「人生最大の挫折を経て変わりました」 小西桜子が映像業界の実話を基に脚本家をどん底におとしめる役
4年前に『ファンシー』『初恋』と立て続けにヒロインを演じてデビューした小西桜子。フリーでの活動から今年は事務所に所属し、20日公開の映画『ありきたりな言葉じゃなくて』でもヒロインとして出演している。数々の報道情報番組やバラエティを制作するテレビ朝日映像による初の長編オリジナル映画。映像業界での実話を基にしていて、小西はドラマで脚本家デビューが決まった主人公をおとしめる役どころだ。演技力を高く評価されながら、この1年で「仕事をやめる選択肢も考えた」という彼女に、心情の変化も含めて語ってもらった。
チャンスを待つより自分からアクションを
――髪をだいぶ切ったんですね。
小西 お仕事が空いた時期に、心機一転で切ろうと思いました。これでも今は伸びてきましたけど、4月に一度、後ろを刈り上げるくらいにバッサリ切ったんです。そんなに短くしたことはありませんでした。その後は伸びたら、また切っている感じです。
――9月にフリーからトライストーン所属になって、初仕事の埼玉県の交通安全広報大使就任の会見で「野心やハングリー精神が増してる」「ビッグになりたい」といった発言をされていました。
小西 いっぱい話した中で、ちょっと恥ずかしいところを取り上げられたんですけど(笑)、自分からアクションを起こしていきたい想いはすごくあります。チャンスを待っているより、「オファーください」と発信していきたくて。
――心境の変化があったわけですか?
小西 今年に入って、お仕事を万全にできる態勢を取れない時期が長くて、俳優をやめる選択肢も考えたんです。そんなときにご縁に恵まれて、今はチャンスもたくさんあるので。これからは遠慮せず、強い気持ちでいかなければと思いました。
情報番組のような描き方がされているなと
――小西さんはあまりガツガツしてない印象がありましたが、胸の内では燃えるものがあったと?
小西 あるんですけど、自己主張しすぎても嫌われるかなと思って、そんなに表に出していませんでした。そこはもっと言っていこうかなと。
――会見では「朝ドラや大河をやりたい想いがずっとあった」との話も出ていました。自分でも観ていたんですか?
小西 よく観ていました。今年の『虎に翼』も今の時代へのメッセージ性があって、すごく好きでした。そういう作品をやってみたいと思っています。
――『ありきたりな言葉じゃなくて』は昨年冬に撮影したそうですが、テレビ朝日映像で45の企画から選ばれたという熱量は、脚本からも感じました?
小西 脚本はだいぶ変わりましたけど、最初は映画というより情報番組のような、事実を辿る描き方がされている印象がありました。そこはテレビ番組の制作会社さんらしい感じがします。
嫉妬心や怒りや恨みが積み重なって
――キャバクラで働くりえのような“何かを抱えた役”を演じられることが多いですね。
小西 ありがたいことに、私にそういう印象を持っていただいていて。でも、今まで演じてきた役とは全然違うので、ちゃんと演じなければと思いました。
――りえ役について、どんなことを考えたり練ったりしました?
小西 回想シーンはあっても、脚本で描き切れない部分が多くて。そのバックグラウンドや、りえが今に至った道筋は、かなり考えて臨んでいます。
――脚本家を目指す主人公の藤田拓也(前原滉)をおとしめることをしますが、りえ側に立つと心情はわかりましたか?
小西 いろいろな積み重ねなんだろうなと思います。きっかけは拓也でも、りえの中の嫉妬心、怒り、恨みが重なって、彼にぶつけてしまった。そこは点ではなく全体を見て、演じるようにしました。
だらしなさや思慮の浅さが見えてトリガーに
――キャバクラに来た拓也のはしゃぎぶりは、背景を知らなくても見ていてイラつく感じはしました。
小西 拓也はまともな人ではありますけど、ちょっと気が緩んでいて、だらしなさや思慮の浅さが見えて。それがりえのトリガーになった気がしました。
――りえの怪訝そうな表情の意味も、後になってわかります。
小西 あれは初日くらいの撮影で、どんなあんばいが正解か、監督と話し合いながら試行錯誤した覚えがあります。
――キャバ嬢として、いかにもな営業スマイルも見せていました。
小西 りえには本当の夢ややりたい仕事があったけど、いろいろな事情があって、キャバクラで働いている。その不憫さは自分の中で描きながら、演じた感じです。
――拓也の脚本家デビューの台本にサインをもらったり、一緒に卓球をしているシーンは楽しげでしたが、そこも腹にいちもつ的な部分はあって?
