アップルとメタを新法違反と正式認定の方針、欧州の制裁金は世界売上高の10%
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は先ごろ、米アップルのアプリ配信サービス「App Store」について、EUの「デジタル市場法(DMA)」に違反しているとする予備的な見解を発表した。巨大IT(情報技術)企業に対する規制当局の締め付けが強まっている。
アップル「DMAを順守していると確信」
欧州委は、App Storeを通さずアプリやサービスを購入できることについて、開発者が消費者に伝える機会をアップルが制限しているとして、同社の行為を問題視している。
これに先立ち、英ロイター通信や英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、欧州委がアップルと米メタにDMA違反があったと判断する方針だと報じていた。
アップルは、「当社はDMAを順守していると確信している。調査が進められるなか、引き続き欧州委と建設的な協議を行う」とコメントした。
DMAでは、アップルやメタ、米グーグル、米アマゾン・ドット・コムなど巨大プラットフォーマーの市場支配力に制限をかけ、競争阻害行為の抑止を狙っている。2024年3月、欧州委はアップル、メタ、グーグルの3社に対する調査を開始したと発表していた。
欧州委はDMAに基づき5件の調査を進めている。具体的には、①アップルのアプリストアにおけるユーザー誘導の制約と②ウェブブラウザーの選択やデフォルト設定変更に関する制約、③メタの「広告表示に同意して無料でサービスを利用する」あるいは「同意せずに広告のない有料版を使う」の2択手法、④アルファベットのアプリストアにおけるユーザー誘導の制約と⑤Google検索における自社サービスの優遇、である。
ロイター通信によると、欧州委はこのうち、アップルとメタのケースを優先的に扱っている。最初にアップルによる違反を、次いでメタによる違反を最終的に認定する見通しだという。
Commission sends preliminary findings to Apple and opens additional non-compliance investigation against Apple under the Digital Markets Act
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_3433
アップル、アプリ配信で譲歩も新料金に批判の声
アップルはすでにDMAに対応し、サービス規約を変更している。同社は2024年3月にスマートフォン「iPhone」向けアプリを開発する企業が、自社のウェブサイトからアプリ配信できるようにすると明らかにした。同社が2008年7月に「iPhone 3G」の発売とともにApp Storeを立ち上げて以来、初めての方針転換である。同社は、開発者による外部アプリストアの運営も認めた。
ただ、いずれの方法によるアプリ配信においてもアップルは、「Core Technology Fee(コア技術料金)」と呼ぶ手数料を徴収する。その対象は、EU域内のiOSで過去12カ月間、初回インストール件数が100万件を超えたアプリである。
手数料は、100万件超えた部分にかかるもので1件当たり0.5ユーロ(約80円)となる。初回インストール件数とは、EU域内のアカウントで初めてアプリがインストールされた件数を指す。同じアカウントが以降の12カ月間、同じアプリを何度インストールしても追加料金は発生しない。買い替えた端末でインストールしたり、2台目のアップル端末でインストールしたりしても1件と計算される。
この手数料制度を巡っては、「世界で最も人気の高いプラットフォームの1つであるiOSを開放するには至っていない」などと批判されている。欧州委もこうしたアップルの対応について、市場開放には不十分とみている。
欧州委、「広告あり無料型」「広告なし有料型」の2択を問題視
メタは2023年11月に欧州で、SNS(交流サイト)「Facebook(フェイスブック)」と画像共有サービス「Instagram(インスタグラム)」の有料版を始めた。
欧州における「一般データ保護規則(GDPR)」の強化やDMAに対処するための措置だ。有料版では広告を表示しない。アイルランドをはじめとするEUのプライバシー規制当局はメタに対し、サービスの利用履歴に基づく広告(行動ターゲティング広告)を配信する際、事前にユーザーの同意を得るよう求めている。
だが、そうすることで、多くのユーザーが広告表示を選択しないとみられる。このことは、売上高の98%を広告収入が占める同社のビジネスを脅かすことになる。
そこでメタは欧州の利用者に対し、FacebookとInstagramを、①同意して引き続き広告付きで利用する「広告型」、②同意せず、広告なしで利用する「有料型」、の2つの選択肢を用意した。
しかしこれについて欧州委は、「同意するか、支払うか」の二者択一のモデルには、「(同意したくない場合)現実的な代替手段がない」と指摘。「巨大IT企業による恣意(しい)的な個人データ収集を抑制するというDMAの目的を達成できない」と懸念を示した。そして欧州委は2024年7月1日、メタに対しても、DMAに違反しているとする予備的な見解を出した。
欧州委のベステアー氏「アップルの主張は賢明でない」
欧州委員会のベステアー上級副委員長(競争政策担当)は「我々の調査は競争市場を確保することを目的としている。メタはDMAを順守していないというのが予備的見解だ。市民が自身のデータをコントロールし、よりパーソナライズされていない広告体験を選択できるようにしたい」と述べた。
同氏は、アップルについても言及した。アップルはかねて、「ハッカーやネット詐欺師がマルウエア(悪意のあるプログラム)をiPhoneにインストールさせることを許してしまう」とし、サイドローディングは一部の利用者をリスクにさらすと述べていた。
これについてベステアー氏は「DMA準拠によってサービスの安全性が損なわれると主張することは賢明でない」と指摘。「DMAは市場を開放するための法律であり、リスクの増大とは関係がない。どのように安全を確保するかは、プラットフォーマー企業が決めることだ」とし、同法の趣旨を強調した。
欧州委の予備的見解は、アップルやメタがDMAに違反したと結論付けるものではない。2社には今後、反論や対応の機会が与えられる。欧州委は2025年3月までに調査を完了し、最終結論を出す。重大な違反があったと判断すれば、世界年間売上高の最大10%の制裁金を科す。違反が繰り返される場合、最大20%まで引き上げられる。
Commission sends preliminary findings to Meta over its “Pay or Consent” model for breach of the Digital Markets Act
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_3582
- (本コラム記事は「JBpress」2024年6月26日号及び7月4日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)