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デイヴ・ロンバードが叩き出すデッド・クロスの爆裂ビート、スレイヤー解散について

山崎智之音楽ライター
Dave Lombardo(写真:REX/アフロ)

殺傷力をさらに高めてハードコア・スーパーグループ、デッド・クロスが復活。第2弾アルバム『デッド・クロスII』を発表した。

フェイス・ノー・モアを筆頭に数多くのバンドで時にメロディック、時にエキセントリックなヴォーカルを聴かせるマイク・パットン、スレイヤーで爆裂ビートを叩き出してきたドラマーのデイヴ・ロンバード、リトックス(RETOX)のギタリストであるマイケル・クレインとベーシストのジャスティン・ピアスンの4人の暴虐性がせめぎ合うサウンドは、さらに刺激的で起伏に富んだものとなっている。

『デッド・クロスII』でも地球の底が抜けるドラミングを聴かせるデイヴは、アルバムの制作を“戦い”と表現する。クレインの癌治療〜コロナ感染、パットンの精神疾患とのバトルに4人が勝利を収めるまでの“戦記”をデイヴに語ってもらおう。

Dead Cross『Dead Cross』ジャケット(BIG NOTHING/現在発売中)
Dead Cross『Dead Cross』ジャケット(BIG NOTHING/現在発売中)

<マイク・パットンはステージダイヴするのと同じ感覚で、予告なしで飛び込んでいく>

●2017年8月、デッド・クロスがファースト・アルバム『デッド・クロス』を出したとき、私はロサンゼルスの“エル・レイ・シアター”でのライヴに行ったのですが、オープニング・アクトのシークレット・チーフス3の出番が終わった後にあなたがステージに上がって「マイク・パットンがケガをした」と言って、延期になってしまいました。その翌日に振り替え公演が行われましたが、私は日本に戻らねばならず、あなた達のライヴを見ることが出来なかったのです。

OH NO!それはテリブルだ。残念だったね。パットンはライヴ会場の近所に住んでいて、スケートボードで転倒して、顎をひどく打ち付けたんだ。数針縫う怪我だったけど、翌日の振り替え公演ではステージダイヴしていたよ。バンドはみんな「おい、マジかよ」って呆れていた(苦笑)。

●1枚目のアルバムを発表してからマイケル・クレインが癌を患い、新型コロナウイルスに感染して、マイク・パットンが精神疾患を抱えるなどしてきましたが、現在はどんな状態でしょうか?

2人とも元気だよ。クレインは100%の状態だし、パットンも順調に回復している。2人とも強い人間だし、きっと問題を乗り越えていけると信じているよ。俺も友人として、協力は惜しまないつもりだ。もちろんJ.P.(=ジャスティン)も俺も元気だ。パットンとは12月にミスター・バングルの南米ツアーに行くんだよ。本来なら大事を取ってカリフォルニアの近所で1、2公演やってから海外に行った方が良いのかも知れないけど、そこはパットンだからね(笑)。ステージダイヴするのと同じ感覚で、いきなり予告なしで飛び込んでいくんだ。南米で7、8回のショーをやる予定だ。最後にミスター・バングルのショーをやったのは2020年2月、ロックダウン直前だったんだから、また一緒に出来て嬉しいよ。

●マイケル・クレインの病気はアルバム制作にどのような影響を及ぼしましたか?

ファースト・アルバム『デッド・クロス』と『Dead Cross EP』(2018)を出して、このバンドにすごい手応えを感じたんだ。出来るだけ早く2枚目のアルバムを作ろうという話になった。それで2019年の4月だか5月にクレインと俺の2人で集まって曲を書き始めて、それにJ.P.も合流したんだ。クレインに癌のことを明かされたのは7月だった。彼は病院から直でスタジオに乗り付けて、教えてくれたんだ。首の左側に瘤のようなものがあって、それが扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)だった。J.P.と俺は最初に教えてもらったけど、正直ショックだったよ。

●クレインの病気は『デッド・クロスII』の音楽にどのように影響を与えたでしょうか?

俺が最初に彼に言ったのは「きっと打ち勝つことが出来る。お前は強いし健康だ」ということだった。彼はニッコリ笑って、このアルバムを完成させたいと言ってきたんだ。とにかく全員が一丸となって、ポジティヴであり続けた。クレインにとっては音楽に集中したことで、前向きな意識を保つことが出来たんだ。ただ、治療は決して楽ではなく、化学療法のせいで体調が悪くてリハーサルに来れないときもあった。レコーディング中にも味覚がおかしくなっていて、何も食べられない時期があったんだ。それでも俺たちはアルバムを完成させることが出来た。この過程でバンドの絆が強くなった。彼が仲間であり友人であることを誇りに思うし、『デッド・クロスII』はその絆の産物だ。

●『デッド・クロスII』の音楽はコロナ禍の前にレコーディングされていたのですね?

