名古屋名物「味噌煮込みうどん」=太くて固い、だけじゃない!? 細くてうまい店はココだ!
味噌煮込みの代名詞、山本屋の麺はなぜ太くて固い?
名古屋名物・味噌煮込みうどん。地元では外食でも内食でも食べる機会は多く、名古屋人が日ごろから最も食べている名古屋めしです。
味噌煮込みうどんといえば真っ先に頭に浮かぶのが「山本屋」です。「山本屋本店」「山本屋総本家」とふたつの系列があり(ルーツはともに明治創業で中区大須にあった「山本屋」)、それぞれ名古屋市内を中心に複数店舗を展開しています。名古屋駅や中心部の商業施設での出店もあり、ほとんどの観光客のファースト味噌煮込みは山本屋だと言っても過言ではないトップブランドです。
この山本屋の味噌煮込みうどんの最大の特徴が“太くて固い”麺。少々芯が残っていて、初めての人が「生煮えじゃないか!?」と驚くのは定番の「名古屋めしあるある」です。
ルーツはうどんではなく団子(!?)
さて、今回は細くておいしい味噌煮込みうどんの紹介ですが、まずは取り上げる3軒と山本屋の麺の太さを比べてみましょう。
ご覧の通り、山本屋の麺は他と比べて明らかに太いことが分かります。そもそも、なぜ山本屋の麺はこんなに太くて固いのでしょうか?
「味噌煮込みうどんの麺は一般的なうどんとはルーツが異なり、小麦粉を水でねった団子状のものだったのではないかと考えています」と山本屋本店の広報、永田剛典さん。「すまし汁の中に団子や肉、野菜を入れて煮込む郷土料理で、山梨のほうとう、熊本のだご汁など同様の食べ物は全国各地で見られます。創業者が商売としてこれを出す際、団子では食べにくいし少々あか抜けないので麺状にすることを思いついたのではなかったでしょうか」
何と細い麺を太くしたのではなく、団子から麺にアレンジしたのだとか! すなわち同店にとってはあの麺も、太いというよりもむしろ細長くした、というわけなのです。
形状だけでなく、生地のつくり方も調理法もうどんとは異なります。味噌煮込みうどんの麺は塩水ではなく真水で小麦粉をこねた生地からつくり、下ゆでせずに土鍋に直接入れて煮込みます。普通のうどんは釜でゆでる際に塩が抜けて湯が麺の芯までしみ込み、もっちりしたコシが生まれます。味噌煮込みの麺に芯がやや残っているのは、太いからというよりこの工程がないからです。
「ですから、味噌煮込みの麺の食感はコシというより噛みごたえ。むしゃむしゃと噛むことで麺の小麦の香りと味噌の風味を合わせて楽しめる。これが味噌煮込みの醍醐味です」と永田さん。その噛みごたえを生むのに必要なのが独特の太さというわけです。
ただしこれはあくまで山本屋が考える煮込み麺の“最適化”。太くて固い麺は味噌煮込みうどんの必須条件ではなく、あくまで山本屋の特徴なのです。確かに、名古屋市内では太くて固い味噌煮込みうどんを出す店が多いのですが、これは山本屋が味噌煮込みを名古屋名物に押し上げた影響で、これにならった店が多かったからだと考えられます。
「かどまる」の味噌煮込みはつゆの中で麺が育ってどんどん美味しく!
“太くない”味噌煮込みうどんの代表格が「かどまる」(名古屋市東区)です。
「昔からずっと細いです。細い方がつゆのなじみが絶対にいいと思っています」とは3代目の日比野宏紀さん。代々継承されている煮込み麺は一般的なうどんよりも細く、うどんとそうめんの中間くらい。すすると表面は柔らかく、それでいて細いのに煮込み麺独特の噛みごたえも感じられます。
「生地をつくる際に三層にして外側を柔らかくするんです。細くても土鍋の中で煮込むので最初は少し芯が残る。でも食べ進むうちに麺とつゆがどんどんなじんでくる。他の麺料理は出てきた時が一番おいしいんですが、煮込みうどんは麺がつゆの中で“育って”いく。最後のひと口が一番おいしいんです!」
味噌は赤二種類と白一種類をブレンド。まろやかな味わいが、優しい食感の麺とマッチしています。
「うちの味噌煮込みを食べて、味噌煮込み嫌いが治った、というお客さんがたくさんいますよ」と胸を張る自慢の一品。太くて固い麺が苦手…という人は是非お試しください。
するするとうどんらしくすすれる「三浦屋」
「細いと麺らしくすすって食べられますよね」と細い理由を明快に答えてくれたのは三浦屋(名古屋市東区)の3代目・三浦加守男さん。戦後間もなくの創業で、三浦さんが店に立つようになった平成元(1989)年には既に現在の細さだったといいます。
「うちにとってはこれが当たり前だったし、当時は今ほど“味噌煮込み=太い”というイメージが定着していなかった気がします。店を継いだ後に初めて山本屋に行って、麺の太さにびっくりしたことを覚えています」
煮込みうどんの調理法としては珍しく、一度下ゆでするのもこの店ならでは。粉を落とすためだといい、その後土鍋に移し、30秒ほど煮込んだら出来上がり。細い分煮込み時間は短いですが、そのため細いながらも噛みごたえを感じられます。
味噌は江戸時代創業の名古屋・ヤマヤ醤油店の味噌を使用。豆味噌ならではの力強いコクと渋味が感じられます。愛知県産小麦・きぬあかりを使った麺は香りがよく、一般的なうどんと同様にするするとすすることができます。麺はとても食べやすく、それでいてパンチのきいた豆味噌らしさも堪能できる一杯です。
独自の製麺技術でもっちり感もある「森田屋」
森田屋(名古屋市東区)は1888(明治21)年創業と伝わり、名古屋で最も古いうどん店。こちらの味噌煮込みうどんの麺は、細いだけでなく、きしめんにも似たやや平打ちです。
「父が試行錯誤してこの形状になりました。噛んだ時に歯ごたえを感じられるようやや固めに煮込んでいます」と4代目の玉津亮さん。理系出身の玉津さん自身も麺を様々な角度から研究。太さ以上にのびのよさに麺の特徴があるといいます。「生麺は普通はひっぱるとちぎれてしまうのですが、うちの麺は2倍くらい伸ばしても切れません。手早く製麺し、すぐに冷蔵庫で保管することで、保湿されているのが理由だと思われます」
独自の製麺技術のおかげで、煮込み麺としては珍しくもっちり感も感じられます。味噌は赤二種類・白一種・こうじ一種をブレンド。まろやかさの中に深みがあり、毎日でも食べたくなる飽きの来ない味わいです。
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山本屋本店の永田さんが「お店によってそれぞれ思いがあって、それぞれの太さがある。いろんなお店を食べ歩いて好みを見つけてほしいと思います」というように、実は店ごとに様々なタイプがある味噌煮込みうどんの麺。「太くて固い麺こそが味噌煮込み!」「もっと柔らかい麺がいい!!」と食べる人の好みも様々です。名古屋市内および周辺地域のうどん店であれば、ほとんどの店で食べられるので、是非あちこち足を運んで、それぞれのおいしさをお楽しみください。
(写真撮影/すべて筆者)