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仮想通貨暴落 ソフトバンクGが回避できたワケ

山口健太ITジャーナリスト
SBGの決算説明会で語る後藤芳光CFO(ライブ配信より)

2022年に入って暗号資産(仮想通貨)市場は下落傾向が続いていますが、大手の取引所「FTX」の破綻を受けて相場は急落。ビットコインの価値は年初と比べて約3分の1に落ち込んでいます。

その混乱の中で、ソフトバンクグループ(SBG)はダメージを小さく抑えることに成功しています。そこには「抵抗勢力」の存在があったようです。

後藤CFOは「最大の抵抗勢力」

孫社長率いるSBGは、携帯事業会社「ソフトバンク」などの親会社であると同時に、有望なベンチャー企業に投資する投資会社として世界有数の規模になっています。

その投資先として注目されたのが、暗号資産取引所大手のFTXです。SBGが運営するビジョンファンドからの投資額は1億ドル弱(約140億円)と小さくはないものの、保有する株式の価値(約16.7兆円)と比べて、影響は極めて限定的としています。

昨今の市場環境から、ビジョンファンドはコロナ禍で積み上げた利益をすべて吐き出す事態に追い込まれていることはたしかですが、仮想通貨の影響は受けていないようです。

その内情について、CFOの後藤芳光氏は11月11日の決算説明会の質疑応答で、「SBGによる仮想通貨への投資は極めて小さい。ちなみに、私は仮想通貨投資の最大の抵抗勢力であり、その最先鋒だ」と語っています。

それではなぜFTXに投資したのか、ということになりますが、「AIに投資するのが(我々の)ビジョンであり、通貨への投資は異なる。ただ、ブロックチェーンのように技術革新につながるものはAIの将来にプラスになるという解釈で投資をしている。間接的なものを含めてもビジョンファンド全体の1.3%程度だ」(後藤氏)と説明しています。

最後に後藤氏は、「仮想通貨については今後も批判的に見ている」と念押ししていることから、今後も積極的に投資をすることはなさそうです。

過去の説明会で質疑応答に応じてきた孫社長も、仮想通貨に対して乗り気ではないコメントが目立っていました。その原因として考えられるのが、かつてビットコイン投資に失敗をした経験です。

約2年前の2020年11月にNew York Timesが開催したイベントにおいて、友人にビットコインをすすめられた孫社長は、個人資産の1%として2億ドル(当時のレートで210億円)程度を投資した経験を語っています。

ビットコインへの投資について語る孫社長(New York Timesのイベント動画より)
ビットコインへの投資について語る孫社長(New York Timesのイベント動画より)

その後、孫社長はビットコインの激しい値動きに困惑し、売却することで数千万ドル(数十億円)以上の損失を被ったとしています。

ただ、失った金額自体はあまり重要ではなく、孫社長は「理解できないものに気を取られるよりも、自分が情熱を持てるAIへの投資に集中したい」とのニュアンスを強調しています。

広くグループ全体を見渡すと、LINEのように仮想通貨やNFTに積極的な会社はあるものの、SBGとして仮想通貨に入れ込むことがなかったのは、こうした背景があったからといえそうです。

仮想通貨との距離の取り方に注目

市場の低迷にもかかわらず、その基盤となる技術への投資は続いています。NTTドコモは今後5〜6年で「Web3」分野に5000〜6000億円を投資することを発表し、大きなニュースになりました。

取引ツールとしては、楽天ウォレットが証拠金取引所サービスを開始。メルカリは2023年春にアプリからビットコインを購入できる機能を追加します。

ただ、最近では仮想通貨の値動きが株式市場と連動する場面が増えていること、また金利上昇により米ドルを高い利回りで運用できるようになるなど、資産形成における仮想通貨の魅力は下がってきていると筆者は感じています。

2022年のビットコイン/米ドルの週足チャート(TradingViewのWebサイトより)
2022年のビットコイン/米ドルの週足チャート(TradingViewのWebサイトより)

いよいよ米国でインフレと利上げのピークが見えてきた大事なタイミングでFTXの問題が起きたことで、市場全体に与える影響が懸念されています。今後は規制強化も予想される中、仮想通貨との「距離の取り方」が注目されそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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