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新型コロナ感染症:マスク「過信」に要注意という新研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)が終息をみせない。感染拡大の防止に効果があるとされているマスクだが、マスクをしていてもウイルスを感染させる危険性があるという論文が出た。

マスクは感染予防に効果があるのか

 一般で使用される不織布マスク(ふしょくふ)は、医療用のサージカルマスクとほぼ同じ効果があるとされる。だが、どちらもウイルスの大きさに対してフィルター能力が低く、感染しないための防護としてはあまり意味がないと考えられている(※1)。

 一方、ウイルスが含まれた飛沫を環境中へ出さない、感染者が他人に感染させない咳エチケット用としての効果はあるという意見も多い。

 マスクの効果についての議論は依然として続いている(※2)。WHO(世界保健機関)は、新型コロナ感染症に関してマスクの使用を推奨しないとアナウンスしているが、米国のCDC(疾病管理予防センター)は上記のような理由から感染拡大防止の観点からマスク推奨し始めた。

 新型コロナウイルスは、飛沫感染と接触感染で感染が広がっていくと考えられている。飛沫感染は、感染者がくしゃみや咳をした際、つばなどと一緒にウイルスが放出され、そのウイルスを他人が吸い込むことで感染する。また、接触感染は、つり革やドアノブなど感染者が接触した物を介してウイルスが感染していく。

 ウイルスは環境中でも生存し、大きな飛沫は落下する。だが、ウイルスを含んだ微粒子状のエアロゾルは空気中に長くとどまるとされ、高濃度の場合や換気が不十分な空間では長距離でもウイルスを拡散させる可能性がある。

 このため、入念で頻繁な手洗いやうがいはもちろん、社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)広く取り、室内ではウイルスを拡散させ、外へ出すために小まめに換気をすることが重要だ。

 新型コロナ感染症は、無症状の感染者から感染するリスクがあると考えられ、潜伏期間の長さもあって感染が拡大する背景になっている。そのため、大衆がマスクを着用することで無自覚の感染者のウイルス拡散を防ぐとされ、これまで懐疑的だった各国でもマスクの着用が推奨され始めた。

マスクをしていても咳エチケット

 では、感染者がマスクをしていれば、ウイルスはどれくらい出てきにくくなっているのだろう。

 韓国の蔚山大学医学部などの研究グループが、4月6日に米国内科学会の医学雑誌『Annals of Internal Medicine』に出した論文(※3)によれば、医療用のサージカルマスク(一般の不織布マスクとほぼ同等の効果)と布(綿ガーゼ)マスクが新型コロナウイルスをどれだけ透過させないか調べたところ、ほとんどフィルター効果がなかったことがわかったという。

 同研究グループは、新型コロナ感染症の患者4人の同意を得て、隠圧隔離室の中で使い捨てサージカルマスクと布マスクを着用してもらい、患者の口から約20センチのところにウイルス培養用シャーレを置き、そのシャーレに向かってマスクありなしで5回、咳をしてもらった。

 結果は、サージカルマスクも布マスクもどちらも、新型コロナウイルスを効果的にフィルタリングしなかったという。

 2002年から2004年まで流行したSARSウイルス(SARS-CoV)の粒径は0.08〜0.14マイクロメートルと推定され、新型コロナウイルスが同じサイズと仮定すれば、サージカルマスクや布マスクのフィルター機能を容易に貫通できる。

 また、同研究グループは、咳をした後のマスクの内側より外側にウイルスが多かったことに注目している。

 これは、マスクのフィルターをウイルスが通過した際に何らかの物理的な現象が起きているか、あるいはマスクの端から漏れ出るウイルスが外側に付着することを意味し、マスクの外側を触ることの危険性を示していると述べている。

 今回の研究結果により、不織布マスクや布マスクを着用していれば、無自覚の感染者による感染拡大を防ぐという効果に疑問が出たことになる。

 もちろん、咳やくしゃみによる大きな飛沫はマスクによってフィルタリングされる。だが、マスクをしていてもウイルスはマスクを通って環境中へ出て行く危険性がある。ちなみに、この研究では医療従事者が使用する防護機能の高いN95マスクは検証していない。

 これは当然だが、マスクをしていても咳やくしゃみは下や横を向いてしたほうがいい。マスクを過信せず、不要不急の外出をせずに社会的距離を保ち、手洗いとうがい、換気によって可能な限り新型コロナウイルスを避けることが重要だろう。

※1-1:C Raina Maclntyre, et al., "A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workes." BMJ Open, Vol.5, e006577, 2015

※1-2:C Raina Maclntyre, Abrar Ahmad Chughtai, ".Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings." BMJ, Vol.350, h694, 2015

※2-1:Shuo Feng, et al., "Rational use of face masks in the COVID-19 pandemic." THE LANCET Respiratory Medicine, doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30134-X, March, 20, 2020

※2-2:Nancy H. Leung, et al., "Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks." nature medicine, doi.org/10.1038/s41591-020-0843-2, April, 4, 2020

※3:Seongman Bae, et al., "Effectiveness of Surgical and Cotton Masks in Blocking SARS-CoV-2: A Controlled Comparison in 4 Patients." Annals of Internal Medicine, DOI: 10.7326/M20-1342, April, 6, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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