小西 もちろん思うところはあったはずですけど、振り返ったときに拓也と共有した時間は、悪いことばかりではなくて。だから、そこはあまり考えず、その瞬間に自然に出てくるままに演じました。卓球は普通に楽しかったです(笑)。
途方もない話し合いを重ねた後は楽しもうと
――クライマックスの拓也と言い合うシーンは、すごい緊迫感でした。
小西 あそこは撮影前日の夜まで、脚本が変わったんです。監督やスタッフの皆さんと意見を出し合って、正解がひとつでないからこそ、ゴールに向かうまでに時間が掛かって。でも、途方もない話し合いを重ねた末に「この脚本でいきましょう」となった後は、考え込まずに楽しもうと。りえのことを考える時間は十分あったので、もう大丈夫。不安や緊張より、その瞬間に出るものを信じようと、前向きな気持ちで臨めました。
――役としての感情で、涙も自然に流れたんですか?
小西 そうですね。難しい台詞ではありましたけど、あまり意味を考えず、覚えてきたものをアウトプットするだけで、生まれてくる感情に委ねました。
――その後にも号泣シーンがありましたが、役でもあそこまで泣いたことはなかったのでは?
小西 あまりないですね。今回、りえのすべてを描いたわけでなく、瞬間を撮ったカットが多くて。りえの過去をどれだけ自分が作れるかに掛かっていて、ものすごく集中はしていました。大事に作りたかったので。
わかり合えなくても作品を通じて共感できて
――小西さんは撮影に入る前に、参考になりそうな作品をたくさん観るとのことですが、今回もそうでした?
小西 観返した作品は結構ありました。言いたいことを言えないで抑えている役だったので、本当のことを言うのは難しい……と思うような映画を観て、気持ちを寄せたのは覚えています。
――どんな映画を観たんですか?
小西 それが、監督とあるシーンについて話し合って、全然共感できなくて。もう無理かもとなったとき、私がその映画を観たと話したら、監督も観ていたんです。これだけ理解し合えないのに、同じ映画に通じるものを感じていたことに、ある種の感動を覚えました。その映画は何か? という話ですよね(笑)。
――言えないような映画なんですか(笑)?
小西 言ってもいいんですけど、今回の作品と表向きは似ても似つかなくて、参考にする何かがあったわけではありません。『生きてるだけで、愛。』という映画です。
――うつで引きこもっている主人公と同棲している恋人の物語ですね。
小西 私も監督もあの映画をとても好きだと言いながら、あるシーンの価値観がどうしてもわかり合えない。逆に、人と人はどんなにわかり合えなくても、ひとつの作品を通じて共感できることに、ちょっと感動したんです。言葉を超えた何かを感じたのは拓也とりえにも繋がるし、不思議な瞬間を体験しました。
現実派と感覚派で意見は言い合いました
――それにしても、監督とそんなに感覚の違いがあったわけですか。
小西 監督はドキュメンタリーを撮っている方だから、現実派で地に足のついた考えを持っていて。私は感覚派で宙に浮いている感じで、たぶん思っていることは同じでも、お互いの言葉の意味を理解し合えないところが、どうしてもありました。それが『生きてるだけで、愛。』の話から、ちょっと通じ合えた感覚です。
――撮影の早い段階で歩み寄れたんですか?
小西 お互い遠慮せずに、意見はずっと言い合っていました。もちろん理解できるところもたくさんありましたけど、そうでない部分がひとつあった、ということです。事実や言葉を超越した神秘的な瞬間みたいなものが、この作品には必要という気もしました。
――後半のりえが再び拓也の前に現れたところは、どういうつもりだと捉えました?
小西 あれは私も監督に聞きました。個人的な解釈としては、りえも感情の整理がついてなくて。今まで溜め込んできたものが爆発して、どうしていいかわからないまま、子どものように自分のことを知らしめたいという動機だったのかなと思います。「絶対におとしめてやろう」という意志がないと、行けないですよね。
脳みそがねじ切れるくらい考えるのは当たり前
――拓也が言う「脳みそがねじ切れるくらい考える」ことは小西さんもしますか?
小西 今回の脚本を読んで、限界まで考えたと思います。でも、この台詞はいろいろな意味合いを持っていて。本人が脳みそがねじ切れるくらい考えたつもりになっていることが、おごりというか。自分の想像力やキャパシティを、逆に狭めている気もします。私にはあまりしっくりくる言葉ではないです。
――演技について、頭が痛くなるほど考えることはあるんでしょうけど。
小西 ありますけど、「これだけ考えた」とは言いたくなくて。考えるのは当たり前のことで、それくらい考えるべきだし、限界はないと思います。
――小西さんは文才もお持ちで、自分で脚本も書いてみようとは思いませんか?
