【体操】順大キャプテン加藤裕斗 全日本団体選手権4連覇だけを見つめて
体操の団体日本一を決める全日本団体選手権が11月9日(女子)、10日(男子)に群馬・高崎アリーナで開催される。
16年から18年まで男子3連覇中の順天堂大学でキャプテンを務める4年生の加藤裕斗(ゆうと)は、兄がリオデジャネイロ五輪金メダリストの加藤凌平(コナミスポーツ)、父がリオ五輪日本代表コーチなどを務めた加藤裕之コナミスポーツ監督という体操ファミリーの一員。大学入学後は相次ぐケガで出場を逃してきたが、今回は自身初の全日本団体選手権出場となる予定だ。
ターゲットはもちろん団体4連覇。目標を達成して大学生活の有終の美を飾ろうと意気込んでいる。
■初の全日本団体選手権「ワクワクしています」
「初めてなので、どんな感じなのかなというワクワクする気持ちがあります」
10月下旬、千葉県印西市にある順天堂大学さくらキャンパスの体操競技場(OGAWA GYMNASTICS ARENA)。加藤は目を輝かせていた。
「全日本団体選手権は、演技する各種目の3人が1人も失敗できませんし、ギリギリの戦いになります。ただ、自分は3年生まではこの大会に出ていないので今回が初めてになるのですが、4年生なのでこれで最後です。そういった部分もあって試合自体はすごく楽しみです」
■ケガと闘った4年間
4歳上の兄の後を追うように幼稚園の頃から自然と体操を始め、埼玉栄高校3年生のインターハイでは個人総合で見事に優勝を飾った。父も兄も高校時代の最高成績は2位。家族内で初めての頂点だ。得意種目はゆかとあん馬。ダイナミックな演技が光っていた。
しかし、大学ではケガに悩まされることが多かった。1年生の10月に左足の脛(すね)を疲労骨折して、治療しながら練習を続けていたが、2年生のインカレ(8月)の後に悪化。その後は半年あまりの間、ゆかと跳馬の練習をできなかった。
「1年生の頃、ゆかや跳馬の練習をめちゃめちゃやって、その反動で足をケガしました」
負傷の影響は今もゼロではなく、ケガによってゆかという得意種目を封じられてしまったという忸怩たる思いはある。しかし、加藤は諦めなかった。
■身長169センチ。ダイナミックな演技
前述の通り、持ち味はダイナミックな表現力だ。身長169センチ、体重57・5キロは体操選手では大柄な方。長い手足は空間によく映え、ひとつひとつの技に雄大さという魅力を加える。
ケガの影響もあって、現在の得意種目はあん馬。ケガを治している間に質も向上させたと胸を張る。
「何故ケガをしたのか、自分にはどういう力が足りないのか、体の使い方はどうなのかをトレーナーさんにも相談しながら考えました」
その結果、つり輪が強化され、元々の得意種目であるあん馬も高校時代と比べて旋回が大きくなったという。
「ケガをきっかけに体の使い方を改善して体操の質を上げながら、ケガを乗り越えてきました。自分が今どうやって進んでいけるかを最大限に考えることはできたと思います」
■雄大さでは兄に負けない
4歳上の兄・凌平と比べられることも多く、ともすれば窮屈な思いを感じたこともあったかもしれない。加藤自身はどう受け止めていたのだろうか。
「高校、大学と同じ道を歩みましたから、期待も比較もされましたし、『兄はこうだった』という先入観を持たれることもありました。でも、自分は自分。練習の中でも自分を崩さず、自分らしくいこうと思っています」
一方で、「似ている部分がある」ことも承知している。特に、あん馬の旋回や、ひねりの技術には共通するものがあるという。
「やはり一番身近なお手本ですから、真似するところは真似しますね。でも、自分と兄は体型や体操のスタイルが違います。兄には出せない雄大な体操が自分にはあると思っています」
もちろん、兄の実力は十分に分かっている。「兄は安定感があって、逆に自分に欠けている部分、欲しいと思っている部分がそこです」と自身の課題を口にする。
■団体選手権の最大の強敵はセントラルスポーツ
