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統一選のハイライト道府県議選で4分の1が無投票当選。定数をさして増やしもせず削減傾向なのになぜだ

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
無投票が決まるとここに「選挙はありません」と掲載される(写真:イメージマート)

 統一地方選挙の投開票日は今月9日(前半)と23日(後半)。前半は9知事と41道府県議会議員などを、後半は政令指定都市(前半)以外の市町村などの議員と「長」の選挙が行われます。

 とはいえ戦後第1回(1947年)では100%であった「統一率」が今や3割を割り込んでいます。そのなかで都道府県議会議員選挙は8割超えと善戦。最も統一選らしさを残しているのですが、そこでさえ近年の課題である候補者不足が発生しています。3月31日の告示(選挙戦スタート)の段階で実に総定数の4分の1が立候補者が各選挙区定数以内に収まって無投票当選が決まってしまいました。統一選前半のハイライトであるはずの道府県議選に何が起こっているのでしょうか。

統一率が高い理由は

 都道府県や市長村および東京23区は首長(知事と市区町村長)と議会議員を別の選挙で住民が直接選ぶ二元代表制。大統領制に似ています。地域のことは地域で決める住民自治がうたわれ、実現させる代表的な制度でもあるのです。

 統一率の低下は、まず首長は1人だから何らかの理由で任期途中で欠けると速やかに後継を決める選挙が行われ、そこから原則として任期4年が始まるためズレが生じます。議会のうち市町村が統一から外れていった最大の理由はバラバラになされた合併です。

 その点で都道府県議会は滅多に解散せず、戦後1度も合併していないため統一率が高く維持されてきました。解散によって外れたのが東京都と茨城県。沖縄県は本土復帰して選挙があった72年が統一選の年ではなかったため最初から加わっていません。

 岩手、宮城、福島の3県は統一選直前の2011年3月11日に東日本大震災が発生して延期され、そのまま時期が踏襲されているため外れているのです。

「増やしすぎを抱えているからなり手が不足する」という事実は存在しない

 上記1都5県を除く41道府県は統一選で議会議員を選びます。「統一」する主目的の1つである「できるだけ集中させて関心を高める」がかろうじて維持できそうな環境にあるはずなのになぜ4分の1が候補者不足で無投票当選と低調なのでしょうか。

 日本の総人口のピークは2008年で有権者数のそれは16年。有権者の減少が影響し出すのは前回(19年)統一選からなので直接の原因ではなさそう。

 反対に戦後最初の統一選での有権者はピーク時の半分以下となっています。

 では都道府県議会議員数の合計はどう推移したでしょうか(※注)。最大が1990年代の約2900人で最小が戦後第1回の2495人。直近も2500人台です。最小と最大の差は約1.18倍。沖縄県議数を除いても約1.16。有権者数が2倍以上増加したのを勘案すると意外と増やしていません。むしろ近年はピーク時より340人以上削減している計算です。

 つまり人口(≒有権者)増に比例して定数もビシバシ増やしてもいないし、むしろ今世紀に入ってから緩やかに削減しています。ゆえに「増やしすぎたのを抱えているから候補者が不足する」という事実は存在しないのです。

 議員報酬も市長村だと「生活できない」ほどに安いところがある半面で都道府県議は月額約75万円以上と悪くありません。ゆえに立候補をためらう理由ではなさそう。

「1人区」が増える訳と選挙戦になりにくい事情

 日本全国の人口や有権者の数は自然増減。候補者不足に陥る要因はそこではなく社会増減のようです。

 まず都道府県単位でみれば東京(圏)一極集中と地方の過疎化が挙げられます。近年、定数を削減したのが小さめの県が中心であるのが証左といえましょう。

 また都道府県内でも一極集中がみられます。概ね県庁所在地の人口が増えたり下げ渋っているのに対して周辺部の減少が顕著。さらに東北・東海・九州という広域の地域で観察すると各々仙台市、名古屋市、福岡市の社会増が観察されるのです。

 公職選挙法は都道府県議会議員の数を「人口に比例して、条例で定めなければならない」としています。ゆえに社会増(ないしは下げ渋り)が起きやすい中心部の定数を増やすか維持するかする半面で減る周辺部を削減するか合区するなどの措置を取るのが一般的です。総務省が指定する「過疎地域」は市町村ベースで実に半数を超えています。

 とはいえ議員のいない地域はあり得ないため周辺部の多くが削りようもない「1人区」。ここに候補者不足つまり1人しか立候補しない現象が近年増加しているのです。

 選挙は元来現職有利。過疎地はただでさえ声を届ける手段が乏しいため当選を重ねる候補者にイデオロギーを超えて期待しがちです。「重鎮になってほしい」と。ために最初から負け戦とわかっていて挑戦する新人が出にくい。人間関係が濃密なだけに乱を起こすのかと白眼視されかねません。

 本来は合区すべきほど人口が減っても公選法は地方議会議員には「特別の事情があるときは」「地域間の均衡を考慮して」定数を決められるとあるため1人区が維持されるケースも多くみられるのです。合区は隣接選挙区で行われますが、生活圏が異なって適切ではないとの事情もままあります。

近年目立つ定数が多い選挙区に候補者が出にくい理由

 近年は定数10人といった「多い選挙区」ですら定員ピタリの候補者しかなくて無投票になる状況も発生。こちらは都道府県議の位置づけと密接に関わってきます。

 都道府県議の職は国会議員になるための王道コースの1つ。国政政党もまた主に総選挙を想定して公認候補とするのが普通です。定数が多いと比較的小さな国政政党でも議席が取れるため当選可能な候補者数で勝負してきます。

 国政政党は大なり小なり組織票を持っているため「10人のうち1人ならば滑り込める」などと計算して結果的に棲み分ける格好となるのです。ここに組織を持たない新人が割り込む余地は限りなく小さいため諦めてしまいます。

そもそも何をする者なのか明確でない

 そもそも都道府県議とは何をする者なのか明確でないという根源的な課題も横たわっているようです。

 知事ならばイメージしやすい。都道府県庁を率いる行政のトップと。では議員は? 憲法には「議事機関」とあるのみ。地方自治法だと市町村は「基礎的な地方公共団体」と明確に位置づけられていて地域のことは地域で決める主体です。

 対して都道府県は別に市町村の上位にあるわけでなく市町村の区域を超える「広域事務」と市町村同士などの「連絡調整」および市町村が事務を執り行うには適当でない何かを「補完」すると相当あいまい。

 学級委員みたいな感じです。でも学級委員としたら知事が思い浮かびますよね。

 こうしたあいまいな位置づけから選挙の競争率も低く約1.34 倍。「1」になったら無投票ですから都道府県議選は激戦区も含めて全体として低調なのです。

政令市選出の議員にどんな役割を果たせるのか

 ここに全国20の政令指定都市(政令市)との重複問題が加わります。政令市は人口規模の大きさが指定の必要条件で基礎自治体の機能はもとより都道府県の権限まで多く委譲されているのです。都道府県議定数は前述の通り原則人口比例だから政令市の割り当ても多くなります。

 ここで矛盾が生じるのです。政令市はいわば都道府県から独立しているようなもので、そこでの事務は当該市長と市議が受け持つ。となると政令市選出の都道府県議は何の役割を果たすのかハッキリしない上に数は多いときています。

 イギリスの法律家ジェームズ・ブライスの「地方自治は民主主義の最良学校であり、その成功の最良の保証人である」は広く知られた言葉。有権者が1票を投じられない無投票拡大は根幹を大きく揺るがせてしまうのです。

※注:1972年から沖縄県議会議員数を加える。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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