小西 文章を書いて自分の世界で完結するのは好きですけど、映画の脚本となると、演じる人、撮る人……と、いろいろな人と一緒に作るので。そこは壁があって、脚本に興味を持ったことはありません。
やめる選択肢を深刻に考えたことも
――小西さんはりえと違って、夢を諦めないで生きてきたんですよね?
小西 いちおう、そうですね。
――でも、最初に出たように、やめる選択肢を考えたこともあったと。
小西 一時的なものというより、毎日深刻になっていた時期もありました。
――女優として高い評価を受けていても?
小西 そんなことは全然なくて。自分がもともと、すごい美人とか存在感が強いとか、生まれ持ったものがあるタイプではないので。必死に努力して何とかやってきたので、向いてないかもと思うときはやっぱりあります。
――それこそビッグになろうと、高みを目指す裏返しでもあるんでしょうけど。
小西 「ビッグに」はビッグマウスですけど(笑)、いい役者になって、いい作品に関わっていけたらと思っています。
ひとつひとつを謙虚に積み重ねていけたら
――そんな役者になるために、努力していることもありますか?
小西 お芝居に限らず、こういう取材だったり仕事のひとつひとつに誠実に妥協せず、決して甘んじず、謙虚に積み重ねていきたいです。それが巡って、いろいろなご縁に繋がればいいなと。仕事の大小にかかわらず、目の前のことからやっていくのが大切かなと思っています。
――インスタで映画『哀れなるものたち』に興奮を覚えたと、主人公のベラの刺繍を縫った写真が上がっていました。
小西 すごく好きな映画です。もの作りへのパッションや生命力みたいなものを感じました。海外の作品のスケールに自分がちっぽけに感じて、触発もされました。
――エマ・ストーンが、胎児の脳を移植されて子どもみたいなところから、だんだん大人らしくなっていく演技が圧巻でした。
小西 難しい役ですごいですし、演じるだけでなく、プロデューサーとして制作の全部に携わっていて。すべてに責任を持って主演も務めるのは、本当に尊敬します。レベルが違いますけど、そういう道をどんどん切り拓いていく姿に、自分も頑張らなければと思いました。
――それで刺繍にすることはよくあるんですか?
小西 いい作品を観ると、刺繍に残しています。縫うのも好きなので。
一周回って野心も芽生えました
――年末に『ありきたりな言葉じゃなくて』が公開されますが、今年はどんな1年でしたか?
小西 去年の年末くらいに自分の心がダウンしていて、1年後はどう過ごしているか、すごく不安だったんです。人生で一番くらいの挫折感も、この1年にありましたけど、それを経て、とんでもないくらい自分が変わりました。前向きになって、一周回って野心も芽生えて、内面的に成長できたと思います。振り返れば、どれもこれも必要な経験だったので、結果的にはいい年になりました。
――沈んでいたときは、家から一歩も出なかったり?
小西 表に出ないことをいろいろやっていて、バイトもしないと生きていけなくて、道すがらで座り込んだりしながら家と往復していました。でも、それが辛いとも思わず、むしろ今までが恵まれすぎていたので、必然かなと。神様が「もっと頑張れ」と言っているように感じていました。
何があっても笑い飛ばせるように
――去年の秋の取材では「ダイビングのライセンスを取ったのに、1回しかやってない」との話がありました。今年の夏は潜ったんですか?
小西 潜りに行かなければと思いながら、それどころでなかったので、海に行ってません。たぶん体が忘れてしまっているので、一度テストダイビングをして、来年ちゃんと潜りたいです。
――来年はどんな1年になりそうですか?
小西 飛躍の年になればいいなと思います。今年はネガティブになっていたときがあった分、来年は何があっても笑い飛ばせるくらい、ハッピーなマインドで過ごしたくて。謙虚な気持ちは持ちながら、今までで一番良かった年を更新できるようにします。
Profile
小西桜子(こにし・さくらこ)
1998年3月29日生まれ、埼玉県出身。2020年にデビュー作の映画『ファンシー』と『初恋』でヒロイン。主な出演作はドラマ『猫』、『京阪沿線物語~古民家民泊きずな屋へようこそ』、『レンアイ漫画家』、『スイートモラトリアム』、映画『映像研には手を出すな!』、『佐々木、イン、マイマイン』、『はざまに生きる、春』、『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』など。12月20日公開の映画『ありきたりな言葉じゃなくて』、1月11日スタートのドラマ『風のふく島』(テレビ東京系)、1月14日スタートのドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)に出演。
『ありきたりな言葉じゃなくて』
監督・脚本/渡邉崇 原案・脚本/栗田智也
出演/前原滉、小西桜子、内田滋、奥野瑛太ほか
12月20日より全国公開 公式HP