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いまだ確立されない新型コロナ後遺症の治療 「抗ウイルス薬を後遺症に使う」画期的な臨床試験が開始予定

倉原優呼吸器内科医
イラストACより

新型コロナの後遺症は、効果的な治療法がまだ明らかになっていません。散発的な報告例があった「抗ウイルス薬を後遺症に使う」という画期的な臨床試験が海外で始まる予定です。

後遺症のメカニズムは?

新型コロナの罹患後症状、いわゆる後遺症は、新型コロナウイルスの断片が体内に留まって、それが薪(まき)の燃えさしのようにくすぶっている状態と考えられています(1)(図1)。

図1. 新型コロナ後遺症のメカニズム(文献1などを参考に筆者作成)(イラストは、いらすとや、看護roo!より使用)
図1. 新型コロナ後遺症のメカニズム(文献1などを参考に筆者作成)(イラストは、いらすとや、看護roo!より使用)

たとえば、新型コロナ回復後の便中のウイルスRNAを調べた研究では、診断4か月後の時点で12.7%、7か月後の時点で3.8%が便中にウイルスRNAをまだ排泄しており、消化器症状と関連があったと報告されています(2)。

外来で診療していて手ごわいと思うのが、重力にあらがえないような倦怠感と、勉強や仕事などのパフォーマンスの低下(ブレインフォグ)です。

後遺症に対して検討されている抗ウイルス薬

現在、新型コロナの治療として承認されている抗ウイルス薬は3種類あります()。このうち、後遺症の軽減に期待されているのが、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)です。新型コロナ急性期の治療ではなく、後遺症の治療に使うという、想定外のアイディアです。他の2剤については今のところ検討はされていません。

表. 新型コロナに対する抗ウイルス薬(筆者作成)
表. 新型コロナに対する抗ウイルス薬(筆者作成)

新型コロナが軽快したのに、ダラダラと症状が続く人にパキロビッドを使用したところ、大幅に症状がよくなったという報告がちらほらあります(3)。

しかし、たとえこれがプラセボ(偽薬)でも軽快していたかもしれません。それを今後しっかりと調べていく必要があります。

2023年1月からアメリカにおいて、運動時の症状などの新型コロナ後遺症が軽減するかどうか、パキロビッドとプラセボ(偽薬)を比較する臨床試験が始まります(4)。通常の治療期間の3倍にあたる15日間服用し続けるようです。

もちろん、現時点では有効性が確認されているわけではありません。後遺症の治療として医療機関に処方を求めないようお願いします

非薬物療法やワクチン接種も重要

その他の薬剤としては、個々の症状等に応じて漢方薬を使い分けることもあります(5)。

また、厚労省の指針(6)において、有酸素運動、呼吸療法、下肢筋力増強、バランス練習などのリハビリテーションが推奨されています。ジムに通うといった運動強度の高い行動は、逆効果になることもあるため、無理のない範囲の軽い運動にとどめておくことが重要です。

その他、上咽頭に塩化亜鉛を塗り込むBスポット療法(EAT、上咽頭擦過療法)(図2)が頭痛や疲労などの後遺症に有効であるという報告もありますが(7)、一定のコンセンサスがあるわけではありません。

図2. Bスポット療法(EAT、上咽頭擦過療法)(イラストACより)
図2. Bスポット療法(EAT、上咽頭擦過療法)(イラストACより)

また、新型コロナワクチンを接種していると、新型コロナ後遺症が大きく減ることが示されています(8)。新型コロナの後遺症で苦しむリスクを減らすために、新型コロナワクチンを接種しておくという考え方も重要です。

症状の全てが後遺症とは限らない

最後に重要なことを書きます。新型コロナになった人もそうでない人も、一定の割合で違う病気にかかることがあります。

たまたま新型コロナにかかった後に調子が悪くなり、別の病気の症状が顕在化しているということもありえます。症状の全てが後遺症とは限りません

実際に、他院で新型コロナ後遺症と診断された人が、別の病気だった事例を見たことがあります。医療従事者も「新型コロナの後の体調不良だから後遺症だろう」と決めつけないことが重要です。

後遺症と思われる症状が長引く場合、自治体ごとに案内されている後遺症を診療できる医療機関にご相談ください。現時点では厚労省にまとまったページは準備されていないので、「後遺症 受診 〇〇市」などで検索してみてください。

(参考)

(1) Peluso MJ, et al. Trends Immunol. 2022; 43(4): 268-270.

(2) Natarajan A, et al. Med (N Y). 2022; 3(6): 371-387.e9.

(3) Peluso MJ, et al. Pathog Immun. 2022; 7(1): 95-103.

(4) SARS CoV-2 Viral Persistence Study (PASC) - Study of Long COVID-19 (PASC)(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05595369)(URL:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05595369

(5) フローチャートコロナ後遺症漢方薬. 新興医学出版社.

(6) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf

(7) Imai K, et al. Viruses. 2022; 14(5): 907.

(8) 新型コロナワクチンを接種している人は、新型コロナ感染後の後遺症が大幅に軽減(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221104-00322522

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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