ヴォーカル以外はね。俺のドラム・トラックは2019年12月に録った。ギターとベースは年が明けた2020年の1月から2月にかけてレコーディングしたんだ。それをパットンに送って、彼のホーム・スタジオでヴォーカルを録った。ちょうどロックダウンに入った頃で、彼はいろんなプロジェクトに関わっていて、アルコールの問題もあったし、広場恐怖症も抱えていた。コロナ禍では誰もが多かれ少なかれ対人恐怖症になったと思うけど、彼の場合はそれが医者に診てもらう必要のあるレベルに達していたんだ。クレインにとってもパットンにとっても、このアルバムは“戦い”だった。

●『デッド・クロスII』は前作同様ブルータルでエクストリームでありながら、より多彩なアプローチが取られています。「ワイプ・アウト」風のビートを取り入れた“スラッシュ・サーフ”と呼ぶべき「アンツ・アンド・ドラゴンズ」、AC/DCの「ロック魂」を彷彿とさせる「ナイトクラブ・カナリー」、スレイヤーの「エンジェル・オブ・デス」に通じる「レイン・オブ・エラー」など、さまざまなスタイルの曲が収録されていますが、どのようなアルバムを作ろうとしたのですか?

デッド・クロスの音楽性は、メンバー4人の音楽的経験の集大成なんだ。ファースト・アルバムを作って、ツアーもやったことで、全員の個性が融け合ってひとつのスタイルを形作ったと思う。俺はフェイス・ノー・モアのファンだし、クレインとJ.P.がやっていたリトックスも大好きだ。ファントマズがザ・ローカストとツアーしたこともあったし、いろんな繋がりがあって、お互いからインスピレーションを受けてきたんだよ。バンドとして成長して、前作は29分だったけど、今回は表現の幅が拡がって、肉付けをしたことで、より長い時間が必要になった。それで少し長くなったんだ。それでも32分ぐらいだけどね(笑)。そのおかげで、ハードコアであっても味わいと起伏のあるアルバムになったと思う。スローなビートも取り入れているし、パットンのヴォーカルはハードコアだけではなく、フェイス・ノー・モアに通じる要素もある。彼の独特なメロディのセンスが前作以上に表れているよ。

●「レイン・オブ・エラー」と「エンジェル・オブ・デス」には接点があるといえるでしょうか?

うーん...俺は接点があると思わないけど、そう感じる人がいれば、その意見は尊重するよ。まあどちらも俺がドラムスを叩いているし、バンド全員がああいうタイプの曲が大好きだから、共通する部分があるのかもね。

●デッド・クロスではどのように曲を書いていますか?

まずクレインと俺で数日間ジャムをやるんだ。俺たちはデモ・バンドではないし、事前に準備をすることはない。ドラム・ビートやギター・リフのだいたい95%がインプロヴィゼーションだよ。それを録音しておいて、ある程度アイディアが固まってきたところでJ.P.が入ってくるんだ。さらに楽曲の形にして、プロデューサーのロス・ロビンソンとスタジオに入る。彼が「このパートは長くした方がいい」「このビートは別のものに置き換えてみよう」とか提案して、レコーディングしたラフ・ミックスのトラックをパットンに送るんだ。

●ロス・ロビンソンはKoЯnやスリップノット、セパルトゥラなどとの作業でも知られているプロデューサーですが、彼とはいつから交流がありますか?

2013年だったか、『House Of Shock』という映画のサウンドトラックで一緒にやる筈だったけど、結局実現しなかったんだ。その後、ある日ロスから携帯に電話があって、「今セパルトゥラのレコーディングをしているんだ。遊びにおいでよ」と呼ばれた。それでヴェニス・ビーチの彼の家に行って、ドラマーのエロイ・カサグランデとドラム・ジャムをやったんだ。それが「オブセスド」という曲でフィーチュアされているよ(『ザ・メディエーター・ビトウィーン・ヘッド・アンド・ハンズ・マスト・ビー・ザ・ハート』/2013収録)。デッド・クロスのアルバムは2枚ともロスがプロデュースしているんだ。彼は音楽的なアイディアが豊富で、的確なアドバイスをしてくれる。俺の他のバンドでも一緒にやってみたいね。

●ザ・ローカスト〜リトックスのドラマーで前作にゲスト参加もしていたゲイブ・サービアンは2022年4月30日に亡くなりましたが、彼とどんな思い出がありますか?

ゲイブは俺のプレイのファンだったし、俺は彼のプレイのファンだった。彼のスタイルからは影響とインスピレーションを受けたね。ザ・ローカストの『プレイグ・サウンドスケイプス』(2003)や『Safety Second, Body Last』(2005)でのゲイブのドラムスは最高だった。キャトル・ディキャピテイションでのプレイも凄かった。彼はデッド・クロスの初代ヴォーカリストだったんだ。彼が家族との時間を大事にしたいと脱退したことで、パットンに声をかけたんだよ。...最近ザ・マーズ・ヴォルタがライヴで何かの曲をゲイブに捧げたと聞いた。彼は音楽シーンにおいて輝ける星であり、クールな人間、そして友人だった。彼が自らの死を選んだのは、とても悲しいし寂しいね。

Dead Cross / courtesy of Big Nothing (Dave Lombardo 2nd from right)
Dead Cross / courtesy of Big Nothing (Dave Lombardo 2nd from right)

<俺たちメタルヘッズはとてつもないビッグ・ファミリーだ>

●あなたはデッド・クロス以外では最近どんなプロジェクトに関わってきましたか?

