋がったことで、より胸に染みるドラマとなった。
思いやりから関係が崩れるやるせなさ
最終回前の8話。理学部数学科の大学院に進学した徳永広海(佐野勇斗)は、論文が若手研究者の賞を受賞。卒業前にはアメリカの大学からの誘いを「1人になりたくないから」と密かに断っていたが、それを知った恋人の優希は「広海は遠くに行くべき人だよ」と別れを切り出す形で、背中を押そうとした。
そこ自体はありがちな展開ではある。だが、1話からずっと、やさしさについて愚直に悩んできた優希を見てきたからこそ、涙を流しながらこんな話をせざるを得ない彼女に胸が震えた。
広海は小学生の頃にギフテッド(天才)と判定され、学校に行かずホームスクーリングをしていた根っこを引きずってか、大学院生になっても対人関係では子どもっぽいところがある。演技評的には、佐野が広海の歩んできた年月まで体現しているということだが、純粋でもある互いの思いやりゆえに、関係が崩れていく2人がやるせなかった。
最終回で明かされた苦しい胸の内
最終回では、優希が「広海と友だちに戻った」と白石まひる(吉川愛)、長谷川愛莉(見上愛)、和田虎之介(望月歩)に報告したが、3人は納得できない。もやもやしたまま日を置いて、再び3人と会った優希は「広海が数学の問題を楽しそうに解いていて。私はこんな顔にさせてあげられない……」と苦しい胸の内を語り出した。
「広海を嫌いになるなんて無理だから、嫌われるようなことを言おうと頑張ったんだけどな」と声が震えていく。その手に、まひると愛莉がそっと手を重ねた。
虎之介は大学に広海を訪ね、卒業式の日に広海が撮った優希の写真を見せて「こんな笑顔にできる人は広海だけ」と、いつもの表向きは軽い調子で諭す。
優希の元に広海からの手紙が届いた。たくさんの感謝を綴りながら、「もう一度、みんなのいるところで向き合ってみませんか?」と結ばれていた。
それぞれが伝えた想いと奇跡の関係
優希の家に集まった5人。まひると買い出しに出た虎之介は、自分を「推し」と言う彼女に「告白の予告編」をして、まひるも素直な言葉を返した。愛莉は自分が描いた優希の似顔絵を前に「大事な人だと思ってるよ」と伝えていた。
群像劇と銘打った作品でも、登場人物の描かれ方の濃淡はわりとありがちだが、『マイダイアリー』では5人それぞれの物語が、前半の短編集のような流れから並行していた。終盤に出た優希の「やさしさって交換するものじゃなくて、循環するものと思えたらいいよね」との台詞にも結び付いて。
広海が数学の応用でホールケーキを5等分に切る。「私たちの関係性は私たち5人じゃなきゃ成立しない奇跡だよね」と優希が言う。そして、広海はアメリカに行く決意を告げる。「奇跡は5人いる限り崩れない」と晴れ晴れとした顔で。優希は微笑んでうなずいていた。
通り雨が降る中で、ひとつの傘で外に出た2人。「距離は離れても1人にさせない」と言う強くなった広海に、優希も「私も一緒に生きていきたい」と答える。雨が上がった道を手を繋いで歩いていくフィナーレとなった。
自分も人生の日記を読み返している感覚に
毎話3回は観た『マイダイアリー』。関係ない原稿を書いたりしながら、観るとはなしに流していたこともある。そんな環境ビデオめいた使い方をされても、制作側は嬉しくないだろうが、自分でも今までにしたことはない。
音楽もあまり入らない静かなドラマで、作業の妨げにならないこともあったが、優希たちが目に入る状態が、何となく心地良かった気がする。より直に言えば、彼女たちと一緒にいたかった。
『マイダイアリー』を観ていると、いつしか自分が「心のふるさと」で6人目になっているようだった。リアルでは優希のマンションの隣人だったトムさん(中村ゆり)のように、若者たちを見守る立場でいるべき世代だ。しかし、このドラマを観ている時間だけは、自分も人生の日記を読み返すように、心は大学時代に戻っていた。
思い出した話を聞いてもらえるようで
遡ると広海は8話で、教授の喜田義弘(勝村政信)に「数学に向き合っていて楽しいですか?」と聞かれて「もちろんです」と答えると、「それですよ。君のギフトは」と言われていた。
読んでいただいている方にはどうでもいい話で恐縮だが、自分も大学では理学部数学科だった。とは言ってもギフテッドとは程遠く、数学が楽しいとも思えなかった。ただ受験の戦略から選んだだけの専攻。入学後、何度も「なぜ俺は数学を専攻しているんだ?」と愕然とした。追試の連続で命からがら卒業し、数学とは無縁の世界へ逃げた。
そんな数十年前の無駄道を昨日のことのように思い出しながら、広海たちに聞いてもらっているような気にもなっていた。教育学部ながら、4年生になる前に教師でない道を選んだ愛莉なら、わかってくれただろう。
「戻ってこられる場所にいるよ」という友だち
愛莉はそれを優希とまひるに話すのをためらっていた。「同じ道を歩んでいるからこそ、私たちの3年があったと思うと、言えなくて……」と。だが、話を聞いた2人は共に「浮かんだ言葉がふたつある」と言った。
「私たちの3年はそんなヤワじゃないよ」。そして「見守ってる、愛莉のこと。戻ってこられる場所にずっといるよ」。そんなことを言ってくれる友だちが欲しかった。
視聴者の心のふるさとにもなったドラマ
今年最後のクールのドラマも次々に終わっていく。『全領域異常解決室』とか『嘘解きレトリック』とか、物語の続きを観たいと思う作品もあった。
だが、『マイダイアリー』は少し違う。続編を観たいというより、また彼らに会いたい。社会人として大人になった優希に、広海に、まひるに、愛莉に、虎之介に、いつの日かまた……。
視聴者にとっても、心のふるさとになっていた『マイダイアリー』。そこまで愛おしい気持ちにさせてくれたドラマを、令和で他には思い出せない。