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「繁殖引退犬」の勘九郎くんが北の大地でアイドルワンコになった理由とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

コロナ禍でペットの人気は急上昇です。

犬や猫の品薄状態が続いています。そんななか「繁殖引退犬」を家族に迎えるという選択肢もあります。

繁殖引退犬の存在は知っているけれど、「なつかない」ないし、飼うのはたいへんそうと思っている人も多いでしょう。今日は、北の大地で地域のアイドルワンコになっている「勘九郎くん」のことから、繁殖引退犬について考えてみましょう。

アイドルワンコのイケメンの勘九郎くん

撮影筆者
撮影筆者

上部の写真が、イケメンの「勘九郎くん」です。

筆者が北海道に行ったときに、地域のアイドル犬として現れました。6歳ですが、綺麗な顔立ちをした犬でした。

なぜ、このイケメンの勘九郎くんが、地域のアイドルワンコになっているのかをご紹介します。

勘九郎くんは、いまでは里親のSさんのところで愛情一杯に暮らしていますが、この子はもともとブリーダーのところで飼われていた雄犬でした。6年前までは、本州で繁殖犬をしていたのです。

繁殖犬の雄は特に、容姿端麗を求められます。そして、雄の中では少し小さい子の方が、子宮の中であまり子犬が大きくならないので雌が安産であるといわれています(最近は、帝王切開で産ませるブリーダーが多いですが)。

この記事を読んでいる柴犬の飼い主は、うちの子に似ていると思われているかもしれません。元繁殖犬なので、勘九郎くんの子どもは多くいるはずです。血統書の名前が勘九郎くんなので、父犬を確かめるとわかるかもしれません。

Sさんは「ブリーダーの中では良心的なところで、6歳になったら里親に出されているので、今回、このようなご縁に恵まれました」と教えてくれました。後述しますが、動物愛護法の改正があり、繁殖引退犬が多くいるようになっています。

なぜ、Sさんは繁殖引退犬を飼うことにしたか?

Sさんは、ずっと犬を飼っていました。以前、飼っていたラブラドール・レトリバーの大型犬も17歳までと長寿でした。晩年は足が動きにくくなってもSさんは最後までお世話をされていました。

そんなSさんは、いろいろな報道を読み聞きしていたので次回は、保護犬にしようと思っていたそうです。

2年間、犬がいない生活を送っていましたが、やっぱり犬がほしいと思う気持ちが強くなり探していたそうです。

保護犬の中でもチワワやトイプードルなどの小型犬は、割合に人気がありますが、やはり柴犬になると難しいことが多いです。保護犬の里親募集のところに行くと勘九郎くんがポツンと1匹でいたそうです。そんな勘九郎くんを見てSさんは「やはりこの子を家族にしようと思った」と話してくれました。

繁殖引退犬を飼うのは、たいへんなの?

一般的なペットではなく、ブリーダーのところで飼われていた繁殖引退犬って飼うのは、たいへんではないの?と思っている人も多いでしょう。それは以下のような理由です。

なつかないのではないの?

病気を持っているのではないの?

それでは、その辺りを具体的に見ていきましょう。

繁殖引退犬の健康状態

繁殖引退犬は、一般的な家庭犬より弱いのでしょうか。

そういうことはなく良心的なブリーダーなら、元気で病歴もないはずです。ただし雌犬の場合は、複数回にわたって帝王切開をされている可能性があります。不妊去勢手術をしていないことが多いので、雌犬の場合は、すぐに不妊去勢手術をしないと子宮蓄膿症になりやすいです。

もちろん劣悪な環境で飼われていた子は、皮膚病や寄生虫疾患を持っている子もいます。

勘九郎くんの場合は、雄犬なので比較的健康状態は問題がなかったです。ただ、歯のケアをしてもらっていなかったようで、歯周病になっていました。筆者が外見から見たうえでは、雄の割合に骨組みが細いように感じられました。

繁殖引退犬といっても、個々のブリーダーによって生活環境が違うのでその点を考慮してから、里親になりましょう。

繁殖引退犬のしつけ、「勘九郎、鳴いてもいいのよ」

撮影筆者
撮影筆者

多くの繁殖犬は、一般家庭で飼われていたわけではなく、ケージの中で長い時間暮らしています。それを数年続けていたので、新しい環境に慣れるのには時間がかかる場合が多いです。

子犬なら順応性がありますが、成犬の場合は、一度覚えたしつけなどから新しい環境に慣れさせることにも、ある程度時間をかける必要があります。

勘九郎くんは、始めは全く鳴かない犬だったそうです。声帯を切られているのかなとSさんは思っていたぐらいです。ある日、フャという変わった鳴き声を聞いてSさんは「勘九郎、鳴いてもいいのよ」といってあげるようにしてだんだんと鳴けるようになったそうです。

