高齢者の被害が問題となった「新潟・福島豪雨」から16年
梅雨前線の北上と東北・北陸の豪雨
梅雨前線が北上し、沖縄・奄美地方に続いて、九州南部が7月28日に梅雨明けとなり、梅雨末期も後半に入っています(表1)。
梅雨末期に梅雨前線が北上すると、東北・北陸地方で大雨が降るようになりますが、今年、令和2年(2020年)もそうでした(図1)。
東北・北陸地方で活発な雨雲がかかり続け、記録的な大雨となり、秋田県由利本荘市北部付近では、7月28日5時30分に約100ミリという猛烈な雨が降りました。
その後、強い雨域は山形県に南下し、山形県の大河である最上川で氾濫が発生しています(図2)。
松尾芭蕉の「五月雨(梅雨時の雨)を集めて早し最上川」どころでない大暴れの最上川です。
7月28日の夜以降は、東北の雨のピークは越えていく見込みですが、上流に降った雨は下流へと流下していますし、29日の午前中にかけても雨が降りやすいので油断はできません。
気象庁では、早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を、「高」「中」の2段階で示しています。
この早期警戒情報では、7月29日の朝から夜遅くまでに大雨警報を発表する可能性は、新潟、富山、佐賀、長崎の各県で「高」となっています(図3)。
また、東北から九州までの広い範囲で「中」となっています。
これまでの大雨ですでに地盤は緩んでいる状況ですので、雨のピークは越えても、しばらくは、崖や川の近くなど危ない場所に近づかないようにしてください。
7月30日以降は、今の所、「高」「中」はありませんので、警戒はいましばらくです。
高齢者の犠牲者
今から16年前の平成16年(2004年)の梅雨末期も、梅雨前線が北上し、東北・北陸地方で大雨が降って大きな被害が発生しています。
7月13日に発生した「平成16年(2004年)新潟・福島豪雨」では、1万棟以上の家屋が被害を受け、新潟県と福島県では死者がでています(表2)。
このときに指摘されたのは、高齢者の死者が多いということでした。
死亡した16人の約8割、13人が70才以上ですが、災害当日と災害翌日に判明した10人は、全員が70才以上であったことが、災害による犠牲者の高齢化を強く印象付けました。
近年は、過疎化が進んでいる地方では高齢化がかなりすすみ、それに比して災害における高齢者の死者の割合が増えています。
それにしても、8割というのは大きな割合です。
現在は、個人情報保護の観点から、災害による死者についての情報を発表しない自治体が増えています。
そこで、著者は大災害の新聞記事から死者の性別・年齢を集計しています。
従って、全てではなく、誤差もありますが、大体の傾向がつかめると思ったからです。
令和元年(2019年)の台風19号(東日本台風)では、家族のために車で迎えにいった男性が、洪水に流されるなどして車中で死亡したというケースが相次いでおり、60代の男性が全体の20パーセントを占めています。
このため、70才以上の割合は45%と、極端に多くはありません。
今年、現時点までの「令和2年(2020年)7月豪雨」では、死者の40パーセントが80代で、68パーセントが70才以上です(図4)。
熊本県球磨村の特別養護老人ホームの入所者14人が亡くなり、高齢者の割合を引き上げていますが、これを除いても、61パーセントが70才以上です。
避難準備情報
平成16年(2004年)は、新潟・福島豪雨だけでなく、福井豪雨や台風が10個上陸など、風水害が相次いだ年でした。
特に、新潟・福島豪雨で高齢者の被害が相次いだことから、翌17年(2005年)に内閣府のガイドラインとして「避難準備情報」が作られました。
高齢者等、避難に時間がかかるなどの、いわゆる災害弱者の避難を開始する段階であるということを知らせる情報です。
市町村長が発表する「避難指示(緊急)」、「避難勧告」より下位の情報です。
しかし、平成28年(2016年)の台風10号で、情報の意味が伝わらなかったことで被害が起きたとの指摘から、同年12月26日より「避難準備・高齢者等避難開始」という、意味が明確にわかるように名称が変更されました。
この台風10号は、8月30日に岩手県大船渡付近に上陸した台風で、死者・行方不明者29人などの被害が発生した台風です。
令和2年(2020年)の熊本県球磨村と似ていますが、岩手県岩泉町の高齢者施設では小本川の氾濫で入所者9人が死亡しています。
「避難準備・高齢者等避難開始」情報ができましたが、いまだに高い比率で高齢者が亡くなり続けています。
防災の重点事項の一つは、高齢者対策であることは論を待ちません。
タイトル画像、図3の出典:ウェザーマップ提供。
図1、図2、表1の出典:気象庁ホームページ。
図4の出典:新聞記事をもとに著者作成。
表2の出典:消防庁資料より著者作成。