香港と距離を置く米テック企業 ChatGPTも利用制限 ついに「金盾」の内側か
米国のテクノロジー大手が、香港のインターネットユーザーを徐々に締め出していると、米ウォール・ストリート・ジャーナルや米CNBCが報じている。ネット上の抗議活動に対する当局の取り締まりの対象が、市民からグーグルなどの米企業に移っていることが背景にある。
グーグルや米オープンAI、米マイクロソフト(MS)はいずれも、香港で対話AI(人工知能)サービスへのアクセスを制限している。
いずれもその理由を明らかにしていないが、2020年6月に中国政府主導で施行された「香港国家安全維持法(国安法)」の影響があるとみられている。
オープンAIの「Chat(チャット)GPT」のような対話AIは、国安法に違反するコンテンツを生成する恐れがあり、サービス提供企業は同法に基づく政府批判の罪に問われる可能性がある。
当局、「香港に栄光あれ」削除命令を要求
香港の司法当局は23年6月6日、19年の大規模デモの際に歌われた「香港に栄光あれ」の放送や配信などを禁止するよう香港高等法院(高裁)に申請した。
歌唱や演奏、ネット配信、印刷、販売などあらゆる行為の禁止を求めており、グーグル傘下の「YouTube」で公開されている32本の動画もその対象にした。
裁判所は23年6月12日、当局側の主張を聴くなど審理を始めた。当局は、この曲の歌詞には分離独立を主張するスローガンが含まれていると述べている。
ディズニーは一部動画配信せず
米企業は徐々に香港を中国本土の都市のように扱い始めているが、今回の禁止命令の申請は、その動きを加速させるものだと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
同紙によれば、米ウォルト・ディズニーは動画配信サービス「Disney+」で、アニメシリーズ「ザ・シンプソンズ」の2つのエピソードを配信しないことを決めた。これらの作品は、新疆ウイグル自治区などでの強制労働や1989年の天安門事件に言及しているという。
CNBCなどによると、米アップルは22年末に香港でウェブブラウザーのプライバシーポリシーを変更した。このとき同社は、不審なウェブサイトを利用者に警告するための技術に中国ネット大手、騰訊控股(テンセント)の技術を使う可能性があると述べた。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、それ以降、SNS(交流サイト)「Mastodon(マストドン)」など、西側企業のサービスが時折遮断された。
「金盾」ないが、企業はサービス提供せず
FacebookやTwitter、Google検索、YouTubeなどは、中国本土での利用が禁止されていたり、中国政府による検閲を嫌い、自主的に撤退したりしている。中国本土には「グレート・ファイアウオール(金盾)」と呼ばれるインターネット検閲システムがあり、ネット上の情報を24時間体制で監視している。
香港のインターネットはこれまでほとんど規制されていなかった。とりわけ国安法が施行される前は、米国のネット企業が自由にサービスを展開し、香港市民もこれらサービスで政治的な意見を述べたり、抗議活動への支持を表明したりしていた。
しかし、ここ最近の当局の動きにより、香港のインターネットは中国本土の状況に近づいてきたと懸念されている。香港に拠点を置くデータ解析会社メジャラブルAIの共同創業者ヒーザム・フアン氏は、「香港にはまだグレート・ファイアウオールはない。だが企業はサービスを提供していない」とし、「悲しい話だ」と述べた。
香港は長年にわたり国際ビジネスの中心地として、自由な情報の流れが許されてきたが、政府の最近の動きにより、その将来は不確実になっていると、CNBCは報じている。
在香港米国商工会議所が23年3月に公表した調査結果によると、「今後3年間にわたり、香港はグローバルインターネットと情報プラットフォームへの自由なアクセスを維持できるか」、という質問に対し「楽観的」または「非常に楽観的」と答えた人は4割弱にとどまった。
筆者からの補足コメント:
筆者からの補足です。香港の国安法に関する話題が久しぶりにありましたので、今回記事にしました。国安法施行当時は、グーグルやフェイスブック(現メタ)、ツイッター(現X社)などが、当局への利用者情報の提供要請を拒否したなどというニュースがありましたが、あれから3年、言論の自由を巡る環境は改善されていないようです。人口750万人の香港は世界で最もインターネット利用比率が高い地域の1つ。ネット人口は91%に上り、 16〜64歳のネット利用者の98%が日々、SNSを使って交流していると、当時報じられていましたが、その後、民主活動家らの相次ぐ逮捕を受け、多くの人はSNSを使わなくなったともいわれています。利用を続けている人は投稿を自身で検閲しているといいます。人口750万人は、利用者規模では小さな市場ですが、グローバル企業はその自由な情報の流れを理由に、ここに拠点を構えています。しかし、最近は中国政府からの厳しい締め付けを背景に、シンガポールなどへの移転を検討する企業が増えているとも伝えられています。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年6月16日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)