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盛岡で横山武史がみせた神対応。彼の真摯な態度を裏切らないでほしい

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
マーキュリーCでクラウンプライドに騎乗した横山武史騎手

代打騎乗で見事に勝利

 7月15日、盛岡競馬場で行われたマーキュリーC(JpnⅢ)を2番人気のクラウンプライド(牡5歳、栗東・新谷功一厩舎)が勝利。騎乗したジョッキーは横山武史だった。
 「まだ完調という感じではなくて、最後に詰め寄られたけど、高い能力と根性で我慢してくれました」
 早目先頭からギリギリ押し切った競馬ぶりについて、鞍上はそう述懐すると、更に続けた。

マーキュリーCを制したクラウンプライドと横山武史騎手
マーキュリーCを制したクラウンプライドと横山武史騎手


 「今回は乗り替わりでしたけど、人気に推される馬で結果を出せて良かったです」
 最近では同馬の主戦となっていた川田将雅が「体のメンテナンス」という理由で休養中。代打でタイムリーヒットを放った横山武史は安堵の表情でそう語った。
 前日には函館競馬場で騎乗。6週間に及ぶ開催で、13勝を挙げ、開催リーディングに輝いた。それを手土産に、マーキュリーC当日、盛岡へ移動。1レースに騎乗して勝利した後、函館へとんぼ返りしたわけだが、競馬場を発つ直前に面白い光景に立ち会えた。

マーキュリーC前日には函館リーディングを獲得し、表彰された
マーキュリーC前日には函館リーディングを獲得し、表彰された

レース後に見せた神対応

 クラウンプライドやその関係者とのウィナーズピクチャーを撮影し、パドックでの表彰式も終えた後の事だ。パドックを囲むように集まったファンからの要望に応え、横山武史騎手がサインに応じた。それだけならよくある光景かもしれないが、その対応の仕方が、いわゆる“神対応”というものだった。
 函館へ戻る新幹線の時間が迫る中「今、何時ですか?」と何回か繰り返して聞きながら、ギリギリまでサインをし続けた。パドックとファンエリアの間には垣根があったのだが、その中に入り込み、文字通り“垣根を越えて”ファンと交流した。色紙だけでなく、着ているTシャツや手にしたスマホ、中には何も用意してこなかったのか馬券購入用のマークシートを差し出すファンもいたが、嫌な顔1つせず全てペンを走らせた。握手やハイファイブを求めるファンにも対応していた。
 数十人に対しサインをし、そろそろ残りの人数が見えてくる頃になると「もう大丈夫ですか?」「サイン大まだの人はいませんか?」と声をかけながら対応していた。
 ファンサービスを生業とする全て人の鑑といえる行動。オーロパークに集まったファンの多くは、JRAのジョッキーから直々にサインをもらえる機会はそうそうないはずで、彼らの間にはあっという間に笑顔の花が咲いた。

文字通り「垣根を越えて」ファンにサインをし続けた横山武史騎手
文字通り「垣根を越えて」ファンにサインをし続けた横山武史騎手

真摯な態度を裏切らないで

 集まった全て人へのサインを書き終えると「ありがとうございました」と言って両手を上げながら、走ってジョッキールームへ消えて行った。そして、ジョッキールームへ行くと「シャワーを浴びる時間がなくなっちゃったかな?」と言いながら急いで道具をバッグに詰め込んだ。それが終わると「じゃ、失礼します!平松さんも気をつけて帰ってください!」と言いながら、また駆け足で去って行った。
 ごくごく一部の人が、サインをオークションサイトへ出すような行為をするようだが、こういった真摯な態度を裏切るような真似はしてほしくない、と当事者に代わって思った。そして、走り去る若きGⅠジョッキーの後ろ姿を見守りながら、日本の競馬の未来は明るいな、と感じた。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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