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クロフォードが4階級制覇へ 井上尚弥とPFP1位を争う強者の次戦を米メディアが展望

杉浦大介スポーツライター
Mark Robinson & Melina Pizano/Matchroom

8月3日 ロサンゼルス BMOスタジアム

WBA世界スーパーウェルター級タイトル戦

王者

イスライル・マドリモフ(ウズベキスタン/29歳/10-0-1, 7KOs)

12回戦

挑戦者/3階級制覇王者

テレンス・クロフォード(アメリカ/36歳/40-0, 31KOs)

 パウンド・フォー・パウンド最高級の王者が4階級目の戦いに乗り出す。昨年7月、エロール・スペンスJr(アメリカ)に圧勝してウェルター級を統一したクロフォードが、約1年ぶりのリングでマドリモフに挑む。

 一般的に井上尚弥(大橋)、オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)と並ぶパウンド・フォー・パウンドトップ3の一角とみなされるクロフォードは、ライト級、スーパーライト級、ウェルター級に続き、スーパーウェルター級でも力を見せるのか。それともプロでも力強さを感じさせてきたマドリモフが元トップアマの底力をアピールするか。

 サウジアラビアの“リヤド・シーズン”がついに米国進出する興行としても注目されている大興行。そのメインイベントを、Fight Hub TVの創始者であり、インタヴュアーでもあるマルコス・ビレガス氏に占ってもらった。かつてFOXのボクシング中継で非公式ジャッジを務めたビレガス氏も、この楽しみな一戦への期待感を抑えきれないようだった。

米西海岸を中心にビッグファイトの取材を続けるビレガス氏 撮影・杉浦大介
米西海岸を中心にビッグファイトの取材を続けるビレガス氏 撮影・杉浦大介

 以下、ビレガス氏の1人語り

勝負を分けるのはスピード

 マドリモフ対クロフォード戦の最大の注目ポイントは、スーパーウェルター級に階級を上げたクロフォードが新階級にどう適応するかでしょう。クロフォードはもともと自身より大きな選手とスパーリングを積んでいますし、そのボクシングIQの高さを考えれば、(ウェルター〜スーパーウェルター級の間の)7パウンドの違いも問題ないのかもしれません。もちろん骨格的にはマドリモフが上回っていますが、クロフォードとの間にはスピード面で大きな違いがあります。

 ボクサーが階級を上げ、より大柄な相手と戦うとき、大抵の場合、スピードがアドバンテージになるもの。今戦でもそれは同じであり、スピード、クイックネスの違いが決め手になるというのが私の見方です。

 マドリモフはスロースターター。クロフォードも最初の数ラウンドは様子見に費やすことがあります。そんな両者の傾向を考えれば、開始から数ラウンドは動きが少なくなるかもしれません。それでもラウンドが進むにつれて、スピードで勝るクロフォードが主導権を握るでしょう。マドリモフが積極的に攻めてくるところで、クロフォードが出鼻にパンチを当てていくのではないでしょうか。

Mark Robinson & Melina Pizano/Matchroom
Mark Robinson & Melina Pizano/Matchroom

 この試合でのクロフォードは特別なことをやる必要はないですが、もちろん油断してはいけません。馬力を生かしてを押し込もうとするマドリモフに対し、距離をとり、アウトボクシングし、的確なパンチを当て、カウンターを狙うのが得策でしょう。

KO決着の可能性、そして今後の予測

 マドリモフが大番狂わせを完遂するためには、“パーフェクトファイト”が必要というのが私の見方です。クロフォードと同じくスイッチの得意なマドリモフが、どうやって付け入る隙を見つけていくか。

 過去のクロフォードの戦いを振り返ってみると、うまく距離を詰め、近い距離からパンチを繰り出した“ミーン・マシーン”ことエギディウス・カバラウスカス(リトアニア)との試合では少々苦戦しました。“ミーン・マシーン”と比べるとマドリモフは少々大振りの傾向があります。だとすれば、接近戦での打ち合いでもクロフォードに遅れをとってしまうかもしれません。ともあれ、クロフォードにアウトボクシングをされては勝ち目はないため、マドリモフは自身の距離を掴むことが重要になるのでしょう。

 ここで予想をしておくなら、私はクロフォードの判定勝ちと見ています。マドリモフが明確なダメージを受けたシーンはまだ見たことがなく、サイズ的にも上回っているため、判定勝負を推します。ただ、マドリモフにはクロフォードがつけ込むべき穴が見えるだけに、KO決着となっても驚きません。

Mark Robinson & Melina Pizano/Matchroom
Mark Robinson & Melina Pizano/Matchroom

 前評判通りにクロフォードが勝ち残ったとすれば、その後にはサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)との対戦が待望されてくるはずです。その試合の実現に向けて、鍵となるのはカネロとトルキ・アル=シャイフ(サウジアラビアの娯楽庁長官)がどう判断するか。サウジはもちろんどんなスーパーファイトも挙行できるだけのマネーパワーを持っていますが、トルキは2億ドルといった途方もない大金を考えもなしに提示するつもりはないとすでに話しています。

 キャリアの現時点でのクロフォードはビッグファイトだけを望んでおり、理に叶うのはカネロとの激突くらい。あとはジャロン・エニス(アメリカ)との対戦も面白いですが、エニス戦は素晴らしいカードではあっても、メガファイトにはなりません。私もカネロ対クロフォード戦は面白いカードだと考えているので、成り行きを楽しみに見守っていきたいと思っています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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