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早稲田大学ラグビー部は「全て出し切る」 ジャパン指導の村上貴弘氏S&Cコーチ【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター

大学日本一の回数では歴代最多の15回を誇る早稲田大学ラグビー部に、村上貴弘氏S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチが就任した。前年度まで日本代表を指導していた。

2009年度から大学選手権6連覇中の帝京大学との間にある、身体能力の差を埋めたいと考える。

以下、記者2名による取材時の一問一答(一部)。

――就任の経緯。

「詳しい契約上のことは話せないのですが。言える部分としては、日本代表ではある程度、でき上がった人間を育てる活動だと思う。それに対し、下の年代で、腰を据えて育てられる仕事をしたかったので」

――(当方質問)前年度まで3年間、エディー・ジョーンズヘッドコーチのもと働いていました。今秋のワールドカップイングランド大会に参加したいという思いは。

「あまりそこにはこだわりはないです。それよりも、正しいS&Cプログラムを浸透させられる組織で仕事がしたい思いが強いです。もっと言えば、小中学生から正しいトレーニングに取り組んで、ラグビー選手に必要な準備をしてもらう。そちらの方に魅力を感じています」

――(当方質問)ジャパンで学んだこと。

「試合以上の強度でトレーニングをするということです。エディージャパンはそれをできていた」

――早稲田大学ではそこまで…ですか?

「早稲田大学に限らず、全ての大学やトップリーグ(国内最高峰リーグ)でもそこまでできていないように感じますが、本当のところは観ていないので知らないです」

――ラグビー選手は身体の何を強化すべき?

「全てです。スピード、瞬間的なパワー、それを繰り返す持久力、ベースとしての筋肉の量…。また、ラグビーのトレーニングとS&Cのトレーニングは(チーム内で)トータルにコーディネートされていないといけない。そうでないと、すぐにオーバートレーニングになる。総合的なマネジメントが重要かなと思います。少なくともエディージャパンは、そのトータルコーディネートができていた。私はそこで学んで『コーディネートが重要だ』と再確認しました。筋力、スピード、フィットネス(持久力)、スキル、戦術、リカバリー(休息)。やらないといけない色々なものを、時期、チームのニーズに応じてできているかは重要ではないかと思います」

――(当方質問)このチームにおける、S&C強化でのビジョンは。

「そもそも骨格の大きい子たちがいない。持ってるポテンシャルを引き出せるトレーニングをしています。実現したいスキルで使う力と、トレーニングで鍛える力。そこが一致していなきゃいけない。例えば、フォワードのセットピース勝負と考えたら、筋力を上げる。僕のなかでは(方針の)形はあるので、それがいまのチームにどうフィットするか、です」

――戦い方と鍛え方のリンク。

「一般的に、筋力を上げながらだと、フィットネスは上げにくい。逆に、ボールを大きく展開するラグビーなら、ある程度は筋力を捨ててでもフィットネスを上げる。そうして相手がばてるのを待って、どこかで仕掛ける…と。そのあたりの部分については、まだ早稲田大学としては模索中だとは思います。ただ、間違いなくS&Cは弱い。鍛えないといけない。そして、鍛えたものをスキルのなかで使いきれる方向性を持ちたい。そこまで面倒を見たいと思います」

――ニュージーランド人でも、ベンチプレスで持ち上げられる重量は日本人選手より低いとされている。ただ、ニュージーランド人の方がラグビーで成果を上げている。

「ベンチプレスを上げる力と引く力のバランスが大事。200キロ上げられて、ただ、引く力が120キロだと怪我にも繋がる。10年くらい前のラグビーだと、そこをわからずにただベンチプレスを上げることだけをやっていたところもあったとは思います。いまは大分、バランスは取られてきています」

――先ほど言われていた、早稲田大学のS&Cにおける「弱い」。具体的には。

「筋力も、瞬間的に発揮できるパワーもです。スピードは、もともと速い素材を持っていても、それを正しく発揮するスキルを持っていない。闇雲に走っているという感じでした」

――就任からいままで、改善の兆しは見えてきましたか。

「改善される土壌はできました。体力の根本って、3ヶ月くらいかけないと改善はしないんです。しかも、3ヶ月丸々を投資はできない。試合をして、ダメージをマネジメントしながら、筋力を鍛える。そのプラットフォームを作りたい。例えば、2ヶ月くらい筋力を鍛えて、大事なシーズンの頃には筋力が落ちていました、では…。年間を通して、鍛える。試合のある週でもです。最初の頃は、試合の強度で練習ができていなかったのですが、コーチと相談して少しずつ改善ができてきています。でもまだ、これから。試合より20パーセント越えくらいの強度でできていかないといけない」

――(当方質問)帝京大学に勝つには。

「帝京大学さんには、長年、かけて積み上げたものがある。そう簡単に埋まるギャップではないので、それを1年で詰めるのは相当にチャレンジングなことです。(他大学とは、S&Cの差が)大きい。しかも、彼らは進化をしているので、(アドバンテージは)そこだけではなくなってきている。S&Cが強いのは当たり前で、それを活かすようにどんどん進化しているんです。S&Cの差は、埋める。ただ、そこで対等なだけでは勝てない。戦術、戦略の部分で、他にアドバンテージを見つける。そうすれば、勝っていける」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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