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「選択的夫婦別姓制度」で知っておきたい法知識~明日「第2次夫婦別姓訴訟」の判決下る

竹内豊行政書士
明日10月2日に、「第2次夫婦別姓訴訟」の判決が東京地裁で言い渡されます。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

夫婦同姓を定めた民法の規定が「法の下の平等」を保障した憲法に違反するかが争われた訴訟の判決で、東京地裁は昨日30日、「違憲ではない」として原告側の請求を棄却しました。

品田幸男裁判長は、規定を合憲とした平成27(2015)年の最高裁判決以降の社会情勢について「夫婦別姓の議論は高まっているが、規定が違憲といえるような事情の変化は認められない」と判断しました。

訴えていたのは東京弁護士会の出口裕規弁護士と妻で、「(婚姻によって)同姓を強いられた」などとして国に慰謝料計10円の支払いを求めていました。夫婦別姓を巡る訴訟では、平成27(2015)年12月に最高裁大法廷が「社会に定着しており、家族の姓を一つにまとめることは合理性がある」との判断を示していました(以上引用:朝日新聞2019.10.1朝刊)。

夫婦同姓の議論は、女性の社会進出などを背景に、年々高まってきているようです。また、明日10月2日に選択的夫婦別姓制度を巡る「第2次夫婦別姓訴訟」の判決が東京地裁で言い渡されます。そこで、この判決を基に、夫婦同姓を議論するに当たって知っておきたい法知識をご紹介します。

夫婦同姓の原則

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称します(民法750条)。これは、「夫婦同姓の原則」と呼ばれています。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

また、現行制度では、夫婦の氏を定めなければ婚姻届が受理されません(戸籍法74条)。この制度に対しては、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するという憲法の原則(憲法24条1項)を制限している」という意見があります。

戸籍法74条(婚姻)

婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

一 夫婦が称する氏

二 その他法務省令で定める事項

憲法24条(家族関係における個人の尊厳と両性の平等)

1婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

ほとんどの夫婦が夫の姓を選択するという現実~96%が夫の姓を選択

前記のとおり、民法では婚姻の際に、「夫又は妻の氏を称する」と姓の選択が可能なことを示しています。しかし、現実はほとんどの夫婦が婚姻の際に夫の姓を選択しています。

厚生労働省の「平成28年度人口動態統計特殊報告『婚姻に関する統計』の概況」(10頁)によると、平成27年度では、96%が夫の姓を選択しています。「夫婦とも初婚」の場合は、さらに高く97.1%が同じく夫の姓を選択しています。

平成27年最高裁判決~夫婦同姓は合憲

平成27(2015)年、最高裁大法廷は、民法750条を違憲と判断しませんでした。その主な理由は次のとおりです。

・家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位だから、氏をその個人の属する集団を想起させるものとして1つに定めることにも合理性があり、氏が親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻も含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているのだから、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。

・750条は文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めていない。

・750条は婚姻の効力の一つであり、直接、婚姻の自由を制約するものではない。

・嫡出子(妻が婚姻中に懐胎した子および妻が婚姻後に出生した子)であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することも一定の意義があると考えられ、結婚改姓による不利益は、旧姓の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものだから、夫婦同氏は、直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。

この判決では、15人の裁判官のうち10人が、夫婦同姓は「合憲」としましたが、女性裁判官3名を含む5名は「違憲」という意見を表明しました。「違憲」としたおもな理由は次のとおりです。

・夫婦の約96%が夫の氏を称することは、意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しているのであり、その点に配慮しないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ、また自己喪失感といった負担を負うことになり、憲法24条2項に立脚した制度とはいえない。

・氏の家族の呼称としての意義を強調することは、全く例外を許さないことの根拠になるものではなく、家族形態の多様化している現在、そうした意義や機能をそれほどまでに重視することはできない。

・通称は便宜的なもので、公的な文書には使用できない場合があり、通称使用は婚姻によって変動した氏では当該個人の同一性の識別に支障があることを示す証拠である。

・夫婦同氏(同姓)に例外を許さないことの合理性が問題であり、同氏の利益は主観的なものであって、例外を許さないことに合理性があるということはできない。

また、法定意見(多数意見)では、次のとおり、夫婦同氏による問題点を認め、立法に当たって考慮すべき事情であると指摘しています。

・氏を改める者に人格的不利益が生じること。

・夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数であることには、社会に存する差別的な意義や慣習による制約があるかもしれないこと。

・夫婦同氏制のために婚姻をすることが事実上制約されていること。

高まる夫婦別姓の論議~選択的夫婦別姓の賛成派が過去最高

内閣府が平成29年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の結果では、次のとおり選択的夫婦別姓に賛成する意見が過去最高の42.5%を占めました。

「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」・・・29.3%

「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」・・・42.5%

「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」・・・24.4%

「第2次夫婦別姓訴訟」の判決言い渡しが明日から始まる

「夫婦別姓を望む婚姻届が受理されず、法律婚できないのは違憲」として、昨年5月、事実婚の夫婦らが国に損害賠償を求めて全国3か所の地方裁判所に提訴した「第2次夫婦別姓訴訟」の判決言い渡しが明日10月2日の東京地裁を皮切りに始まります。

世論の夫婦別姓を容認する声の高まりと実際に夫婦同姓で不都合を強いられている人の声を背景に、どのような判決が下されるか注目されます。

以上参考:『家族法第5版』(二宮周平著 新世社) 

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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