アイコスなど加熱式タバコの「有害物質」はどれくらいか
受動喫煙を含むタバコの健康に対する有害性は広く共有されているが、どれくらいの害悪があるのだろうか。これについて日本から最新の研究が出て、JT(日本たばこ産業)も加熱式タバコの受動喫煙に関する影響調査を行った。
加熱式タバコからも有害物質が
従来の紙巻きタバコからアイコス(IQOS)などの加熱式タバコへ切り替える喫煙者が増えているが、そうした喫煙者の多くが自分自身への健康への害を低減し、受動喫煙の害も少ないと認識しているようだ。
だが、加熱式タバコからも、発がん性が疑われる毒性の強いアセトアルデヒド(Acetaldehyde)や明らかに発がん性のあるホルムアルデヒド(Formaldehyde)などの有害物質が出ていることがわかっている(※1)。これはタバコ会社自身が行った実験でも同じ結果が出ており(※2)、受動喫煙の害を生じさせる環境汚染(呼気の副流煙やタバコ煙)についても有害物質が出ている以上、全くリスクがないと言い切れない(※3)。
最近の日本の実験研究でも、例えばアイコスの場合、主流煙(使用者が吸い込んだ蒸気煙)に健康上の悪影響を与えかねない数値の一酸化炭素(CO)やアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドが出ていることがわかっている(※4)。
この実験によれば、42回の主流煙の測定で一酸化炭素(許容濃度50ppm、※5)とホルムアルデヒド(同0.1ppm)は全ての回で、アセトアルデヒド(同50ppm)10回、粉じん(同2ミリグラム/立方メートル)29回でそれぞれ許容濃度を超え、測定3回の副流煙の場合は発がん性のあるホルムアルデヒドが2回、許容濃度を超えていた。
主流煙の場合、一酸化炭素は平均2262ppm、アセトアルデヒドは平均43.1ppm、ホルムアルデヒドは平均2.52ppm(4.73マイクログラム)、粉じんは平均3.28ミリグラム/立方メートル、副流煙の場合、アセトアルデヒドは検出限界以下、ホルムアルデヒドは平均0.27ppm、粉じんは平均0.007ミリグラム/立方メートルだったという。
この実験研究では、主流煙の有害物質もさることながら、受動喫煙につながる副流煙のホルムアルデヒドの数値が気になる。
環境省によれば、発がん性が疑われるアセトアルデヒドの場合、ヒトに対する調査で約24.5〜49ppm(45mg〜90mg/立方メートル、大気圧20℃、15分間)の濃度にさらされると目に刺激が認められ、健康リスクの初期評価として室内空気の吸入で約0.011〜0.76ppm(20〜140マイクログラム/立方メートル、大気圧20℃)とされる。
また、発がん性のあるホルムアルデヒドの場合、組織障害が引き起こされる境目の濃度は約0.8ppm(約1.0ミリグラム/立方メートル)で、この濃度以上が危険値とする。WHO(世界保健機関)のガイドラインや厚生労働省の室内濃度指針値では、約0.08ppm(0.1ミリグラム/立方メートル、大気圧20℃、30分)にさらされる濃度を基準値とする。
実験によって大きな差が
一方、周囲の環境への影響はどうだろう。
日本でプルーム・テック(Ploom TECH)という加熱式タバコを製造販売しているJTが先日、加熱式タバコの受動喫煙影響に関するリリース(2018/10/03アクセス)を出した。JTの加熱式タバコ(おそらくプルーム・テック)、他社の加熱式タバコ、JTの紙巻きタバコ(タール6mg)を使い、実際の飲食店(カフェ)の喫煙エリア内とそれ以外の店内エリアの空気環境について調べた結果、喫煙エリアとその外で使用前と使用後の物質の濃度に大きな差がなかったという(※6)。
こうした実験による比較では、環境を厳密に合わせる必要がある。JTのリリースでは、測定した実在する飲食店の状況がよくわからない。
実験後に数値が下がっている場合もある。タバコ煙が漏れ出ていて有害物質があらかじめ残留し、最初から実験前の数値が高かったかもしれず、前後の比較にあまり意味はないのではないだろうか。
もしそうなら加熱式タバコの有害物質は、もともと有害物質が染みついた環境中で目立って多くならなかったのだろう。さらに、測定時間は15分間でしかなく、同じようなタバコ会社の実験研究にもみられるが、短期間では蓄積された影響はわからない。
環境中の有害物質(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド)について、日本の実験研究とJTの調査、環境基準を比べた。単位はppm。日本の実験結果は副流煙(呼気)。実験によって大きな差が出ることがわかるが、JT調査でも環境基準から大きく下がっておらず、リスクがなくなっているわけでもない。グラフ作成:筆者
それにしても喫煙エリアで紙巻きタバコを吸った場合、アセトアルデヒドの濃度が約0.12ppm(216マイクログラム/立方メートル)、強い発がん性のあるホルムアルデヒドの濃度が約0.1ppm(121マイクログラム/立方メートル)に達するのには驚きだ。どちらも環境省やWHO、厚生労働省の基準を超えている。
JTは、受動喫煙の健康への有害性を未だに認めていない。加熱式タバコの有害性についても、こうした実験によって否定しようとしているが、その悪影響は第三者による今後のさらなる評価の必要がありそうだ。
※1-1:William E. Stephens, "Comparing the cancer potencies of emissions from vapourised nicotine products including e-cigarettes with those of tobacco smoke." Tobacco Control, Vol.27, Issue1, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-053808, 2017
※1-2:Xiangy Li, et al., "Chemical Analysis and Simulated Pyrolysis of Tobacco Heating System 2.2 Compared to Conventional Cigarettes." NICOTINE & TOBACCO RESEARCH, doi.org/10.1093/ntr/nty005, 2018
※2:Mark Foster, et al., "An experimental method to study emissions from heated tobacco between 100-200°C." BMC, Chemistry Central Journal, Vol.9:20, doi.org/10.1186/s13065-015-0096-1, 2015
※3:A A. Ruprecht, et al., "Environmental pollution and emission factors of electronic cigarettes, heat-not-burn tobacco products, and conventional cigarettes." Aerosol Science and Technology, Vol.51, Issue6, 2017
※4:川村晃右ら、「紙巻きタバコから加熱式タバコへの移行に伴う健康影響:ニコチン依存、ニコチン禁断症状と喫煙行動の変化について」、日衛誌、第73号、379-387、2018
※5:許容濃度:労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物に曝露される場合を想定し、健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度:日本産業衛生学会、「許容濃度等の勧告」、産業衛生学雑誌、Vol.59(5)、153-185、2017
※6:粉じん、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、TVOC(Total Volatile Organic Compounds、総揮発性有機化合物、1,3-ブタジエン、イソプレン、ベンゼン、トルエン)、カルボニル類(アセトアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド)、環境中タバコ煙マーカー成分(3-エテニルピリジン、ニコチン)、加熱式タバコ主要添加物(プロピレングリコール、グリセリン)を測定。喫煙エリア(13平方メートル)の換気装置は、機械排気(286平方メートル/毎時、より過酷な条件にするため一部の機能を低下させた)で吸気は周囲からの自然吸気(境界風速0.06メートル/秒)とした。喫煙エリア内で10名が1人1本15分間(10本/15分)喫煙(加熱式タバコと紙巻きタバコ)し、15分間の間に6回、エリアの扉の開閉をした