伊方原発運転停止の仮処分取り消し:司法に訴えたい「巨大噴火は重大な『自然災害』だ」
昨年12月に広島高等裁判所は愛媛県の伊方原子力発電所3号機について、「熊本県の阿蘇山で巨大噴火が起きて原発に影響が出る可能性が小さいとは言えず、新しい規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は、不合理だ」として、運転の停止を命じる仮処分の決定をした。司法が巨大噴火の影響を根拠に原発の運用に関して判断を下したことで、世界一の火山大国日本の今後の対応が「本気モード」になることが期待された。
しかし広島高裁は9月25日、四国電力の保全異議を認めて先の仮処分を取り消した。私はこの決定を聞いて開いた口が塞がらなかった。なぜならば、司法は「この国では、巨大噴火は自然災害として想定する必要はない」と断言したのだ。
この司法判断の論拠と論理を簡単にまとめると次のようになる。
1) 現時点では、巨大噴火の規模と時期をある程度の正確性で予測することは困難である。
2) したがって、巨大噴火による災害については、その危険をどの程度容認するかという「社会通念」を基準として判断せざるをえない。
3) 巨大噴火の発生頻度は著しく小さく、国はこれによる災害を想定した具体的対策は策定していない。
4) 国民の大多数はこの国の対応に対して格別に問題にしていない。
5) 上記2点の状況下では、巨大噴火の発生の可能性が相応の根拠を持って示されない限り自然災害として想定しなくともよい、とするのが社会通念である。
それぞれの項目に対する私の、科学者としてのコメントは以下の通りである。
1. 確かに現時点では巨大噴火の予測は困難である。
2. 地質学的な記録がよく残る過去12万年間における巨大噴火の発生時期の解析から、今後100年間に巨大噴火が発生する確率は約1%であることはすでに論文で示されている。したがって、「社会通念」という曖昧な基準ではなく、巨大噴火災害の危険性を科学的に評価することは可能である。
3. 世界一の火山大国において、巨大噴火の予測や減災に対する施作を講じていないのは、単に政府の認識不足にすぎない。
4. 日本人は、災害大国ゆえに被災を諦める、または逆に自分だけは大丈夫だろうと思い込む、さらには「はかなきもの」に美を感じる傾向が強い。
しかし司法に文句を言っているだけでは、物事は進まない。今何が必要か?
- 科学者は巨大噴火予測の実現に向けて最大限の努力を払うこと
- 火山大国の民は、巨大噴火の危険性を十分に認識すること
科学的な取り組みについては、例えば神戸大学の研究成果については度々紹介してきた。また後者についても何度も紹介してきたが、もう一度ここで「巨大噴火災害の危険性の科学的評価」を示しておこう。
この表が示すのは、自然災害や事故による想定死亡者数に年間発生確率を掛け合わせた「危険値」である。この値は、ある災害や事故で平均すると年間に何人が犠牲になるかを表すものだ。巨大カルデラ噴火については、今回話題となっている九州の阿蘇4クラスの「超巨大噴火」について記してある。この「危険値」をしっかり認識いただくことこそが、無策な政府を動かし、司法に真当な判断を促す道であろう。この表を見れば、巨大噴火が私たちにとって重大な「自然災害」であることは明らかだ。