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日大アメフト部員薬物で逮捕 目くらまし表現でわけわからん記者会見に

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
筆者撮影(THE PAGE)

日本大学(以下、日大)のアメリカンフットボール部の学生が8月5日午後大麻取締法違反及び覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕されたことをうけ、8月8日15時から日大が記者会見を行いました。当然のことながら、大学は企業とは異なります。お金を払って所属している学生と企業から給与をもらっている社員。記者会見はなかなか難しいといえます。さらに、日大アメフト部といえば、2018年にタックル問題が発生、2021年に背任容疑で逮捕された井ノ口忠男前理事はアメフト部出身(タックル問題の責任で一度理事を退任して、田中前理事長の許しを得て再任)となると、今回で「3回目」の印象にならざるを得ません。ニュース性が高まってしまいます。その中での記者会見となれば、覚悟をもってしっかり説明するつもりだろう、林真理子理事長なら信頼回復の第一歩になるメッセージ力のある記者会見をするのではないか、と期待は高まります。ところが、冒頭のメッセージ不足と目くらましの経緯説明で、結局わけわからん記者会見となってしまいました。

■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

理事長は自分の釈明中心

登壇したのは、林真理子学校法人日本大学理事長、酒井健夫日本大学学長、澤田康広日本大学学生・就職、競技スポーツ担当副学長の3名。冒頭、林理事長と酒井学長から説明がありました。

林真理子理事長(以下、林):本日はお忙しいところ、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。学校法人日本大学理事長林でございます。このたび、本学アメリカンフットボール学生寮で大麻取締法違反及び覚醒剤取締法違反の容疑により警察から家宅捜索を受け、同容疑により学生が1人逮捕されました。このことは大変に遺憾であり、理事長として深く受け止めるとともに、本学の学生、生徒、卒業生、保護者の方々、そして関係者の方々に、多大なご迷惑とご心配をおかけしたこと、またこの問題に関しまして、私どもが正式に説明いただくことを設けました際に時間が要しましたことも併せて、心から深くおわび申し上げます。

 先般、メディアの取材に対し、違法な薬物は見つかっていないとした私の発言により混乱を招いてしまいました。その発言をした時点では、学生寮で発見された物が違法な薬物なのかどうか、警察において確認を進めていただいていたところであり、本学としては、確認の結果について連絡を受けていないという意図の発言でございました。8月2日に私が皆さまからの囲み取材を受ける直前まで、担当副学長、担当常務理事らと会議を行い、同日16時18分付で現時点では、一部マスコミに報道されているように、本学アメリカンフットボール部の寮内において違法な薬物が発見されたとの事実は確認できておりませんというコメントを文部科学省記者クラブにニュースリリースいたしました。リリースに記載した内容をお伝えしたつもりでございますが、確かに私の発言は言葉足らずで、唐突であったと本当に反省しております。

 昨今、理事の中に旧体制の勢力が残っていて、私がお飾りの理事長であるという報道がなされているようでありますが、そのような評価を私はとても残念に感じております。私はこれまで日本大学の卒業生であることに誇りを持って生きてまいりました。しかしながら、数年前、大切な存在である母校に対する社会の信頼が不祥事によって地に落ちることとなりました。その時に経験した悔しさ、歯がゆさ、憤りは、昨日のことのように思い出されます。在校生や卒業生にかつてのような誇りを取り戻してほしい、その一心で、微力ながら、これまでの経験を生かしてお役に立てればと理事長に就任いたしました。

 そして、人事を刷新し、志を同じくする理事や教職員たちと共に、この1年ガバナンスの確立に全力を尽くしてまいりました。どこまで達成できたかわかりませんが、皆で作り上げてきたガバナンスに対し、相変わらず欠如しているとか旧体制と変わらないと評価されることは誠につらく、残念でなりません。もちろん着手してまだ1年と少しですので、完全なものには至っていない部分もあったかと思います。今後より一層ガバナンスを強化していくために報告、情報伝達体制を精査するなど、引き続き仲間たちと共に日々真摯(しんし)に努めてまいりたく考えております。私が理事長の職をお引き受けした時の志である、在校生及び卒業生の誇りを回復し、日本大学に対する社会からの信頼を取り戻す、そのための取り組みを最後までやり抜く覚悟に変わりはありません。改革の再出発として、まず今回の問題について真摯に取り組み、大学を挙げて原因究明と再発防止に全力で尽くしてまいります。また、今後も警察の捜査に全面的に協力してまいる所存です。