そのほかに、勘九郎くんは散歩に行くと外を歩くことに慣れていなかったようで、まっすぐしか歩けなかったそうです。

そんな勘九郎くんでしたが、いまではSさんの努力と犬コミュニティーで、みなさんに愛される犬として暮らしています。

筆者の知人宅に毎日、散歩の帰りによってオヤツをもらっていました。

繁殖引退犬を迎えるにあたっての心得

写真:アフロ

繁殖犬は、子犬を産ませるために飼われていた犬です。そのため、一般的な家庭のペットとして暮らしていません。

しつけをする必要があるかもしれません。まずは、飼い主との信頼関係を築くことが大切です。むやみにおこったりせずに褒めてあげることです。

そうするといくら成犬でもだんだんと心を開いてくれるようになってきます。信頼関係ができてから、しつけを始めることが望ましいでしょう。

環境が変わることでトイレがうまくできない場合もしからずに気長に教えてあげましょう。

おとなしい性格の犬の場合、小さな子どもに慣れていないことから怖がってしまうこともあります。注意しながら、子どもと接してあげましょう。

繁殖引退犬のメリット

産まれたときから、多くの犬の中で暮らしているので、多頭飼育の中に置かれてもおどおどしたりすることが少ないです。複数犬がいるところは比較的慣れやすいです。

6歳以降の子が、多いのでシニアの飼い主さんには飼いやすいです。たとえば、50代の人なら、繁殖引退犬なら6歳以降なので犬の平均寿命から考えると10年もないぐらいなので、飼い主が高齢になりすぎて飼えないということが起こりにくいです。

繁殖引退犬を迎える際の費用

写真:アフロ

引退犬なので無料なのでは、と考えている人がいるかもしれませんが、一般的には、繁殖引退犬の譲渡にかかる費用は、3万円~15万円といったところです。勘九郎くんは、4万5千円だったそうです。

その子によりますが、内訳は、「ワクチン代」や「健康診断の費用」「避妊手術」「歯石取り」などの実費となります(勘九郎くんは、去勢手術も歯石取りもされていませんでした)。

なかには、無償譲渡するケースもあります。しかし、過去に虐待目的で無償だった場合に事件が多発したこともあるので、無償でないことの方が、一般的となりました。

なぜ繁殖引退犬が増えるのか?

令和3年6月1日から「動物の愛護及び管理に関する法律」等の一部が改正され施行されました。ブリーダーにとっては、この法律を守ってずっと繁殖犬を飼い続けることが難しくなったので、繁殖引退犬として里親に出すことにしています。具体的に見ていくと以下のようになっています。

□運動スペースとは別の飼育施設

・犬 タテ(体長の2倍以上)×ヨコ(体長の1.5 倍以上)×高さ(体高の2倍以上)

・猫 タテ(体長の2倍以上)×ヨコ(体長の1.5倍以上)×高さ(体高の3倍以上)

□従事する職員の1一人当たりの飼育できる動物の数

・犬 1人当たり繁殖犬15 頭、販売犬20 頭が上限

・猫 1人当たり繁殖猫25 頭、販売猫30 頭が上限

注意:行き場を失う犬猫の遺棄や殺処分、不適正飼養を防ぎ、新規従業者の確保又は譲渡などによる飼養頭数の削減を行う期間が必要なため、段階的に5頭ずつ減らすことになっています。新規事業者は、令和3年6月に完全施行で既存事業者は、段階的に適用し、令和6年6月から完全施行(第1種動物取扱業)です。

□繁殖に関する規定

・犬  雌の生涯出産回数は6回まで、交配時の年齢は6歳以下、ただし7歳に達した時点で生涯出産回数が6回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下とする

・猫  雌の交配時の年齢は6歳以下、ただし7歳に達した時点で生涯出産回数が10回未満であることを証明する

繁殖犬の里親になる

写真:アフロ

勘九郎くんは、雄犬で良心的なブリーダーのところにいたので、それほど病気は持っていませんでした。しかし、世の中では、子犬を産ませる道具のように扱っているいわゆるパピーミル(子犬工場)のようなところにいた子たちもいます。

そんな子たちの里親になることを検討する方もいるのではないでしょうか。これまでに辛い経験をしてきた繁殖引退犬などの里親になるには、その子たちがこれ以上不幸な思いをしないよう様々な条件があります。

□里親になるための条件

里親になるための条件は、保護団体などによっても異なりますが、一般的には、以下です。

譲渡前に講習会を受講していること

・ペット可の住居に住んでいること

家族全員が飼育に同意していること

経済的、時間的な余裕があること

家族に動物アレルギーがないこと

不妊去勢手術を確実に行うこと

全員が家を留守にする時間が少ない

などです。

厳しいように思えますが、里親先で終身飼育してもらうためです。

繁殖引退犬には、ただただ幸せで温かい日常を送ってほしいと願うばかりです。

どんな時も愛情をかけその子の生涯に責任を持って飼い続けられる人は、繁殖引退犬の里親になることを検討してみてはいかがでしょうか。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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