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ケンタッキーダービーで日本馬史上初の3着を受けて「拝啓、世界のヤハギ殿」

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
ケンタッキーダービーで3着だったフォーエバーヤング(赤帽)

強いと思っても印を打てない馬もいる

 またしても“世界のヤハギ”に感服させられた。
 勿論、ケンタッキーダービー(GⅠ)におけるフォーエバーヤングの話である。
 現地時間5月4日、日本時間同5日早朝、アメリカのケンタッキー州にあるチャーチルダウンズ競馬場で行われた第150回ケンタッキーダービー(GⅠ)。「スポーツの中で最も偉大な2分間」と称され、北米競馬最大のイベントであるこのレースは、今年、フルゲートの20頭が覇を競った。うち日本馬は2頭。先出のフォーエバーヤング(牡3歳、栗東・矢作芳人厩舎)とテーオーパスワード(牡3歳、栗東・高柳大輔厩舎)で、それぞれ3、5着と健闘した。

ケンタッキーダービーはテーオーパスワード(1番左)が5着、フォーエバーヤング(右から2頭目)が3着に健闘した
ケンタッキーダービーはテーオーパスワード(1番左)が5着、フォーエバーヤング(右から2頭目)が3着に健闘した


 私はグリーンチャンネルや新聞紙上で海外競馬の予想を発表しているが、今回、この両頭は無印だった。少々言い訳めいて聞こえるかもしれないが、予想の印は強い馬、もしくは強いと思われる馬の順に打つわけではない。個人的には適正オッズというか、過小評価されていると思える馬を狙うようにしている。つまり「“こちら”の馬の方が強いと思っても、オッズ的に“あちら”の方に妙味を感じるなら“あちら”に◎を打つ」のだ。
 例えばディープインパクトのような馬は誰が見ても強いのは明らかで、◎を打っておけば当たる確率は高くなるが、毎度1・1倍とか1・2倍のオッズでは、1度負けたらそれまでの儲けが全て吹き飛ぶ。いや、それどころか1回のハズれで赤字になりかねない。実際に有馬記念ではハーツクライに敗れた事で、痛い目にあった本命党の方は多いのではないだろうか? 私のスタンスだとディープインパクトに◎は打ち辛いというわけだ。

ケンタッキーダービーに挑戦したフォーエバーヤング(右)とテーオーパスワード
ケンタッキーダービーに挑戦したフォーエバーヤング(右)とテーオーパスワード

 こういう観点でみると、JRAプールで発売される馬券を予想する上で、日本馬にはほとんど妙味がなくなる。いわゆる「応援馬券」といった類の投票がなされ、軒並み日本馬のオッズは低くなりがちだからだ。
 実際にここまでJRAが発売した海外馬券で、私は丁度100レース、新聞で予想を公開したが、そのうち日本馬に◎を打ったのは1度だけ。加えて言えば1番人気馬を本命にした(というか本命が1番人気だった)のも25レースだから丁度4分の1だが、半分近い47レースを的中している。手前味噌にはなるが、悪くない数字だと思う。

最上段が平松さとしの予想。日本馬をなくなく無印にしたが、1着から4着まで印通りに決着した
最上段が平松さとしの予想。日本馬をなくなく無印にしたが、1着から4着まで印通りに決着した

 更に、今回のケンタッキーダービーの予想紙面では、次のようにも記した。
――日本馬は、6着したマスターフェンサーや超ハイペースを先行したクラウンプライドを物差しにすれば⑩テーオーパスワードも⑪フォーエバーヤングも通用する――
 また、個人的見解として、事ある毎に“中距離は日本馬最強論”を記している。最新の記事では「ウシュバテソーロにパンサラッサやマルシュロレーヌ等、ダート界もやはり2000メートル前後での活躍が目立つ」と書いている。
 それでも、今回、印を打てなかったのは、当方の頭の固さにほかならない。UAEダービーはメンデルスゾーンのような強い勝ち方をしても、通用しなかった(20着)。ダートの質があまりに違い過ぎる。流れや頭数が今までとは違う。などなど……。
 しかし、これらはいずれも過去のデータを照らし合わせているだけなのだから、そのまま踏襲すれば厳しくなるのは当然である。ここでもう一歩進んで「今まではこうだったが、今回は」と展開出来ないのは、冒頭に記した「JRAプールでは日本馬のオッズに妙味を感じない」という考えが根底にあるからにほかならない。

パンサラッサでサウジCを勝利した際の矢作芳人調教師。パンサラッサは日本国内でのGⅠ勝ちこそないが、海外では中距離GⅠを2勝した
パンサラッサでサウジCを勝利した際の矢作芳人調教師。パンサラッサは日本国内でのGⅠ勝ちこそないが、海外では中距離GⅠを2勝した

拝啓「世界のヤハギ殿」

 もし“世界のヤハギ”が私のような考えの持ち主だったら、マルシュロレーヌの奇跡もパンサラッサの快挙も、そして今回のフォーエバーヤングの偉業も、達成はされなかった事だろう。いやいや、誰かさんみたいに机上の計算ではなく、幾度とない実践を重ねて来た伯楽にとっては奇跡でも快挙でもないのだろう。まして、3着で偉業とは思っていない事だろう。レース後の「悔しいです」「申し訳ないです」という発言からもそれは火を見るよりも明らかである。
 厳しい戦いが通常営業の海外挑戦だが、好結果が出ない時には当然、責任を負わなければいけないのが調教師だ。そういうリスクは誰よりも知っている立場で、これだけ多く海の向こうへ挑めるのは、勝算と自信があるからなのだろう。これからも予想的にはまた痛い目にあわせてほしいものである(笑)。いやいや、それでは予想を信じてくださるファンに失礼だ。矢作調教師に笑われないように、能力をもっと正しく判別出来るよう改めて努めていく事を誓おう。このように毎回、勉強させてくれる伯楽の挑戦を、今後も見続けていきたいものである。

*なお、予想の考え方は人それぞれであり正解はないと思うので、私のスタイルが必ずしも正しいと言い張る気はありません

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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