「働かないおじさん予備軍」を見つけるには「それで?」を5回以上唱えるべき
■「働かないおじさん予備軍」とは?
「糖尿病予備軍」という言葉がある。糖尿病とは診断されないものの、糖尿病へと移行していく可能性がとても高い人のことを指す。
「働かないおじさん予備軍」もそうだ。コロナ後は一気に実力主義が加速するという見方もあり、一目でわかる「働かないおじさん」はともかく、その予備軍は自覚したほうがいい。
今回は、その「働かないおじさん予備軍」を見つけ出す方法を紹介する。
ところで「なぜなぜ分析」という言葉を聞いたことがあるだろうか。何らかの問題が起きたとき、『真因』を見つけるうえで「なぜ」を5回以上唱えるべきだ、という考え方である。「なぜなぜ5回」とか、Whyを5回以上という意味で「5W」とも呼ばれる。トヨタ生産方式、トヨタのカイゼンと伴わせて覚えた人も多いことだろう。
「働かないおじさん予備軍」を発見するには、このような「なぜなぜ分析」を使ってもいいのだが、実は「それで?」を使って質問してみるほうが効果的であるとわかっている。実際に、事例を使って解説していこう。
■「仕事をしている気になっている」という人たち
私は現場に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントだ。だから、組織目標の達成には関係のない仕事をしている人を見かけると、すぐにわかる。たとえば「気分」で仕事をしている人は、とくにそうだ。
たとえば、社長が「もっと組織の風通しをよくするために、組織風土を変えていこう」と呼びかけたとする。そこで各部署から選抜で「組織風土改革プロジェクト」のようなものが立ち上がったとしよう。
プロジェクトのメンバーは定時後に集められ、1ヶ月に2回程度、打合せを繰り返すことだろう。そしてこんな会話が繰り広げられる。
「組織風土を変えろと社長に言われたけど、何から手をつければいいかわからないな」
「組織風土って、そもそも何だっけ?」
「経理はけっこう仲良くやってるよね?」
「チームの雰囲気がいいって言うのなら、コールセンターの女子たちがいいよね。元気があって」
「あそこは課長の意識が高いからなァ」
「その課長にヒアリングするっていうのはどうです?」
「それやってみますか」
「私は、そもそも組織風土とは何か、本でも読んでみます」
「私はセミナーでも受けてきますよ」
このような打合せを何ヶ月もかかってやり、それぞれに調査をしたり、勉強したりして意見を出し合い、資料を作ったりして上司に報告……。なんだかんだ言って1年が経過。プロジェクトが終了。1年間「組織風土改革プロジェクト」でやってきたことは、メンバーが自分なりの手法で調査し、勉強し、意見を出し合い、情報共有した歴史だけ。
社長はその報告を聞いて、一言こういうだろう。
「それで?」
と。
「それで?」と問い掛けられたメンバーたちは驚くはずだ。メインの仕事ではないプロジェクトを任せられ、残業を繰り返しながらやってきたことなのに、トップの社長が退屈そうに「それで?」としか言わないからだ。
「それで? と言いますと社長、どういうことですか?」
「それで? と言ったら、それで? だ。わからんのか? それで組織風土は改革されたのか?」
「いや、そういうわけではありませんが、私たちなりに一所懸命取り組んできたことを報告したいと思い……」
「君たちの報告は、『組織風土改革を頼まれ、自分たちなりに考えてはみましたが、まだ何もやってもいないし、できてもいない』ということの証明に過ぎない。単なるアリバイ作りだ」
「単なるアリバイ作りだなんて!」
「じゃあ、答えなさい。それで、どうするんだ?」
「それでって……」
仕事には必ず何らかの目的がある。その目的に向かって、人が集まり、打合せをし、資料を作り、メールを書き、返信し、また意見交換をする。だが、いっこうに物事が目的に向かって進まないことがある。にもかかわらず当事者たちは、自分たちの行動に疑問を持つことがない。なぜなら、
「やった(ている)気になっている」
からだ。
