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吉野家、「生娘をシャブ漬け戦略」発言の常務を解任 経営幹部の失言はどう予防する?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:西村尚己/アフロ)

牛丼を主力とする大手外食チェーンの吉野家は、「生娘をシャブ漬け戦略」と発言した常務取締役伊東正明氏を4月18日に解任しました。早稲田大学の社会人向け講座の中で、吉野家の若い女性へのマーケティング戦略を説明する中で発せられました。この暴言で株価は急落、新商品発表会も中止され、企業経営に大きな影響を与える事態となりました。経営幹部の失言は予防できるのか、マネジメントの視点から考えます。

吉野家の企業としての危機対応は迅速でした。伊東氏の早稲田大学での発言は16日、そこに参加していた受講生による伊東氏発言に関するSNS投稿を受け、ネット炎上からマスメディアへと報道が急拡大。吉野家は18日には、「当社役員の不適切発言についてのお詫び」と題する謝罪文を会社HPに掲載。翌19日には、「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することのできない」として4月18日付で解任したことを発表。伊東氏は常務の肩書での登壇であったことから会社を代表する言葉になります。したがって、会社が公式見解を出す必要があり、迅速な解任発表は危機発生時の緊急対応としては評価できます。

しかし、この問題は単なる暴言として簡単に忘れ去ることができない深刻さがあります。若い女性について処女を意味する「生娘」と表現し、自社製品を覚せい剤の隠語である「しゃぶ」としてしまった影響は計り知れない。失言レベルではない、犯罪を連想させる点が致命的です。企業イメージへの打撃は大きく、歴史に残るほどのインパクトになってしまいました。事前回避することはできなかったのでしょうか。リスクマネジメントの視点で疑問点を洗い出してみました。

敏腕マーケターとして実績ある伊東氏はこのような言葉を選択してしまったのか。最初にこの言葉に接した時に感じたことは、日常会話では使わない言葉。古臭い印象を与える言葉。伊東氏は早稲田大学の受講生の反応を見ていなかったのか、その場で気づいて撤回できなかったのか、その場で誰も指摘をしなかったのか。受講生には笑いが広がったということなら、吉野家だけの問題ではないのだろうか。マーケティングで過激な言葉を使う癖があったかもしれないが、P&G出身者の言葉とは思えない。社内でも日常的に使用されていた言葉で自然に出てきてしまったのだろうか。あるいは失言癖が元々あったのか。社内で彼の言葉遣いを注意する人はいなかったのか。会社として幹部に対して、会社を代表する立場での振る舞い訓練であるメディアトレーニングを受けさせていなかったのだろうか。

筆者は幹部向け表現トレーニングとして、質疑応答を撮影して表現上の課題をチェックするメディアトレーニングを行っていますが、失言癖は30分ほどこちらが質問するとすぐにわかります。そして大抵の場合、周囲もそれを知っていて「やはりそうですか。私達も何となく気づいてはいたのですが」といった反応が返ってきます。「失言癖があるからトレーニングしてほしい」「社員から指摘できないから外部の立場から言ってほしい」と依頼されることもあります。つまり、周囲はリスクを感じている場合が多い。

レピュテーション(評判)マネジメントをしている企業では、役員に就任した人、あるいは取材を受ける人、社外で発言機会がある人は、メディアトレーニングを受けることがルール化されています。それだけ幹部の発言は影響が大きいと認識しているからです。

では、失言癖は直るのか。すぐには直りませんが、本人が自覚すると軌道修正は早い。また、周囲が繰り返し指摘し続けることで改善していきます。最短の道は、失言癖のある人に注意ができる企業風土を作ること。会社の幹部であれば、メディアトレーニングを受けて自覚する、言葉を言い換える技術を身につける。失言癖は直るまで公の場では話をさせない、といった対策を講じることが企業に求められるのではないでしょうか。

【メディアトレーニング座談会】

石川慶子MTチャンネルより、MT(Media Training)の略

メディアトレーニング座談会は、どう見えたか、メッセージは伝わったかの視点から複数名でトークする動画。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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