 最後となりますが、今回の事案により、ご心配をおかけしている多くの皆さまに改めておわびを申し上げます。

林理事長のメッセージは、ステークホルダーへのメッセージがなく自分についての釈明ばかりでした。「遺憾である」といった他人事に聞こえるような言い回し、自分がどういった思いでやってきたのか、どのように努力してきたのか、自分の発言が誤解を招いたこと、お飾りという批判には残念で辛いなど全て自分のことばかりを説明しています。大学における最重要ステークホルダーである学生へのメッセージがありません。

たとえば、日本の若者、学生を蝕んでいる大麻、覚せい剤に対する強烈な危機感を訴えるといった社会的観点からの問題意識を示す、あるいは学生の未来を憂える気持ちを表す。今回保護者や警察からの警告、通報に即座に対応できなかった体制不備を謝罪し、立て直す決意。今後大学として根絶のためにどういったことをするのかといった決然たる方針を語るといった言葉こそがこの時求められた広報的メッセージなのです。それがダメージコントロールとなり、イメージ悪化を最小限にするといったクライシスコミュニケーション(危機管理広報)の役割でもあるからです。

会見の質疑応答においては、「全て副学長に任せていた」「副学長の対応は問題なかった」といった逃げの姿勢に終始していました。とはいえ最後には、「自分は遠慮していた。もっと関わっていくべきだった」と反省している点は正直で好感が持てます。会見で揉まれるのはそれなりに意味があるといえます。

薬物を保管していた12日間についての説明が意味不明

酒井学長からは経緯についての説明がありました。

酒井学長(以下、酒井):まず、今年の6月30日に、警察の方から、アメリカンフットボール部学生寮で大麻が使用している可能性がある、との連絡がございました。その日のうちに、本学としては、副学長と競技スポーツ部長がアメリカンフットボール部の学生寮を視察いたしました。違法な薬物と思われる物は発見には至りませんでした。

 7月6日に再度、警察より、同部内で大麻疑惑について指摘があり、その際に大学の意向を確認することから、大学で調査をさせてほしいと申し出ました。警察の方からも「まず大学の調査を委ねる」と言われましたので、同日中に学生寮で、11名の持ち物検査と3名のヒアリングを開始いたしました。なお、7月7日から7月27日までの間に、寮生のヒアリング23名、持ち物検査16名、元寮生のヒアリング10名の調査を行いました。

 7月6日の持ち物検査では、所有者不明の細かい茶葉のような物がわずかに付着した小さなビニール袋と、内容が不明の容器といった不審物を発見いたしました。その後、7月18日に警察に対し、途中経過の報告と相談をいたしました。持ち物検査を開始してから再度警察に相談するまで12日間が経過しておりますが、これは、不審物を発見した時点では違法な薬物であるとの確証がなく、ヒアリング調査を進めてから、まとめて警察に相談しようと考えていたのであります。どうかご理解をいただきたいと思います。

なぜ警察が大学に調査を委ねたのでしょうか?ここがよくわからず。麻薬捜査官でなければ麻薬かどうか見分けがつかないはず。案の定、大学は7月6日に発見したものが何かわからず放置しています。いや、あるいはわかったうえで保管していたのでしょうか(わかっていたと公には言えないため)。この点については、澤田副学長との質疑応答で明らかになったのですが、「6月末に抜き打ち検査をしなかったのはプライバシー保護のため」であり、迅速に対応しなかったのは「学業を優先したため」「学生が自首する状況ではなかったから」とこれも訳がわかりません。そもそもこの調査をしたのは元検事の澤田副学長です。犯罪と学業を天秤にかけて学業を優先する感覚がわかりません。「まとめて警察に相談しようと考えていた」は、ありがちなNGコメントであり、危機感がありません。そして極めつけは「どうかご理解をいただきたいと思います」と余計な一言。なくてもいい言葉です。反発を招くだけ。

理事長が知った時点は聞かれる前に説明すべき

酒井:調査経過と警察への相談につきましては、翌19日に、副学長より、理事長と学長である私に対し、報告がございました。

ここでは、重要な説明が抜けています。19日に報告がされたのは、18日に林理事長に保護者から手紙が届いたからです。その説明が抜けています。質疑応答で明らかになるとは情けない。重要な時系列が抜けてしまうことでダメージが深まってしまいました。

酒井:そのヒアリングの調査経過を受けて、7月19日に警察の方が本学にお越しになり、翌20日に、学生寮で発見された不審物を押収して、違法な薬物かどうかを鑑定することにいたしました。そして、先週の8月3日には、報道でもありましたとおり、大麻取締法違反と覚醒剤法違反の容疑で学生寮が家宅捜査を受けることになり、5日には、本学の学生1名が同容疑で逮捕されたという次第でございます。なお、押収された不審物が違法な薬物であることが判明したことにつきましては、本学が警察より連絡を受けたのは、家宅捜査を受けた8月3日の午後でございます。