ミスター・バングルの『ザ・レイジング・ラス・オブ・ジ・イースター・バニー・デモ』(2020)とアナイアレイターの『メタルII』(2021)のレコーディングに参加した。それと映画『サンダーフォース 〜正義のスーパーヒロインズ〜』(2021)の主題歌でスコット・イアン、コリー・テイラー、リジー・ヘイルと共演したよ。

●今後の活動について教えて下さい。

とりあえず決まっているのは12月、ミスター・バングルでの南米ツアーだけど、2023年にはデッド・クロスとしてもワールド・ツアーをやりたいね。でももちろんパットンの状態によるし、まず南米ツアーで様子を見るよ。彼とはデッド・クロス、ミスター・バングル、ファントマズと3つのバンドで一緒にやっていて、ライヴをやるのは楽しいけど、過剰にプレッシャーをかけたくないし、一歩一歩ゆっくり進んでいけばいいと思う。俺は楽観主義者なんだ。“コップが半分空になってしまった”と嘆くよりも、“コップにはまだ半分入っている”と希望を持つタイプだよ。

●あなたがかつて在籍したスレイヤーは2019年にリタイアしましたが、あなたのファンは現在でもあなたに誰よりもエクストリームでブルータルであることを求めます。ファンからの期待を重荷に感じることはありますか?

それはないな。今のところ俺の筋肉も骨もパーフェクトな状態だし、老体にムチ打ってやっているわけではない。音楽に刺激を感じて、ポジティヴな姿勢でいるよ。ファンが俺に期待をかけてくれるとしたら、最高に嬉しい。決して重荷には感じない。コロナ禍でライヴ活動がままならなかったことで、自分の音楽を愛してくれて、応援してもらえることがいかに素晴らしいか再認識したんだ。これからも体力が続く限りプレイし続けたいね。もちろんハードコアな音楽は続けるけど、ソフトなドラム・プレイをするアルバムを出すんだ。音楽的にもメロウで、夢を見るようなサウンドだ。ブラシでプレイするし、エクストリームにぶっ叩く俺しか知らない人は驚くんじゃないかな。2023年2月にリリースする予定で、すごくエキサイトしている。まだバンド名は明かせないけど、J.P.の“スリー・ワンG”レーベルから出るんだ。基本的にパンク・レーベルだから「えっ、いいの?」と訊いたぐらいだけど、「うん、出したいんだ」と言ってくれたよ(笑)。

●あなたは元スレイヤーの一員だったのに加えて、セパルトゥラやアナイアレイター、テスタメント、そして元メガデスのデイヴ・エレフソンのアルバムに参加、ミスター・バングルではアンスラックスのスコット・イアンと共演、メタリカのライヴに助っ人参加するなど“スラッシュ・メタル”のミュージシャンとの交流が深いですが、彼らとの連帯感はありますか?

今年の春から夏にかけてテスタメントに参加して、エクソダス、デス・エンジェルと“ベイ・エリア・ストライクス・バック”ツアーをやったんだ。俺たちのあいだには連帯と友情、そしてお互いへのリスペクトがある。もう40年間、音楽に人生を捧げてきた仲間なんだ。彼らの多くは、自分の嫁より前から知っている。そんな連帯は、ファンについても言えることだ。俺たちがロサンゼルスの小さく汚いクラブでやっていた頃からライヴに来ていた人たちが、今でも見に来てくれる。ボロボロの『ショウ・ノー・マーシー』のLPにサインして欲しいと言われたりするんだ。俺たちメタルヘッズはとてつもないビッグ・ファミリーなんだよ。

●スイサイダル・テンデンシーズやミスフィッツのドラマーとしてもライヴも行うなど、あらゆるバンドと共演してきたあなたですが、古巣スレイヤーの2019年11月30日、“イングルウッド・フォーラム”でのラスト・ライヴには参加しませんでしたね。

うん、特に参加してくれとも頼まれなかったからね。かつてのメンバーとして、あのバンドがどれだけハードにツアーしてきたか知っているし、ゆっくり休む権利があると思う。彼らが隠居生活を楽しんでいることを願っているよ。ただ俺にはリタイアなんて出来ない。音楽があまりに大好きだからね。ザ・ローリング・ストーンズやデヴィッド・ボウイ、レミーを見てみなよ。彼らは最後の瞬間まで、音楽に人生を捧げていた。スレイヤーのみんなを批判するわけではない。ただ自分にはそれが出来ないということだ。80歳、90歳になっても、身体が動く限りドラムスを叩き続けるし、命が尽きるその瞬間まで音楽に関わり続けるよ。

【2017年の記事】

【インタビュー】ハードコア・スーパーグループ、デッド・クロスが突き立てる“死の十字架”

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20170825-00074949

【日本レコード会社公式サイト】

BIG NOTHING / DEAD CROSS

http://bignothing.net/deadcross.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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