今オフ引退の愛すべき韓国元代表選手 遠征先のホテルで日本人夫婦の部屋にちん入の過去
11月23日の本欄で長年韓国代表の二塁手として活躍したチョン・グンウ(38、LG)の現役引退を、元同僚の中日・門倉健コーチの思い出とともに紹介した。
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身長172cm(公称)の体をフルに使ってグラウンドを駆けまわる姿はまるで小動物。陽気な性格で誰からも愛される存在、それがチョン・グンウだった。
日本語で笑わせる高度なトークテクニック
先日の記事で門倉コーチが「打たれると日本語で『ダイジョウブダヨ』とか『ガンバリマショウ』と言ってくれる温かさがありました」と語っていたように、チョン・グンウは言葉を操るセンスに長けていた。
チョン・グンウがハンファに在籍していた2016年。高知で行われた春季キャンプでは、「世界一練習時間が長い」ことで知られるキム・ソングン監督(現ソフトバンク・コーチングアドバイザー)の下、密度の濃い練習が続けられていた。
一方で監督不在のサブグラウンドに流れていたのは緩やかな空気。その中心にいたのはチョン・グンウだった。
内野手の守備練習でチョン・グンウはイージーゴロをさばくたびに、居酒屋で耳にしたのか日本語で「ヘイ、イラッシャイマセ~」、「ハイ、モウイッチョウ」と声を響かせた。
延々と続くノック。守備コーチが韓国語で「練習時間あと5分」と言うと、チョン・グンウは守備位置で大きく手を振り、拒否する姿勢を見せてコーチに向かって大声でこう叫んだ。
「チガウ アト1プン! ハヤク オワラナイト センシュ ミンナ シンジャウ!」
その言葉に練習を補助する地元のアルバイトスタッフたちは、手にしたグラブを震わせながら笑いをこらえていた。チョン・グンウの周りはどんな時も明るかった。
試合後のホテル、日本人の部屋で「コンニチハ!」
チョン・グンウの愉快なキャラクターが招いた珍事もあった。
11年前の夏、筆者が企画しガイド役を務めた日本出発の韓国プロ野球観戦ツアーでの出来事。場所はツアー2日目、テグ球場でのサムスン-SK戦を観た後のホテルだ。
ツアー参加者の日本人夫婦が部屋に入ると、洗面所にタオルが一組しかなかった。すぐにフロントに電話しそのことを伝えた夫婦は、ホテルマンの到着を扉を開けて待つことにした。
しばらくして夫婦の部屋にやって来たのは、明らかにホテルマンではないTシャツ姿の男性。ズカズカとベッドルームに侵入してくる男性に夫婦があっけにとられていると、彼は間違って日本人の部屋に入ったと気づいたのか、とっさに「コンニチハ!」と言い残して飛び出して行った。
夫婦は突然のことに驚くと同時に、夫は妻にこう言った。「今のチョン・グンウだよ!」
夫婦の部屋を出て行った男性(チョン・グンウ)は隣の部屋へ。壁の向こうからは彼が失敗談を仲間に語ったのか、大きな笑い声が聞こえてきた。
ツアー一行が泊まったホテルには当時チョン・グンウが所属していたSKの選手たちも宿泊。夫婦の隣の部屋は選手がマッサージや治療を受けるトレーナーの部屋だった。チョン・グンウは日本人夫婦の部屋をトレーナー室と勘違いしたのだ。
この夫婦は韓国野球に詳しい方ではなかったが、チョン・グンウのことは知っていた。なぜなら前日に観戦したインチョンでのSK-トゥサン戦でチョン・グンウは2安打2打点と活躍。夫婦はチョン・グンウのユニフォームを買う程のファンになっていたからだ。
夫婦は少し迷いながらもチョン・グンウのユニフォームを手にし、隣室のドアをノック。すると夫婦はチョン・グンウとトレーナー陣に笑顔で室内に迎え入れられた。チョン・グンウは夫婦が差し出した背番号8のユニフォームに快くサインをし、束の間の語らいの時間を持った。
通算371盗塁の魅力にあふれた選手
ツアー一行が観戦したサムスン戦で、SKのチョン・グンウは4回表に二塁へシーズン43個目となる盗塁を決め、三塁走者となった2死満塁の場面でホームスチールに成功。さらに試合後はホテルで日本人夫婦の部屋を落とし入れる珍プレーでその日を締めくくった。
チョン・グンウはプロ16年間で歴代6位タイの通算371盗塁を記録。数々の大舞台で常に先の塁を奪う俊足を誇った。そして韓国国内のファンはもちろん、日本の人々のハートも盗む球界きっての魅力の持ち主でもあった。