地価公示は「全国的に上昇」。マンションまだまだ値上がりする、の大合唱に違和感
3月22日に発表された「令和4年地価公示」で全国の地価が2年ぶりに回復に転じた、と報じられた。特に首都圏の都市中心部は地価上昇が続き、今後も継続するとの分析だ。
実際、首都圏では新築マンション価格の上昇が止まらない。平均価格が「バブル期を超えた」と騒がれ始めたのは2021年の暮れから。2022年に入っても上昇が続き、3月17日に不動産経済研究所が発表した首都圏の2月の新築マンション1戸当たりの平均価格は7418万円となった。
非常に高額だが、それでも「マンション価格はまだまだ上がる」と言われている。
世の中、「不動産価格は上がる」「都心マンションは今後下がることはない」の大合唱だ。
でも、本当にこのままの勢いで上昇を続けるのだろうか。
じつは、新築分譲マンションの最前線を取材していると、「上がり続ける」に違和感が生じるようになった。
世の中の多くの人も、コロナ禍が続き、ロシアのウクライナ侵攻によって世界情勢に暗雲が垂れこめる中、地価やマンション価格が上がり続けるのはおかしい、と感じている。
かといって、「マンション価格暴落」のような極端な動きもでにくそう……新しい年度を迎えようとする今、不動産販売現場で確認した実際の動向から、今後の動きを予想したい。
今、首都圏全域でマンション販売は堅調
まず報告したいのは、首都圏全域の新築分譲マンションはよく売れている、ということ。この3月は完成したマンションの引き渡しが大量に発生し、てんてこ舞いの不動産会社が多い。「今期の実績は十分」という理由で、引き渡しを4月以降にするケースもある。
一部の売り上げを来期にずらしているわけで、それは「来期も業績は良好」となることにつながる。首都圏の新築分譲マンションに関しては、価格上昇のなか好況が続き、2022年度も業績安定が見込まれている。
だから、「価格はまだまだ上がる」とか、「今後、下がることはない」という強気の読みが出てくるのは無理のないところである。
にもかかわらず、マンション販売の現場を歩いていると、浮かれた予測に対する違和感があるのだ。
都心マンションに漂う不安要因とは
ズバリ言って、23区内の新築分譲マンションの販売現場に以前のような勢いがなくなっている。
長引いて終息の目処がつかないコロナ禍、追い打ちをかけるように発生したロシアのウクライナ侵攻による世界情勢の不安、それらに影響されたような株価の下落……高額の都心マンション購入を躊躇させる要因がいくつも重なっている。
といっても、都心マンションは軒並み販売がスローダウンしているわけではない。
港区の南青山エリアや千代田区の番町エリアなど、山手線内側の一等地周辺の新築マンションは、変わらず売れ行き好調だ。それは、都心一等地で売り出される新築マンションが激減し、希少価値が高まった影響だと考えられる。
希少性が高く「買いたい」と思う人が多い商品は、不安が増す時代にも価値を高める。
しかし、東京23区内で売り出されている新築マンションには、集客に苦労する物件も出てきた。それは、超高層の大規模マンションでも、10階建て程度の中規模マンションでも生じている現象だ。
結局のところ、「都心マンションといっても、好調に売れている物件と、そうでもない物件が混在している」のが、実際のマンション市況といえる。
それに関連したデータもある。
「マンションレビュー」を運営するワンノブアカインド社が毎月発表している「全国市区町村中古マンション価格ランキング100」の2022年1月版(2月25日発表)では、東京23区内の価格変動を明らかにする数値が出た。
それは、23区内中古マンション価格を2022年1月時点と1ヶ月前の昨年12月と比べたものだ。
東京23区の中古マンション相場価格は、1年前と比べれば、すべての区で上昇している。が、1ヶ月前と比べると、23区中14区で価格が下がっているのだ。渋谷区は20%の下落、品川区16%以上、新宿区14%以上の下落だ。
以下、23区を「1ヶ月間の下落率」が高い順に並べてみた。
昨年12月と比べ、今年1月の中古マンション価格が下がっている区が結構多い。ロシアのウクライナ侵攻が始まる前の時点で、すでに下がっていた地域が多かったのである。
一方で、都心の中心地とされる千代田、中央、港の3区は、1ヶ月前と比べても価格上昇を続けている。東京23区内でも場所による差が鮮明になっている。