前述したとおり「気分」である。何ら問題解決しないのに、パソコンの前に座ってキーボードを叩いたり、人を集めて打合せをしていると、仕事を「やった気分になる」ものだ。
とくに会議をやっていると、管理者たちは仕事をした気になる。このように気分で仕事をしていると、「働かないおじさん予備軍」まっしぐらである。
■未来思考になるための「それでそれで分析」
組織にいろいろな問題を抱えているので、それを解決するために、私のセミナーへ足を運ぶ人がいる。そして名刺交換のときに「すごく参考になりました。いろいろなヒントをいただきました」と言ってくださる方が本当にたくさんいる。私はそう言われると、必ず腹の中で「それで?」と唱えている。
「それで、あなたは、具体的に、何を、するの、ですか?」と。
以下のような四文字熟語でスローガンを唱える人も多い。
「部下育成に注力します」
「顧客満足に重点を置きます」
「情報共有を徹底します」
「意識改革をやっていきます」
「経費削減に努めます」
意識も高いし、当事者意識もある。「本気で意識改革をしよう!」と朝礼や会議で唱えるマネジャーもいる。しかし、それは単なるスローガンであり、アクションプランではない。その言葉だけでは物事が動かない。「総論」であって「各論」ではないからだ。
こういったスローガンしか言わない人には「それで?」を使って何度も問い掛けたい。
「意識改革しようとは言いますが、それで? 具体的に何をするのですか?」
「情報共有しようとは言いますが、それで? 具体的に何をするのですか?」
「コミュニケーションを密にしようとは言いますが、それで? 具体的に何をするのですか?」
冒頭に書いた「なぜなぜ分析」と同じように「それでそれで分析」をしてみるのである。「それで?」を5回以上唱えるのだ。
「組織でもっと情報共有すべきと思い、打合せをしました」
「それで?」
「情報共有するための仕組みを入れるべきという話になりました」
「それで?」
「仕組みを入れるためには、どのような情報を共有すべきか考えないといけません」
「それで?」
「誰が、どのタイミングで、その情報を入力するのか、そして参照するのか、ルールを次回の打合せで決めようと思います」
「それで?」
「その後は、運用ルールを決めて、みんなに守ってもらえるよう合意してもらいます」
「それで?」
「そうしたら運用がスタートできます。すぐにはうまくいかないでしょうから、定期的に集まって、今の情報共有の在り方が正しいか検証を繰り返していきます」
「なぜ」を繰り返すと、原因究明のために思考は過去をさかのぼっていくが、「それで」を繰り返すと反対に思考は未来を模索しはじめる。目的を果たしてもいないのに、仕事をやってる気になっている人は、思考が未来へと向かっていない。だから「それで?」と言われると、混乱するのだ。
■「働かないおじさん予備軍」を自覚するための自問自答
糖尿病予備軍の人が血糖値を気にするように、「働かないおじさん予備軍」は、常に「それで?」と自問自答してみよう。他人から「それで?」「それで何なの?」と尋ねられたら気分はよくない。自分で5回ぐらい、唱えてみるのだ。
「ついつい先延ばしをしてしまう。もう年末だから、新しい手帳でも買おうかな」
このように考えた人は、おそらく手帳を買っただけで、何かを「やった気」になってしまうもの。それで自己満足してしまうものだ。だから「それで?」を唱えてみる。
「それで?」
「手帳を買って、ちゃんとスケジュールにやるべきことを書く」
「それで?」
「そうすると、先延ばしをする習慣がなくなる」
「それで?」
「先延ばしの習慣がなくなると、ストレスが減る」
「それで?」
「ストレスが減ると幸せな気分になる」
「それで?」
「幸せな気分になると、仕事が面白くなる……」
このように「それで?」を繰り返すのだ。追い詰められる感覚を覚える人がいるかもしれない。しかし一定のラインを超えると、思考が未来に向かっていくから、実は前向きになることが多いのだ。「働かないおじさん」にならないためにも有効だ。「なぜなぜ分析」ではなく、「それでそれで分析」で、自分自身のマーケットバリューを高める努力をしよう。