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日本代表で独自スクラム編んだ長谷川慎、いまの代表も「応援している」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
左端が日本代表アシスタントコーチ時代の長谷川(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表は6月22日、東京・国立競技場でイングランド代表と戦う。現体制にとっての初戦だ。

「日本代表を応援しているから——」

 取材の流れでそう語ったのは長谷川慎だ。

 昨秋のワールドカップフランス大会まで約8年間、続いたジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制にあって、アシスタントコーチとして独自のスクラムを錬成。2019年のワールドカップ日本大会では、アイルランド代表からスクラムで反則を奪うなどし史上初の8強入りに喜んだ。

 フランス大会では2大会連続での予選プール突破こそ逃したが、今度ぶつかるイングランド代表とのゲームでは、向こうの大型パックを無力化するのに成功している。

 話をしたのは5月上旬。静岡ブルーレヴズのアシスタントコーチとして臨んだ、国内リーグワン1部のシーズンが終わる間際のことだ。長谷川は、ブルーレヴズの前身のヤマハ発動機ジュビロでも指導歴を持つ。

 伝統的に原石を磨いてきたクラブの指導者として、代表入りした教え子、これからの代表にエールを送っていた。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——ブルーレヴズの指導陣に「復帰」初年度の今季。(取材時は)まだ終わっていませんが、ここまでをどう振り返りますか(最終的には12チーム中8位)。

「我慢のシーズンだったかな。俺にとってはね。ただ、それが期待に変わっていって、凄く可能性があるチームになってきて…(第10節から3連勝し、第13節からの2戦では前年度4強勢とドロー)。

 来年、絶対に行ってやるぜ、このシーズンもあと 2 試合全部、勝ってやるぜ…と思ったら、神戸に水をかけられた(第15節で19―63と敗戦)。

 でも、水をかけてもらって本当によかった。

 やはり、細かいことを1年間、積み重ねてゆくのがブルーレヴズのフォワードだと思う。急に、贈り物みたいな選手がいっぱい出てきたから、俺も調子に乗ってしまったところがあった」

――確かにシーズン中盤以降、アーリーエントリーのショーン・ヴェーテー選手、ヴェティ・トゥポウ選手が爆発力のあるプレーで台頭しました。

「…だから、水をかけてもらって本当によかった。藤井さん(雄一郎・新監督=前ナショナルチームディレクター)も言っていると思うけど、このチームには『ここはめちゃくちゃいいけど、ここは…』という選手もいる。そこで、できないことを減らすのはコーチの仕事です」

——取材日の練習では、接点で相手のジャッカルをはがす動作を繰り返していましたね。そもそも藤井さんも長谷川さんも、今季はワールドカップでの活動が終わってからの合流でした。プレシーズンの時期は、他の専門コーチに強化を一任していました。

「(来季は)プレシーズン の1発目から計画を立てて、1年間、コーチングをしないと、最後の結果に結びつかない。次のスタートが楽しみ。イチからできる。(今季ブレイクした選手の育成も)春からやりたい。やりたいことがあり、(鍛錬次第で)もっと強くなる。もっと言えば、オフにどういう過ごし方をするか、どういうスタートを切ってどうなりたいかという話もしている」

——期待の選手と言えば、ブルーレヴズの茂原隆由選手が日本代表候補となりました(その後正規の代表に入り、6月22日のイングランド代表戦にも先発予定)。今季、長谷川さんの助言で右プロップから左プロップに転向していました。

「ちょっと感覚的なことかもしれないけど、スクラムって、股関節を折りたたんで、その関節の上に(体重を)乗せて組むのね。その時に、足が伸びていたり、股関節を割れていなかったり、足首が硬かったりし過ぎると、そういう(理想の)姿勢にならない。外国人は結構、前のめりなスクラムが多いけど、日本人は、『股関節で』組んでいる。それによってちょっと強さ(の種類)がわかれていると、俺は思っているのね。

 茂原はあの身長(187センチ)で、めちゃめちゃ股関節を割って組んでいた。(総合的に見て)このままだと普通の3番(右プロップ)になってしまうとも思っていたけど、『股関節で』組めて、あのでかさがある1番(左プロップ)って、あまりいない。普通の3番になるより、でかくて『股関節で』組める1番になったほうが未来はあると思った。

あれくらいのサイズの1番って、日本では稲垣(啓太=前回までワールドカップに3大会連続で出場)とミルジー(クレイグ・ミラー=昨秋のワールドカップフランス大会に出場)くらい。そして2人とも30代(2人とも今夏の代表活動は辞退)。

…それでやらせて(茂原を転向させて)みたら、センスがあると思ったから、そのままやらせた。すると、半年くらいで代表候補に。いまではやる気が出てきて、食生活を気にし出して、俺から見たら身体が大分、変わった。腹がへこんで動けるようになった。

 できればもう1年くらいここに置いて俺が見たいんだけど、日本代表に行ってしまったらそれができない。

 でも、どっちでもいいなって。こっちにいたら俺が見られるし、日本代表に行ったら経験が積めて、『テストマッチに出る以上はリーグワンでは負けられない』というプライドも出るだろうし」

——日本代表では、エディー・ジョーンズヘッドコーチが約9年ぶりに復帰。長谷川コーチが段階的に積み上げてきたスクラムも、違うコーチが指導することになりました(6月、現役を引退して間もないオーウェン・フランクスアシスタントコーチが就任)。

「ニール・ハットリー(コーチングコーディネーター=おもにフォワードを指導)とも、エディーとも会った。それは、日本代表を応援しているから。負けて欲しくないから。

 ハットリーのしてきた質問には全部、答えた。向こうから(前体制時の日本代表の)映像を出してきて『これはどうやったんだ』と聞かれたものも、選手をどういう目線で見てきたかについても、全て。

 エディーにも、聞かれたことには全部、答えた。引継ぎではないけど、いままで外に出していないようなことも話した」

——蓄積された財産がリセットされるわけではなさそう。それだけでも安心できます。

「うん、(なくすのは)もったいないよね。色んなものが積もっているから。それと、何人かの選手には染みついていると思う。『テストマッチではここがだめだった』とか、『それをやったら絶対に崩れる』とか。それらに不安が残らないような組み立てをできればいいな、とは思っている」

 2016年秋からの代表活動、今季のリーグワン終了までの約8年間で「1週間以上の休みがなかった」という。

「それも、その1週間も、次に向けた何かを考えていた」

 目下、久しぶりに獲得した長期休暇の最中だ。日本代表を勝たせる立場から、日本代表を応援する立場に回る。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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