といっても、このデータは中古マンションの価格を調べたもの。築年数の古い物件も混じるので、その数値をそのまま新築マンションに当てはめることはできない。
そもそも、新築分譲マンションの場合、多少売れ行きが鈍っても、すぐに価格を下げることはない。現在の都心新築マンションは2年がかり、3年がかりの長期計画で販売を行うケースが多く、売れ行きが落ちれば、販売期間をさらに延ばせばよいと考えられている。
そのため、仮に新築分譲マンションで長期的に売れ行きが悪化しても、値下げを行うのは3年後とか4年後。その時点で、見通しが変われば、再び価格を上げる可能性だってある。
長いスパンで販売される新築マンションに対し、個人が売主となる中古マンションは短期決戦だ。一般的には3ヶ月くらい、長くても半年程度で売ろうとする。だから、「この値段では売れない」と見切ったときの値下げは早い。
つまり、中古マンションの値動きは市況の動きに即反応する。
その中古マンション価格が、23区内の多くの場所で下がり気味であることは注目すべきだろう。
投資筋から実需層に。マンション購入者が変化
東京23区内では、新築マンション価格が上がリ続けるところもあるし、価格上昇が止まったところもある。価格上昇が止まったところは今後価格が下がる可能性もあるが、それはまだ当分先の話……そう考えるのが現実的だ。
同時に、エリアによる動きの差があるのも、現在の不動産市況の特徴。都心部の一部新築マンションで販売のスローダウンがみられる一方で、郊外部では販売好調物件が増え始めた。
東京都下、神奈川、埼玉、千葉で売れ行き好調の物件は、必ずしも駅に近いマンションに限らない。駅から離れても人気物件が生じているし、さほど広くなく、割安とはいえない物件でも人気になったりする。つまり、人気要素をパターン化しにくい。
それは、実需層(自分で住む目的でマンションを買う人たち)が動いている証拠だ。
投資目的の購入者は、資産性を重視してマンション選びをするので、同じような物件を狙いやすい。都心に近い、駅に近い、買い物しやすいといった便利な条件を備え、将来値下がりしにくい物件に人気が集中するわけだ。
これに対し、実需層は価格と住み心地重視なので、駅から離れた立地でも、価格が安く、スーパーマーケットや小中学校が近いなど生活しやすい条件があれば人気物件になる。
そして、どんな立地、どんな設備を好むかは人それぞれ。選択基準が均一ではないため、人気物件がパターン化しにくいのだ。
実需層は今住んでいる場所の近くでマンションを買う傾向も強いため、しばらく新規物件が出ていない場所で久しぶりに新築マンションが登場すると、多少価格が高くても人気になりやすい。それも、実需層が好んで購入するマンションの特徴となる。
購入層の変化で、不動産市況は“低成長”?
2013年以降、都心部を中心に便利な場所のマンションが勢いよく売れて、郊外で、駅から離れた場所の新築マンションは人気が下がった。不便な場所のマンションなど買うべきではない、という投資目線の意見に押されて、購入をためらった実需層が多かったからだ。
しかし、「駅から離れるが、住み心地のよいマンション」はコロナ禍をきっかけに再評価されるようになった。そして、都心マンションが大きく価格を上げたことで、郊外マンションは割安感が際立つ。
だから、今は郊外に建設される実需層向きマンションが人気を高めている。
そう考えて行くと、今は投資家が盛んにマンションを買う局面から、実需層が積極的にマンションを買う局面に変わってきた、ともいえる。
堅実にお金を貯めてマイホームを買おうとする実需層は、東日本大震災の後でも住宅購入計画を放棄することはなかった。
ロシアのウクライナ侵攻で世界的に不安が広がる現在も、実需層は堅実な計画を基にマンション購入に動く。
都心マンションが人気を集めた時代から、郊外マンションが主役になる時代が始まった、という側面もあるわけだ。
郊外マンションは、投機的な買い方をされないので、人気が高まっても価格の急上昇は起きない。一方、都心部では上昇が落ち着く。すると、これからの地価やマンション価格の平均値は「勢いよく上がる」とは言い切れない。
価格上昇は緩やかになる、もしくは首都圏新築マンションの平均値は横ばいか、下がる。それが、今後予想される順当な動きと考えられるのである。