安倍総理がいる限り自民党への逆風は止まらない
東京都議会議員選挙で安倍自民党は大惨敗を喫した。獲得議席数は第一党に躍り出た都民ファーストの会の半分以下、公明党と同数で共産党をやや上回る選挙結果は過去にはない負けっぷりである。
二階自民党幹事長は「敗因を良く分析して」とおとぼけを言ったが、よく分析しなくとも敗因ははっきりしている。安倍総理が作り出した「情実政治」のなれの果てがこの選挙結果になった。
強いものにはペコペコしながら弱いものは切り捨て、お友達を優遇する「政治の私物化」を隠蔽するため強権をふるう。それが「森友問題」を契機に国民の目にはっきり見えてきた。
そもそも安倍政権が米国の要求に屈し2015年に集団的自衛権の行使容認を決めた時、私は「政権は地雷原に入った」とブログに書いた。地雷に触れずに通り抜けられるか、地雷に触れて自爆するか、危険な綱渡りが待っていると私は考えた。
「世界の警察官」を続けられなくなった米国は日本の自衛隊に「テロとの戦い」を肩代わりさせ、また第二次朝鮮戦争にも出兵させようと考えてきたが、これまで日本は憲法を盾に言を左右にしてきた。しかし安倍政権は憲法解釈の変更によって要求を受け入れ米国を大いに喜ばせた。
それは日本の軍事的経済的負担の増大を意味する。従って国民の理解を得なければならないが、安倍政権は理解させないまま決定を強行し国内を分断させた。強いものにはペコペコしながら弱いものは切り捨てる例の一つがこれである。
幸い軍事的経済的負担を国民が実感する事態がまだないため、安倍政権は地雷に触れずに地雷原を進んできた。しかし今年2月に総理夫人が名誉校長を務める小学校に8億円の値引きで国有地が売却された「森友問題」が発覚し、私は安倍政権がついに地雷を踏んだと思った。
国会で追及を受けた安倍総理は「妻も私も関わっていない。関わっていたら総理も国会議員も辞める」と明言し、財務省は交渉記録すべてを破棄したと答弁した。これが今回の選挙大敗のすべての出発点である。
弱いものを切り捨てるのが身についているのか、安倍総理は仲間だったはずの森友学園前理事長を「トカゲのしっぽ切り」にする。「しっぽ」はやむなく捨て身の反撃に出た。昭恵夫人が値引き交渉に関与していた事実をはじめ、安倍総理が重用する稲田防衛大臣や憲法改正時のパートナーとなる日本維新の会について次々に暴露を始めた。
口封じのためか検察を動かし逮捕させようとしているようだが、国有地売却に関わる案件を捜査すれば、財務省の内部にもメスが入ることになりかねず、検察は本命でない案件しか捜査していない。これでは前理事長が捜査に協力する限り検察が逮捕できるとは思えない。安倍政権はやっかいな「しっぽ」を敵にしてしまった。
「森友問題」から目をそらすためか、安倍総理は3月に入ると急きょ予定になかった「共謀罪」の通常国会成立を急がせた。国論が二分する問題を次々に打ち出して時間を限って結論を出させるのは、ナチスが得意とした国民に考える暇を与えない手法である。5月に「憲法改正」を急がせる方針を打ち出したのも同様である。
こうして目をそらすための無理をしてきたが、しかし「森友問題」は終わらない。そのうちに「第二の森友」と呼ばれる「加計問題」の追及が始まった。こちらは資料をすべて破棄した財務省とは対照的に文科省の中から資料が出てきた。それは霞が関の官僚機構に官邸や内閣府に対する不満のマグマが充満していることを物語る。
さらに読売新聞と官邸が連動して文科省の前事務次官の人格攻撃を行ったことで、権力に追随するメディアの問題もクローズアップさせた。一般紙に対抗心を燃やす週刊誌が一斉に安倍政権批判を過熱させたのは読売報道を見たからである。それが都議選を前に盛り上がった。
そして安倍総理のお気に入り稲田防衛大臣が選挙の応援演説で法律違反と思われる問題発言を行う。普通の国なら即刻罷免になるケースだと思うが、不思議なのは安倍総理はそれをしない。あくまでも「お友達」や「妻」など自分の周辺は守ろうとする。それを世間では「情実」と言って「不公平」の極みと考えるが、安倍総理にはそれが分からないのである。
そして今回の選挙を象徴したのは最終日の秋葉原での安倍総理の街頭演説であった。「共謀罪」の強行可決以来支持率が下がり、野次を恐れてか屋内だけで応援演説を行っていた安倍総理が街頭演説を行うかどうかに注目が集まっていた。演説の予定が決まるとネット上で話題となり安倍総理を批判する人たちが会場に集まった。
そこには森友学園の前理事長夫妻も訪れ、安倍総理に「うそつき」、「辞めろ」の声を上げた。批判派のブーイングに安倍総理は色をなして反発する。「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫ぶのを聞いて、この人には自分が国家の代表である「総理」である意識より「お友達」や「味方」を優遇する「情実」の人であることを痛感した。
しかし翌日の選挙で自民党は「負けた」。獲得した候補者の票数は都民ファーストのほぼ半分であるおよそ120万票、前回選挙より40万票以上減らした。ちなみに公明党も共産党も前回選挙よりそれぞれ9万票と16万票増やしている。
公明党は今回都民ファーストと選挙協力を行ったが、これまでの創価学会のやり方から言えば自民党にもこっそり票を流していたはずである。それでも全面的な協力がないと自民党は選挙に強くないことが証明された。この結果を見れば自民党は次の国政選挙を考え公明党に頭が上がらなくなる。
安倍政権の政権運営はこれまで通りにはいかなくなる。野党の要求を飲んで国会を開かなければならなくなったし、憲法改正に至る日程も変更を余儀なくされる。「安倍らしさ」を封印しないと何もやれなくなることは間違いない。
内閣改造で再浮上を図ると言われているが、人事は間違えれば逆に力をそぐことにもなる。それでなくとも自民党内の反安倍勢力がものを言いやすい状況になったことから全体への目配りが必要だ。
「安倍らしさ」を封印しなければならないのであれば、むしろ自民党はリーダーを交代させることを考えた方が良いかもしれない。昔の自民党なら知恵者がそのようなシナリオを書いたと思う。この選挙結果にはそれだけの重みがある。