北野武「首」は、どうする家康のライトな歴史ファンは見るべき?
関東圏の穴場ずらし旅の愛好家、とらべるじゃーな!です。今年は、大河ドラマ「どうする家康」ゆかりの地をいくつか紹介していきました。
11月23日(祝)、北野武監督が本能寺の変を描いた、映画「首」が公開されました(公式サイト)。
この記事では、「どうする家康」から歴史に興味を持ち始めた、ライトな歴史ファンの方に、北野武「首」をご紹介します。
全編がハイライトと言える金太郎飴のような構成
北野武「首」は、余計な前置きなく、冒頭から合戦場面となります。
その後も合戦と、武将たちの固唾(かたず)を呑むやり取りの場面しかなく、全編がハイライトと言える、まるで金太郎飴のような構成。ライトな歴史ファンでも、決して飽きることはないでしょう。
上映時間は131分もありますが、リアルな合戦、大暴れする織田信長と臣下の命がけのやりとり、信長を狙う謀議の場面がリズムよくくり返され、あっという間に本能寺の変へとなります。
時代劇というよりは、かなりエンタテインメントに寄せた印象で、「どうする家康」から歴史に興味を持ち始めた方でも楽しめます。
「どうする家康」との大きな違いはリアルな合戦シーン
「どうする家康」との違いは、何といっても合戦シーンが、豊富でリアルなこと。
「どうする家康」では、合戦場面の少なさや、CGとの合成画像の多用に、以前からの大河ファンには不評もありました。その鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、実写の合戦シーンが続きます。
一方、「どうする家康」のように、美男美女が多く登場する画面の華やかさは、ありません。そもそも女性の登場が極端に少なく、「どうする家康」にはない、武将同士の男色の描写を重視しており、本能寺の変のいきさつにも絡んでくる構成です。
庶民や下級武士の生き様にもスポットライト
北野武「首」は、武将同士の男色だけでなく、庶民や下級武士の生き様にもスポットを当てています。「どうする家康」でも、三河一向一揆の回などで、庶民の暮らしを取り上げましたが、それが全編を貫くところに違いがあります。
また、置き屋(遊女屋)のようなお店も登場し、戦地を渡る武将たちを追いかけるシーンもあります。公認の遊郭を初めて開いたのはその後の豊臣秀吉とされ、興味深いところです。
北野武「首」は、従来の大河ドラマが取りこぼしがちな要素に、光を当てたと感じます。
ユニークな切腹のシーン
予告編動画にもある切腹のシーン。どの時代劇でも悲壮感漂う、暗い一幕となりますが、「首」では、豊臣秀吉が農民の出であり、価値観が少し異なること。また、演ずるビートたけしが一流のコメディアンであることから、異色の雰囲気となり必見です。
俳優陣は「どうする家康」の豪華さにはかなわないが織田信長役は必見
「どうする家康」では、今川義元(野村萬斎)、武田信玄(阿部寛)、茶々(北川景子)はじめ、通常のドラマや映画ではまず揃わない、豪華な俳優陣が勢ぞろいします。
北野武「首」では、予算的な制約からも、そこまで大がかりではないものの、織田信長(加瀬亮)は、尾張弁の切れたキャラクターが秀逸で、子どもが見れば間違いなくしばらくモノマネをするだろうインパクト。
R15+(15歳未満の入場・鑑賞を禁止)指定が非常にもったいなく、合戦シーンともども、小中学生に見せれば、歴史嫌いが確実に減りそうです(満15歳を迎えた中3生は鑑賞できます)。
なお、徳川家康は小林薫が、「どうする家康」とは異なり、従来の時代劇で多かった、落ち着いた貫禄ある人物像を演じます。見どころは、実に10回以上はある、命を狙われる場面です。
千利休(岸部一徳)、黒田官兵衛(浅野忠信)らも好演。少しコミカルな、ビートたけしの豊臣秀吉も良いです。前半は強烈な織田信長に主役を譲りますが、後半に前面に出てくる展開です。
本能寺の変の織田信長の死因はかなり意外
「首」は、本能寺の変がテーマとなり、(おおかたの)史実として織田信長はここで死去しますが、この映画では、実に意外な理由で死を迎えます。
仔細が残されている事件ではなく、様々に想像して楽しむ余地があるのですが、こういった考え方もあるのかと思わせるものです。
この点でも、歴史がそこまで好きでない方はもちろん、R15+指定でなければ、これから歴史を学ぶ小中学生にもぜひ見て欲しかった映画です。全体としては、時代劇というよりは、エンタテインメントの傑作と言えます。
なお、「どうする家康」をご覧になった方には、信長の家臣・荒木村重を予習しておくのがおすすめです。未見の方は、三英傑(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)に加え、荒木村重を予習しておくと違和感なく楽しめます。