つまり、保護者の手紙が林理事長に届いた後、大学は警察に連絡したことを意味します。内部告発の手紙が届かなければさらに先延ばしされていた可能性があります。わからないのは、逮捕の前に学生になぜ自首させられなかったのか。大学側は何を待っていたのでしょうか。いや、自首した上で逮捕されたのかもしれませんが、それならそうと言った方が学生のためにもなります。しかし、この説明ではわかりません。ダメージを少なくするための表現工夫が一切見られないのです。この点についても質問した記者はいませんでした。

「警察関係者」目くらまし表現はいたい

ここで説明が終わると思いきや、説明はさらに続きます。昨年に遡るのです。

酒井:昨年10月29日に開催されたアメリカンフットボール部の保護者会の開催後に、部長をはじめとする指導陣に対し、保護者の方から学生寮内で大麻を使用していないか調査するようにとご依頼がありました。

 指導陣は部員121名に対して、10月30日から11月6日に聞き取り調査を実施いたしましたが、その際には大麻を使用した事実は確認できませんでした。

 その後、11月下旬にアメリカンフットボール部に所属する学生1名から、大麻と思われる物を7月ごろに吸ったという自己申告が指導陣に対してございました。

 この申告について、アメリカンフットボール部としては警察関係者に相談いたしましたが、本人からの自己申告のみで物的証拠がないことや、4カ月という期間が経過しており、吸ったとされる物が大麻かどうか確認できないことから、事実の立証は困難であるとの回答がございました。

 一方で、自己申告した学生に関しては、十分指導するよう警察関係者よりご指導があったため、本人に対してはアメリカンフットボール部の判断で、部の指導陣より厳重注意をいたしました。

「警察関係者とは一体誰なのか、どこの警察署なのか」「果たして立証が困難などと警察が言うのだろうか」。しかし、この点について質問する記者はいませんでした。会見後に「警察関係者」は警察ではなく日大OB警察官による個人的見解と報道が流れました。「警察関係者」といった目くらましのような表現で学長に語らせてしまいました。一体誰が作文したのでしょうか。非常に大きなミスリード。著しく評判を落とし、ダメージを深めました。

時系列整理メモでましな会見を

酒井:なお、この件に関しましては、昨年12月1日に、同部の監督から、本学の競技スポーツ部へ報告がございました。

「部への報告」が曖昧です。部長なのか副学長なのか。事務員が文書で受け取っただけなのでしょうか。会見の質疑応答では、副学長の澤田さんは昨年の件について知らなかったと言っています。

酒井:また同日(12月1日)に、警察より、本学競技スポーツ部に対し、アメリカンフットボール部で大麻が使用されている疑いがあるとの情報提供があった旨、連絡がございました。その際、警察としても真偽が不明のため、薬物に関する講習会を行って対策したい申し出がございました。12月10日に、警視庁の方を講師にお招きし、同部学生に対して、薬物乱用防止講習会を開催いたしました。

警察と大学のやりとりがよくわかりません。自主申告した学生がいることを警察に報告していたら違う展開になったのではないでしょうか。そしてここで自首できていれば、報道もされず収束できていた可能性があります。同じ学生なら、ですが。違う学生だと話はまたややこしくなりますが。

記者会見全体を振り返ると、質疑応答では時系列の確認が多かったため、おそらく何も配布されていないのだろうと思いながら聞いていました。終了後に記者会見に出席していた私へ取材の電話をしてきた東スポ記者によると「配布物は何もありませんでした。何かあると期待していたんですが」。やはり。

口頭説明だけでは理解に時間がかかります。記者会見はダメージを最小限にするために開催するのですから、お互いに生産的でありたい。時系列の簡単なメモでいいので配布する、あるいは学長コメントがあるならそれを配布すればいいのです。そうすれば、より建設的な問題、例えば学生が薬物巻き込まれないようにするにはどうすればいいのか、大学としてできること、に質問の角度を変えることもできたはず。記者会見は切り返しのチャンスとして活用もできるのです。ムードを変える切り札というのでしょうか。学長原稿も前述したとおり、目くらましのようなミスリードがありましたが、配布物が全くないよりはましな記者会見になったのではないでしょうか。

<参考サイト>

日大アメフト部薬物問題 林真理子理事長ら会見(THE PAGE2023年8月8日)

https://www.youtube.com/watch?v=8R9CUk6keW4

日大「相談」、警視庁幹部が否定「立証困難との見解伝えず」(共同通信 2023年8月9日)

https://news.yahoo.co.jp/articles/e01d48eca8caf86895d55c4b5b2bca898a03c096

日大と警視庁、食い違う認識 アメフト部員薬物問題巡り(日経新聞 2023年8月10日)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE100X40Q3A810C2000000/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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