Yahoo!ニュース

暑い季節に子供を水遊びさせる場が、マンションの中庭から消えて行く

櫻井幸雄住宅評論家
これからの季節、子供たちにとって水遊びは、この上ない楽しみになるのだが……。(写真:イメージマート)

 ゴールデンウィークの天気がよい日は、水遊びをする子供の姿を見かける機会が増える。

 安全に水遊びできる場所が公園内にあれば、一番の人気スポットだ。青空の下、小さな子供たちが歓声をあげながらはしゃいでいる姿は、見ているだけでも楽しくなる。

 同様に、水遊びできそうな場所が大規模マンションの中庭に設けられることが以前は多かった。よく見たのは「水盤」と呼ばれるもの。コンクリートや石でつくられた浅い池で、生息する生き物はいない水場だ。それとは別に、人工的な水の流れがつくられたこともある。

 いずれも、総戸数が200戸を超えるマンションで行われたこと。敷地が広く、費用を捻出しやすい大規模マンションならば、水盤や水の流れをつくることができた。

 「庭に水盤や水の流れがある暮らし」は、一戸建てではなかなか実現しにくい。よほどの大邸宅ではないと無理だろう。

 しかし、多くの人が集まって住む大規模マンションならば、実現させやすい。だから、水盤や水の流れは、大規模マンションの長所をわかりやすくアピールできる要素として、さかんに設置された時代があった。

 そんな水場があると、5月から9月にかけて、子供たちに水遊びをさせやすい。ゴールデンウィークにマンションの敷地内で水遊びができれば、手軽なレジャーとなって、親としてもありがたい……のだが、じつは首都圏のマンションで、現状「水遊びしていいですよ」と認められているところは滅多にない。

 湾岸エリアの大規模超高層マンションのなかには、最初からじゃぶじゃぶ池として企画された水場を備えるところがあり、そういうところでは水遊び可能な場所として残りやすいようだが、それは例外といえるもの。多くのマンションでは、管理規約により「水に入ってはいけません」と定めていることが広まっている。

 現実には、親が見守る中、小さな子供が水に足を付けるくらいは黙認されることもあるが、本当はダメなんですよ、と決まっている。

 それは、万が一の事故を考えてのことだ。

 マンションの敷地内に水場をつくるときは、「水深10センチでも、小さな子供は溺れることがある」と考えて、設計が行われる。

 水深を数センチにすれば、溺れる心配は減るのだが、それでも足を滑らせる危険はある。だから、結局は「(危険防止のため)水に入ってはいけません」と、管理規約で定められるケースが多くなってしまうのだ。

大阪のマンションでは水遊びOKが多かったが……

 一方、マンションに設けられた水盤や水の流れで、子供たちの遊ぶ姿をよくみかけるのが、近畿圏のマンション。大阪を中心にした近畿圏のマンションでは、「水遊び禁止」が少なかった。「少なかった」と過去形にしたのは、ここ数年で、事情が変わってきているからだ。

 これまで、大阪を中心にする近畿圏のマンションでは「子供が遊ぶ水場」が多かった。

 「水遊びOK」と打ち出しているわけではないが、「水遊び禁止」にもしない。水場があれば、暑い日は子供が水遊びをするだろう、との前提で、マンションの敷地内に水深が10センチ以上ある池を設けたり、人工の水の流れをつくる大規模マンションもあった。

 それらはとても魅力的。しかし、「水遊びをさせるのは危険」という声はでないのだろうか、と東京から大阪のマンションの取材に出向いた私は心配になった。

 不動産関係者にそのことを尋ねると、「大阪では、水遊び禁止にはしにくい」と言われた。「水遊びを禁止するなら、はじめから水場をつくるな」と言われるからで、なるほど大阪らしい考え方だと納得したものである。

 その「水遊びの場」は、今も楽しく活用されているのか。今回記事を書くにあたり、水盤や水の流れを設けていたマンションの事情を確認したところ、残念なことがわかった。

 中庭に小川のような流れを人工的につくったマンションで、今も子供たちが遊んでいることがわかった一方で、「水遊び禁止」になったケースがいくつかあることが判明したのだ。

 マンションでの生活が始まると、管理組合の話し合いで新たな決まりが設けられることがある。それまで、禁止になっていなかった水遊びを見直し、「危険がないとはいえないので、禁止したほうがよいでしょう」となれば、水遊びはできなくなる。

 子供の安全を第一に考えた結果となれば、それも仕方がない。危険なものを極力排除する時代の流れ、というべきか。

遊ぶことができない水場ならば……

 現在、新築されるマンションで水盤や水の流れはまったくといってよいほど見なくなった。

 水遊び禁止となるのであれば、はじめからつくる必要はないと考えられるようになったからだ。もちろん、水関係の施設は維持するための手間と費用がかかるという問題も大きい。

 手間と費用をかけても、住人が喜ぶ施設であれば、つくりたい。しかし、利用が禁止される可能性があるのなら、あえてつくる必要がなくなる。

 そして、既存の水場では水遊びを禁止するだけでなく、水が抜かれて水盤は平らな場所に、水の流れは乾いた溝になってしまうこともある。

 まさに、「だったら、はじめから水場をつくるな」と言われかねない状況である。

 ゴールデンウィークから夏にかけて、「マンション内に子供が水遊びできる水場があればよいのに」と願うママとパパは多いだろう。が、残念ながら、マンション敷地内で水遊びできる場所は、今後、減ることはあっても、増えることはなさそうなのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

今、マンション・一戸建ての評価は、高く売れるか、貸せるかの“投資”目線が中心になっていますが、自ら住む目的で購入する“実需”目線での住み心地評価も大切。さらに「建築作品」としての価値も重視される時代になっていきます。「高い」「安い」「広い」「狭い」「高級」「普通」だけでは知ることができない不動産物件の真価を、現場取材と関係者への聞き取りで採掘。不動産を扱うプロのためのレビューをお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

櫻井幸雄の最近の記事