全日本団体選手権を間近に控え、チーム状況は上昇しているところだという。世界選手権帰りのエース谷川翔(3年)は徐々に疲労が抜け、状態が上がってきた。翔とともにナショナル入りしている三輪哲平(1年)も含めて、メンバーの調子は上がっている。加藤自身も腰の状態が良くなってきた。
大会では、萱和磨、谷川航、野々村笙吾らを擁するセントラルスポーツが最大のライバルとなる。学生同士で覇権を競っている日本体育大学、兄と父がいるコナミスポーツも強敵である。
その戦いに向けて、加藤はキャプテンとしてどのように順大を引っ張っていこうとしているのだろうか。
「1学年上には(萱)和磨さんを筆頭に、(谷川)航さん、(千葉)健太さんがいて、その3人がいるという安心感をみんなが持っていました。だからキャプテンになったときはすごくプレッシャーがありました。でも、自分には1人で1学年上のような安心感を出すことは無理。まずは最年長としてしっかりすること、それと、自分から発信することを心掛けて頑張ってきました」
■支えてくれた仲間に「ありがとう」
今年8月のインカレ。大会前に練習のしすぎで腰を痛めた加藤は、直前まで出られるかどうか微妙な状況になってしまった。けれども懸命の治療でどうにか状態を戻し、最終的には監督の判断で出場した。
「みんなが自分の状況も分かって迎えてくれました。すごく支えてもらいました」
インカレが終わるとチームメートに「ありがとう」と頭を下げた。
「試合に出るのは6人ですけど、チーム登録されているのは8人。その後ろに控えてる人もいる。そういうことを含めて、すべて感謝しています」
思い出すのは、ケガをして練習をできないときも、いつも通りの言葉や明るいムードを絶やさずに接してくれたことだ。
「どんなときも輪の中にいるという感じでした」
ケガが治ればいつでもスッと練習に入ることができた。それは周囲の思いやりがあるからこそだった。
■団体4連覇を見つめて
高3のインターハイ。父も兄も果たせなかった個人総合優勝を飾った加藤だったが、得意なあん馬で落下したことが心残りとなり、喜びは半分ほどだったという。
「でも、後になってから、もうちょっと素直に喜んでおけば良かったなと思いました。兄ちゃんも父さんも優勝していないんだよな、勿体ないことしたなと思って」
順大の最終学年で迎える最後の試合は団体総合。
「演技をして、仲間を応援して、チーム一丸となって試合をして、そこで力を出し切れたらうれしいでしょうね。でも、喜ぶのは優勝したときだけ。そう思っています」
以前から加藤はこう話していた。
「周囲の期待に負けない努力。それは怠らないようにしています」
言い方はシンプルだが突き詰めれば決して容易なことではない。体操をまっすぐに見つめ、誠実に生きている彼だからこその言葉である。
■兄・凌平もコナミスポーツで団体選手権出場予定
兄の凌平は今春から溶連菌感染症やりんご病に罹るなど体調がすぐれず、苦しい時期を過ごしてきた。どうにか調整して試合には出ていたが、8月30日の全日本シニア選手権を終えた後の9月中旬に、腫れていた扁桃腺の除去手術を行い、約1週間入院した。
加藤コナミスポーツ監督によると、退院後に1週間の安静をとって、その後に練習を再開。ゆっくりと状態を取り戻しながら調子を上げており、全日本団体選手権には出場できる見込みだという。
裕斗と兄弟そろっての出場は、体操ファンにとっても楽しみだろう。
☆加藤 裕斗(かとう・ゆうと)
1997年4月4日生まれ。静岡県出身。兄・凌平の練習を見ながらトランポリンで遊んでいるうちに4歳頃から自然と体操を始める。埼玉県草加市立栄中3年のときに全国中学選手権個人総合3位になり、高校は兄と同じ埼玉栄高校に進学。15年にインターハイの個人総合で優勝を果たした。16年に順天堂大学に進み、19年度は男子キャプテンを務めた。元々はゆかが得意だったが、足のケガの後はあん馬を得意としている。あこがれはリオ五輪種目別鉄棒金メダルのファビアン・ハンビュッヘン(ドイツ)。身長169センチ、体重57・5キロ。